通訳クラブ

会議通訳者の理想と現実

×はバッテンにあらず、○は・・・?

2009年10月19日 | 『毎日フォーラム』コラム
 海外から講師を招いて行われる様々なトレーニングを通訳することがある。役員研修だったり、セールス・トレーニングだったり、認定試験を受けるための勉強会だったりと様々だが、hands-onと呼ばれる参加型の演習を含むことが多い。ある会社のリーダー研修では事例研究case studyを多数使用するのだが、どうやら聞き取れなくても読めるだろうという前提らしく、事例の説明や背景資料が英語のままだった。

 参加者が辞書を引き引き苦労している横で通訳者も同じものをもらって読んでいたら、おっと、これは誤解を生むぞという表記にぶつかった。ある出来事の次第をまとめた表で、商取引の日付や当事者の名前等に続いてキャンセル通知という項目のところに×と書かれている。日本人なら間違いなく「無し」と解釈するところだが、実はこれ「レ」のような形をしたチェックマークと同じものなので「有り」が正解なのだ。よけいなお世話かと思ったが主催者に進言してアナウンスしてもらったら、案の定、会場がどよめいた。そういえば日本では試験の採点でも間違った答えにチェックマークをつけるが、アメリカなど多くの国では正しい答えにつける。○をつけたところは間違っているので注意しなさい、の意味になるのだ。ああややこしい。

 海外製の湯沸かしポットやプリンタなどに時々使われているシーソースイッチには○と|が書かれていて、どちらかが常に押し込まれ反対が浮き上がる形をしている。日本人的には○がオンのような気がするのだがさにあらず、|を押すとオンで○はオフになる。どうも直感に反している気がしてしょうがないが、これは元々二進法で0と1、電源投入無しと有りから来ているのだそうだ。

 ちなみにおなじみゲーム機のコントローラのボタンも、あろうことか海外版では×が「選択」で○が「キャンセル」。英語のサポートサイトには、「アジアで買ったゲーム機は○と×が逆です」という注意書きがあったりする。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2009年10月号掲載)