実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

新型インフルエンザ

2009-10-08 15:41:01 | 日記
 損害賠償の合意の続きの前に,ちょっと身の回りの出来事について

 ついに,私の小学5年生の長男が新型インフルエンザに罹患したようである。発熱後,2,3時間のうちには病院に連れて行ったであろうか。
 ところが,発熱後2,3時間程度では,たとえインフルエンザに罹患していたとしても,インフルエンザの検査結果は,陰性にしか出ないそうで,医者によれば,発熱後10時間くらい経過しないとインフルエンザを検出できないのだそうである。
 しかし,子供の通っている小学校でも(新型)インフルエンザが流行っていること,しかも,数日前に行われた学校行事である野外活動の終了後に,その学校で極端にインフルエンザが増えているらしいこと,私の子供の症状も,時期的にこれに重なっていること,39度以上の高熱が出たことなどの様々な状況からすると,まず十中八九,新型インフルエンザであることは間違いがないと思う。そのため,インフルエンザは検出できなかったが,念のため,タミフルを処方してもらった。結果,翌日の夕方には,熱は37度前半にまで下がり,とんど治まったといってもよくなった。

 問題だったのは,タミフルの処方についてだけ,健康保険が使えなかったことである。おそらく,上記のようにインフルエンザが検出できていないので,インフルエンザ罹患という確定診断ができない以上,健康保険を使ってタミフルを処方することはできないということなのだろうと思う。そのため,タミフルの処方だけ,自費診療という形になってしまったのである。しかし,医者だって,確定診断はできないとしても,(新型)インフルエンザの「疑い」は当然もっていたはずである。

 ここで,私の仕事上のことで思い出したのが,半年程度前のことであったと思うが,ある開業医の依頼で,社会保健医療担当者に対する個別指導に立ち会ったときのことである。保険医療機関及び保険薬局は療養の給付に関して,保険医及び保険薬剤師は健康保険の診療又は調剤に関し,厚生労働大臣の指導を受けなければならないこととされているが(健康保険法73条等),これを根拠とする個別の保健医療担当者に対する行政による指導である。法律に基づいているので,行政法手続法上の「行政指導」とは違うのであろう。
 あくまでも「指導」の形ではあるが,「個別指導」という形での指導においては,実質的には単なる教育的な指導ではなく,診療報酬請求明細書(レセプト)の内容が杜撰であることが疑われる保健医療機関に対して,保険点数の付け方(ひいてはレセプトの内容)についての間違い探により診療報酬の返還が求められることが常態のようで,極端には,(もちろん,そんなことは滅多にないらしいが)内容があまりにひどい場合には保険医療機関の指定の取消の可能性にまで発展しかねないらしい。そのため,「個別指導」においては,弁護士の立ち会いを求めることもあるのだそうである。
 余談であるが,依頼者である医者は,自らはおかしなレセプトを書いたつもりはないらしく,患者からのクレームもないという。そのため,なぜ「個別指導」を受けなければならないのか疑問だったらしく,そのこともあって,弁護士の立ち会いとして私に依頼してきたのである(結果的には,多少の診療報酬の返還には応じざるを得なかったようであるが,たいした問題にはならなかった)。
 この「個別指導」においてまず問題にされていたのが,「疑い」診断だけで「治療」をしていたことであった。中には,事後の最終的な確定診断もしないままの患者もいたようである。これらに対しては,できるだけ確定診断後に治療をするような「指導」があったと記憶している。ただし,この「疑い」診断による治療に関する問題で診療報酬の返還を求められるまでには至らなかったと思う。

 要するに,詳しいことまでは分からないが,本来,確定診断をせずに「疑い」だけで「治療」をするのは,レセプトとの関係で問題があるらしいのである。私の子供の件でもそのことがいえる。
 だが,新型インフルエンザについては,流行性のインフルエンザよりも毒性が強いという話もあり,場合によってはタミフルの予防的投与の必要性もあるのではないかと思う。ウイルス性肺炎(細菌性肺炎ではないので,抗生物質が全く効かないらしい)で重傷化あるいは死亡する事例があることを前提に,予防的投与のことを問題にしていたテレビ番組も見た記憶がある。しかし,これら予防的タミフルの投与がみな自費診療とされてしまうと,患者としては思わぬ負担となってしまうし,さらにいえば,予防的タミフルの投与が保険の使えない診療だとすると,(詳しいことは分からないものの)いわゆる「混合診療」の問題も出かねないのではないだろうか。
 新型インフルエンザは,流行性のインフルエンザよりも毒性が強いともいわれているが,まだ「疑い」の段階かもしれない。仮に強いとしても,「本番」と目されるであろう鳥インフルエンザの毒性とは,比較にならないほど弱いはずである。もしこれが,強毒性といわれている鳥インフルエンザだったらどうするのだろうか。インフルエンザの検出を待ってからのタミフル投与では,既に「手遅れ」であることもあり得よう。

 結局,何を言いたいかといえば,法律というのは,硬直的であってはならないということである。もし,健康保険法その他関連法規を厳格運用すると,治療が間に合わないというのでは,本末転倒である。私の子供も,確定診断ができる時間になるまで待っていては,より症状の回復が遅れた可能性もあったかもしれないのである。
 健康保険法という法律は,我々法律家にとってはかなり特殊な法律分野であるが,民法,刑法その他の裁判法規も,硬直的であってはならないというのは,同じだと思う。自らに対する教訓でもある。
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