時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

パリ同時多発テロ事件の背景2

2015-11-17 00:12:50 | 中東
大体、どこの国も似たり寄ったりの中身のないコメントをする中で、
シーア派(イスラム教の一派。イランの国教でもある)の権威の一人、
マカーレム・シーラーズィー師のコメントは、他とは少し違う意見を言っている。

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イスナー通信によりますと、マカーレム・シーラーズィー師は、
15日日曜、テヘラン南方のゴムで行われたイスラム法学の講義の初めに、

一部の国がISISなどのテロ組織を支援していなかったら、
 その根絶は困難なことではなかった
」と語りました。


また、西側、特にアメリカの偽善的な対テロ政策を非難し、
「アメリカはテロリストを訓練するために要員を送り、
 サウジアラビアなど一部の中東諸国はテロリストに資金や武器を提供している」

としました。

さらに、残念ながら、一部のイスラム諸国はISISを全面的に支援しているとし、
「イスラム共同体は目覚め、手を取り合い、
 タクフィール主義とテロリストを根絶すべきだ」
としました。


13日金曜夜から14日土曜未明にかけて発生したパリでの同時多発テロで、
およそ130人が死亡、300人以上が負傷しました。

このテロに対し、ISISが犯行声明を発表しています。

http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/59800
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ここでシーラーズィー師が言及しているタクフィール主義とは何なのだろうか?

簡単に説明すると、ある人物をタクフィール(教えに背いた信者)と宣言し、殺害する
イスラム過激派の一派のことで、犠牲者は主にシーア派だ。イランはシーア派の国なので、
彼らにとって、タクフィール主義者は脅威以外の何者でもない。

このタクフィール主義者たちを「シリアの反体制派」とみなして
協力・支援していたのが他ならぬフランスだったのである。


アサド大統領が「フランスの市民が受けた苦しみはシリアの市民が5年前から受けてきた苦しみ」
と語っているのにも納得がいくのではないだろうか?

(ちなみにシリアはスンニ派が7割を占めるが、アサド自身はシーア派の生まれ)

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アサドはパリに向けたテロリストたちの攻撃は、他の地域で起きた事件と同様に、
最近ベイルート(※レバノンの首都)で起きた事件や、この5年間でシリアで起きた事件と
切り離すことは出来ないと強く主張した。テロリズムは世界的なものであるとアサドは付け足した。

アサドは
「西側国家によって、特にフランスによって行われた悪しき政策は目下、シリア一帯で進行中だ。
 テロリズムが急速に広がった原因はまさにそれであり、
 これは何人かのテロリスト集団の帰還に彼らが目を閉じていたことに触れるまでもない。」
と強く主張する。

(中略)

昨日、アサドは愛する人を失ったフランスの家族に対して哀悼の意を捧げた。アサドは
「過去5年間、テロに苦しんできた自分たちこそ最も彼らと近い存在であり、
 この状況を一番理解できるのだ」と主張した。

「我々は3年前から、将来ヨーロッパで起きるだろうことについて警告してきた。
 シリアを分断すべきではない、なぜならその結果は後々世界規模のものに発展するからと。
 不幸にも、ヨーロッパの政府は我々の言葉に全く関心を向けなかった。
 それどころか、このことを言うことで我らが彼らを脅していると言ったのである。」

「さらに彼らはシャルリーエブドの攻撃から何も学ばなかった。
 我々はテロリズムに反対するという声明を単に響かせるだけでは意味がない。
 彼らはテロリズムと戦わなくてはならないし、政策を正さなければならない。」

http://syriatimes.sy/index.php/presidential-activities/
20650-terrorist-organizations-acknowledge-no-borders-
underscored-h-e-president-al-assad

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アサドの言うように、タクフィール主義者の凶行がシリアだけでなく
自国にも跳ね返ってきている今、フランスは自国の軍事政策を変えるべきだ。
ところが、今回の事件を受けて、あろうことか現政権は更なる空爆を行うことを決定した。

「フランスはテロ組織「イスラム国(IS)」(ロシアでは禁止されている組織―インターファクス)
 に勝利するために、ISの全ての拠点を爆撃する。ジャン=イヴ・ル・ドリアン国防相が述べた。

 「この<疑似国家>の活動には、石油ターミナルからの利益が必要だ。
  そこに毎日貨物車が集まっている。イスラム過激派は武器を買い、それで行動を行っている。
  他にも色々な施設があり、我々はそれらに攻撃を行っていく」。
  ジュルナル・ドュ・ディマンシュのインタビューに対して語った。

 フランス空軍は今年9月シリアのIS拠点への空爆に踏み切った。未確認情報だが、
 パリのテロについて犯行声明を出しているISは、これを「シリアの復讐」だと述べている。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/politics/20151116/1171200.html#ixzz3rfSgLpkF」

このように全く反省していない。

皮肉なのは、これをサルコジ前大統領を初めとする保守派が台頭していた時期ではなく、
社会党という社会民主主義の政党が政権を握っている時代に発言されているということ。
サルコジだろうとオランドだろうとやってることは変わらないのかと愕然としてしまう。

とはいえ、このタクフィール主義者の正真正銘のボスはサウジアラビアだろう。
サウジは一貫してタクフィール主義者を支援しているし、彼らもまたサウジのために動く。

例えば彼らはパキスタンのペシャワルに、タリバーンやアルカイダのための神学校を作り、
そこから過激派を主に反サウジの中東国家に送り出し、同国の影響力を現地に広めようとしてきた。

個人的には、中東のテロリズムを食い止めるにはサウジアラビアを何とかしなければならないと思う。

北朝鮮がどんなに危険な国だと言われても、所詮は実験段階の核兵器を
所有しているだけの貧乏国家だが、サウジは正真正銘のテロ支援国家だ。
おまけにイエメンに軍事侵攻もしている。


サウード家という王族が支配する独裁国家でもある。
(サウード家のアラビアだからサウジアラビア。名前からして封建的)

実のところ、サウジアラビアとISIS(イスラム国)は深い関係にある。

サウジは以前からシリアのタクフィール主義者が結成するテロ組織を支援しているが、
この中の一つが「イラクとシャームのイスラム国」(つまりISIS)だったのだ。

9.11事件を起こしたアル・カイダが元々はソ連がアフガニスタンを侵攻していた時代に
アメリカによって支援されていた武装組織であったことは有名な話だが、
全く同じパターンで、ISISも元々は外国の支援を受けたタクフィール主義者のグループだった。

だからこそ、初めに紹介したシーラーズィー師もアサド大統領も
ISISではなく、タクフィール主義という言葉をもって非難の言葉を送っているのである。

米英仏等の西側国家は、タクフィール主義者のグループを利用してアサド政権を潰そうとしたが、
彼らが残酷な事件を起こすようになってくると、今度は彼らと敵対する道を選んだ。

この極めて身勝手な振る舞いについて、アルゼンチンのフェルナンデス大統領は、
昨年9月の国連総会の場において、次のように語っている。


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「我々は、昨年もここに集まり、あなた方はシリアのアサド政権は独裁政権であると主張した。
 当時、あなた方はシリアの反体制派を支援していた。

 あなた方は革命家を主張する反体制派を支援していたが、現在はどうしたことか。
 我々は再びここに集まっている。
 だが今度は、昨年まであなた方が支援していた革命家たちを弾圧するためである。

 ただし、今年、我々は、その革命家たちがテロリストであることを確信している。
 そのためあなた方は今、
 昨日まで革命家と呼ばれていたグループの多くが実際は活発なテログループであること、
 彼らが過激派から非常に過激的なグループに立場を変えたことを悟っているはずだ」

「ISISやアルカイダは、どこから武器を手に入れているのか?
 最近まで、自由を求める闘争家であった人々が、今はテロリストである」

http://japanese.irib.ir/component/k2/item/54169-%
E8%A5%BF%E5%81%B4%E3%81%8Cisis%E3%81%AE%E6%B6%88%E6%B
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ISISがムスリムにとって仇敵であるはずのイスラエルに対して全く攻撃しないのも、
元々同国を支持するアメリカやサウジの回し者だったことを思えば当然の反応である。

ISISが直接殺しているのはシリアやイラクの民衆および無関係の外国人であり、
アメリカやサウジ、イスラエルに飛んでテロを起こしたりはしない。

そういう意味では今回の事件はISISが直接、元スポンサーを狙った最初の事件でもある。
(本当にISISが関与していればの話だが)

フランスは過去の軍事政策を修正し、シリアに干渉するのを止めるべきだ。
(前の記事にも書いたがシリアは元々はフランスの植民地だった)

日本ばかり責められているが、大戦後、自分たちの植民地支配の歴史を認められず、
いつまで経っても旧宗主国として圧力をかけているのはフランスもまたしかりなのである。


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