時事解説「ディストピア」

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映画評『高江―森が泣いている』

2016-10-20 23:42:01 | 軍拡
沖縄の東村高江で起きた警察の民衆弾圧を活写したドキュメンタリー映画『高江―森が泣いている』が
先週の土曜から東京のポレポレ東中野というシアターで上映されている。

映画だけでなく来週の月曜までは、トークイベントも開催されており、
監督や現地の反対運動家、9条の会などの市民運動家の話も聞くことが出来る。


朝鮮新報でも試写会に参加した記者が次のレポートを載せていた。


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すさまじい暴圧の現場/映画「高江ー森が泣いている」藤本幸久・影山あさ子共同監督



警察・機動隊、海上保安庁を前面に立てて、
反対する人たちを力ずくで抑え込みながら、辺野古の米軍新基地工事を推し進める日本政府。

その暴挙は止まることなく、今夏、沖縄本島北部の東村高江のヤンバルの森でヘリパッド建設を再開した。
この作品は高江の住民たちの不屈の抵抗の記録である。


辺野古の海が珊瑚とジュゴンが生息する美しい海ならば、
高江の森は天然記念物のノグチゲラやヤンバルクイナも棲む自然の宝庫。

その森に米軍の北部訓練場がある。高江の人口は140人。
ここに、6ヵ所のヘリパッド建設が07年に始まったが、住民たちは座り込みで抵抗。
4ヵ所はまだ作られていない。


新たなヘリパッドは、海兵隊の新型輸送機・オスプレイのためのもので、
従来のヘリコプターよりも騒音も墜落の危険も上回る。


この小さな集落に日本政府は東京、神奈川、愛知、福岡など
全国の機動隊、警察、防衛局職員ら1000人と警察車両を大動員し、
工事に反対する住民たちを暴力的に排除、住民たちのテントまで破壊した。

現場はまるで戒厳令下の様相を呈する。

この映画には、圧倒的な警察権力で人々を押さえ込もうとするシーンが随所に映し出されている。
怒号と悲鳴。真夜中から明け方にも及ぶ警察の制圧作戦と住民たちの抵抗。

警察の暴力で、傷つき、倒れる住民たち。
それでも、救急車を呼ぼうとしない機動隊の非人間性が浮き彫りにされていく。

「記録なくして事実なし」という監督の執念が人々の闘いを熱く支え続ける。

それにしても、自国民をこれほどまで徹底的に痛めつける「警備」がありえるのか。
憲法が保障する集会の自由も基本的人権も表現の自由もここには存在しない。

まるで戦争前夜のような、反対派への牙をむき出しにした弾圧が
容赦なく襲いかかる無法地帯、それが高江なのだ。

http://chosonsinbo.com/jp/2016/10/1012ib/
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問題の映画を見て、ウクライナ南東部で起きている政府軍の住民弾圧を思いだした。


ウクライナの首都キエフでクーデターが発生し、ネオナチも中心となって暴力的に新政権が誕生したことを
きっかけに、クリミア自治共和国やドネツク・ルガンスク州で分離運動が活発化した。

どちらも住民投票を実施し、極めて民主的なプロセスを経て独立を宣言したわけだが、
ロシア軍が存在しないドネツク・ルガンスク州に対し政府はテロ討伐を名目に空爆を開始、
学校・病院・教会・民家、ありとあらゆる建造物を破壊し、大量の死傷者と難民を発生させた。



住民投票が行われた当日、ウクライナ兵が投票所を占拠、
これに抗議した住民に発砲、死者が生じた事件は未だに覚えている。



高江で起きていることは、かつてドネツク・ルガンスクで起きた暴力そのものだ。


座り込み運動をしている村民を警察車で撥ねた警官が、顔色ひとつ変えずに知らんぷりを決め込む。
それを当たり前に受け入れる無数の警官。無抵抗の市民をかつぎ上げ、強引に排除する機動隊。


2016年7月22日に起きた弾圧事件は、「沖縄の基地負担を軽減する」
という政府の言葉が大嘘であることを白日の下にさらしてくれた。



先日、抗議者を「土人」と機動隊員が呼んだことがニュースになったが、
機動隊に表象される日本政府は高江村民を同じ人間だとは思っていない。

トークイベントでは、この映画が撮られた後のことについても語られた。
その話によると、数日前に警察に逮捕された人間が出てきたらしい。

つまり、この映画で語られた国家の暴圧は始まったばかりだということだ。

安倍晋三は先日の所信表明演説で、
高江のヘリパッド建設を終わらせる、先送りは許さないと熱弁をふるった。


今後はウクライナのポロシェンコ同様に、
自国の抗議者を「親中派」とか「反日」といったレッテルを貼って
ありとあらゆる直接的・間接的攻撃を加えていくのではないだろうか。


こういう事態をテレビ局や新聞社がもっと強く訴えるべきなのだが、
実際に彼らがやっていることと言えば、事件の隠ぺいである。伝えないことで隠す。

数年前、民主党政権が誕生した直後、新聞社もテレビ局も
「沖縄の声を聞けー!!」と言わんばかりに鳩山首相(当時)を責めていたが、
何のことはない、自民党政権になった途端にパタリと抗議の声をやめてしまった。


結局、彼らにとって大事なのは鳩山由紀夫の辞任であり、
沖縄がどうなろうが知ったこっちゃない、より正確に言えば、
日米軍事同盟の維持・強化のために移設は容認されても仕方がないとさえ言いだした。


そういう風潮にある今、本作が制作された意義は大変高いものだろう。
映画は28日まで上映されている。もし時間に余裕のある方がいるならば、ぜひ視聴してほしい。