瀧澤美奈子の言の葉・パレット

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実社会対応研究、ゆるいシンクタンク機能への期待

2016年08月27日 | 今日の出来事
 先週の8/25(木)、東京大学の伊藤謝恩ホールにて開催されたシンポジウムについて、記録として幾つかのポイントをまとめておきたいと思います。

 この日開催されたシンポジウムは、日本の研究費予算をファンディングする2大機関のうちの一つである学術振興会による人文学・社会科学への助成プログラム
「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業 実社会対応プログラム」の成果発表会です。
 すでにこのプログラムの枠組みで3年間の研究を行って一定の成果を得た2つの研究事例を発表し、ノウハウを共有する目的で開催されました。

 結論を先に述べますと、当日の議論のなかで特に印象に残ったのは、

1.人文学・社会科学の研究者と実務家(*)との協働による研究活動は、客観中立かつ現実を踏まえた学術として行われる場合、エビデンスに基づいた政策形成にとって大変有効な場合がある。
2.その場合、「ゆるいシンクタンク機能」としての期待が持てる。
3.エビデンスに基づいた政策の実行の重要性に鑑みて、このような研究により得られた知見を社会と広く共有することが重要(というのはパネルでは明示的には言いそびれましたが私の感想)。

*ここでいう実務家とは、課題解決を必要とする社会の現場にいる専門家のことで、例えば弁護士、行政官、企業担当者、各種NGO関係者などを指します。

 そもそも、研究者が実社会で現在起きている課題の解決に何か役立つことをしようと思った時には、机上の空論でなくするために、実務家とコンビを組んで現実に即した研究をする必要があります。
そこで、人文学・社会科学の分野でそのような研究を特に後押ししようと始まったのが本プログラムでした。
第1期(3年間)の研究期間が終了したところで、実務家との巡り合いや研究テーマ設定の仕方など、まだまだ手探りの部分も大きいですが、このような研究の枠組みの有効性が見えてきたのではないか、という気がしました。


 とくに社会科学では、実社会の問題を扱うことが多いと思いますが、どこかの省庁の紐付きだったり(省庁にとって受け入れ難い研究結果は無視される傾向)、はたまた全く現実を無視したもの(研究成果が実務者から見るとすでに解決済みのものだったり)ということが散見されるなかで、学術振興会という客観中立の立場からの助成により学術の一環として行われるこうした研究は、大変に意義のあるものだというのが助成を受けられた先生方の感想でした。

ちなみにシンポジウムで紹介された2つの研究事例は以下の通りです。

・少子化対策の政策検証をどう行ったか(中央大学 阿部正浩教授)
 これまでに行われてきた少子化対策を検証し、「少子化の抑制に一定の効果はあったが全体として出生率には影響していなかったこと」を示し、「政策資源投入の配分に問題がある」と結論づけた研究。
 その初期段階で、厚労省の行政官による少子化対策についてのレクチャーを複数回受けたこと、また結果について情報共有をした、というもの。
とはいえ、阿部先生はもともとこの分野について明るいですし、その行政官の方とも20年来のお知り合いだそう。今回の研究は「紐付きでない」という点がポイントではなかったかと思います。

・短期賃貸借保護制度撤廃が競売市場に与えた影響の実証分析ー法改正前後の比較ー(政策研究大学院大学 福井秀夫教授)
こちらは少し経緯から説明する必要があります。 競売市場に機能不全をもたらし、また暴力団の資金源手段として、戦後から長く法的根拠を与えていた短賃保護制度と最低売却価格制度。福井先生は弁護士の声をもとにこれらの法律の不条理を正すため、理論的分析により改正案の政策提案を行い、それぞれ2004年、2005年に議員立法で法改正を実現しました。
 本研究では、実際にこれらの法改正が有効に機能しているかどうかを実証的に分析し、特に短賃保護制度の撤廃が「落札価格を正常価格に大きく近づける効果を持った」ことを示しました。
 実際に法改正の必要性のあるような問題というのは公式文書には現れないので、弁護士さんの肌感覚が非常に重要ということでした。福井先生のほうも、長年この分野で弁護士さんの現場の声を聞きながら研究を行ってきた経緯があります。
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