みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

「タイムスリップ6」

2014-08-29 20:33:12 | ブログ短編
 その日は夜遅くまで、歓迎会(かんげいかい)と称(しょう)して飲めや歌えの大騒(おおさわ)ぎになった。母親は、ご近所から苦情が来るのではないかと気を揉(も)んた。娘の方は早々(そうそう)に切り上げて、二階の自分の部屋へ引っ込んだ。だが、階下(した)がうるさくてなかなか眠ることができない。
 ――どのくらいたったろう、侍(さむらい)が目を開けると、そこは婚礼(こんれい)の宴(うたげ)の席だった。目の前には料理の膳(ぜん)が並(なら)び、見知った親戚(しんせき)連中や仲間たちが、これまた飲めや歌えの大騒ぎをしていた。侍は、ふと隣(となり)の席を見た。そこには見知らぬ女性が座っている。俯(うつむ)き加減(かげん)でいるので、長い黒髪が邪魔(じゃま)をして顔がよく分からない。
 はて誰だろうと、侍はその女性の顔をしげしげと見つめた。女性もその視線を感じて、ますます下を向く。たまらず侍は声をかけた。女性は反射的に侍の方へ身体を向けて、
「あの、こんなあたしでいいのでしょうか? あなたの妻(つま)として――」
 侍は女性の顔を見て首を傾(かし)げる。どこかで見たことのあるような…。でも、はっきりとは思い出せない。侍は、この人が自分の妻なんだと納得(なっとく)して彼女に言った。
「こちらこそ、こんなむさ苦(くる)しい家に嫁(とつ)いでくれて、ありがたい。本当にありがたい」
 ホッとしたように女性の顔に笑みがこぼれる。――その顔、着物姿ではあるが、それは紛(まぎ)れもなくあの娘の顔と瓜二(うりふた)つであった。
 突然、悲鳴(ひめい)が響(ひびき)き渡った。ベッドから飛び起きた娘は荒(あら)い息をしている。あまりにもリアルな夢を見たようだ。娘はベッドから飛び出すと、階段を駆(か)け下りた。
<つぶやき>娘もタイムスリップしちゃったんでしょうか? それとも、ただの夢なの?
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「タイムスリップ5」

2014-08-26 19:10:29 | ブログ短編
 彼女の家はそれほど大きな家ではない。小さな庭(にわ)がついていて、この辺(あた)りではごく普通の家だ。侍(さむらい)の男は門のところの表札(ひょうさつ)に気がついた。そこには〈吉田(よしだ)〉と書かれていた。
 しばらく待っていると、彼女が戻ってきて家の中へ招(まね)き入れた。汚(よご)れた足をすすいだり、物珍(ものめずら)しげにあちこちと眺(なが)めたりで、狭(せま)い家なのに座敷(ざしき)まで辿(たど)り着くのに時間がかかった。座敷ではこの家の主人、つまり彼女の父親が、かしこまって座っていた。
 父親は、侍が座るのを待って深々と頭を下げると、「ご先祖(せんぞ)様、ようこそいらっしゃいました。また、こうして再会できましたこと、嬉(うれ)しく思っております」
 父親の言葉に驚(おどろ)いたのは娘だ。「この人、なに言ってるの?」って顔をして、父親の方を見た。侍も首を傾(かし)げて、これもまた、父親の顔をまじまじと見つめる。
 娘は、「お父さん。この人、知ってるの? 会ったことあるってこと」
「ああ、父さんがお前くらいの年の頃だったかな。突然、父さんの前に現れて――」
「わしは知らんぞ。おぬしとおうたことなど一度も無い」
「そうですか。やはり記憶(きおく)には残らなかったんですな」
 父親は残念(ざんねん)そうに言った。「あの日以来(いらい)、私はこの家の家系(かけい)を調べるのにはまりまして。本家筋(ほんけすじ)の親戚(しんせき)を回って、古文書を集めたんです。そしたら、ご先祖様のお名前を見つけることができました。ご先祖様が書き残した、日記のようなものも発見できたんです」
<つぶやき>ほんとにご先祖様なんだ。でも、もしかして幽霊だったりするかもしれない。
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「タイムスリップ4」

2014-08-20 20:36:24 | ブログ短編
 二人は家まで並(なら)んで歩いた。誰とも出会うことはなかったが、もし誰かに見られたらどうなっていたことか。彼女は気が気でなかった。
「ねえ、どうしてそんな格好(かっこう)してるの? その刀(かたな)って、本物じゃないよね」
 彼女は一番気になっていることを訊(き)いてみた。侍(さむらい)の男は首を傾(かし)げながら、
「わしも訊きたいんじゃが、どうしておぬしはそんな格好をしておるんじゃ。わしは始めて見たぞ。いや、かぶいておるなぁ。まるでお館(やかた)さまのようじゃ」
「えっ、これは制服だよ。なに言ってるの? ちゃんと答えて。あなた一体(いったい)誰なの?」
「あっ、これはいかん。まだ、名乗(なの)っておらんかったの。わしは、吉田勘三(よしだかんぞう)と申(もう)す。お館さまの家来(けらい)で…、家来といってもずっと下の方じゃがの」
「お館さまって、誰のこと? もう冗談(じょうだん)ばっか言ってると、ご馳走(ちそう)してあげないから」
「いやいや、冗談ではないぞ。おぬし、お館さまのことを知らんのか? 信長(のぶなが)様じゃ。今、安土(あづち)にお城を築(きず)いておってな。これがまた、ものすごい――」
「あのさ、ふざけないで。今は平成(へいせい)よ。安土城なんてもうどこにもないの」
「平成? そんな年号(ねんごう)は聞いたこともないぞ。今は天正(てんしょう)四年の――」
 二人の会話は食い違(ちが)うばかり。そうこうしているうちに家に着いてしまった。仕方(しかた)なく会話を打ち切った彼女は、侍を外へ待たせて家の中へ入って行った。
<つぶやき>時代を動かしたのは、歴史に名を残した人だけではない。名もない人も…。
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「タイムスリップ3」

2014-08-18 19:39:07 | ブログ短編
 コンビニの駐車場の隅(すみ)でおにぎりを頬張(ほおば)るお侍(さむらい)。それを不思議そうに眺(なが)めている女子高生。何とも奇妙(きみょう)な取り合わせだ。お侍の男は、おにぎりを美味(おい)しそうに食べながら、
「これはうまい。この巻かれている黒い物はなんじゃ。それに、中に何か入っておるぞ。これは、魚か? おお、いい塩加減(かげん)じゃ。これは、じつにうまい」
「それ、鮭(しゃけ)のおにぎりよ。おじさん、食べたことないの?」
 おにぎりの取り出し方も分からなかったのだ。食べたことがあるわけがない。お侍はおにぎりを食べ終わると、物足(ものた)りなげに彼女を見つめて言った。
「すまぬか…。もう少しばかりいただけぬか? 勝手(かって)を申(もう)してすまぬ」
「えっ…。でも私、もうお金ないよ。ほら」彼女は財布(さいふ)の中を見せた。
「あ、すまなんだ。金ならわしが出そう」
 お侍はそう言うと、懐(ふところ)から薄汚れた巾着(きんちゃく)を取り出して中へ手を突(つ)っ込んだ。そして、じゃらじゃらと何かをつかみ出すと手を広げて、「如何(いか)ほどじゃ。これで足(た)りるかの?」
 彼女は目を丸くして言った。「何これ? こんなんじゃダメよ。冗談(じょうだん)はやめて」
 お侍は大きなため息をつくと、「おお、そうじゃな。こんなうまい物がはした銭(がね)で買えるわけがない。わしはとんだことを…。散財(さんざい)をさせてすまぬ」
「もうやめてよ。――じゃあ、家に来る? 助けてもらったし、ご馳走(ちそう)してあげる」
<つぶやき>この男は本物の侍なのか。だとすると、なんで現代に現れたのでしょうか。
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「しずく20~幻覚」

2014-08-15 09:17:35 | ブログ連載~しずく
 その日の授業(じゅぎょう)も終わり、月島(つきしま)しずくはひとり職員室の前にいた。しずくは憂鬱(ゆううつ)な顔をしてため息をつく。何で私だけ呼び出しなの? 私、何かした?
 しずくは職員室の扉(とびら)を開けた。いつもなら、まだ先生がいるはずなのに誰もいない。しずくは小さな声で、「失礼します」と言って中へ入った。柊(ひいらぎ)先生の席まで行ってみるが、先生はいるはずもなく…。しずくはひとり呟(つぶや)いた。
「何でよ。来いって言ったのに、何でいないの? もう、どうしたら…」
 その時だ。背後(はいご)に、何か冷たい気配(けはい)を感じた。しずくはとっさに振り返った。一瞬(いっしゅん)にしてしずくの顔から血の気が引いて、彼女はその場にへたり込んでしまった。しずくの後ろに立っていたのは、あの時の暴漢(ぼうかん)の男。警察に逮捕(たいほ)されたはずのあの男だ。
 男は不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮かべて、じりじりとしずくの方へ近づいて来る。しずくは襲(おそ)われた時の記憶(きおく)が蘇(よみがえ)って身体が震(ふる)えた。助けを呼ぼうとしても、息(いき)がつまって声が出ない。男は倒(たお)れているしずくの上に覆(おお)い被(かぶ)さるようにして顔を近づけ、ナイフを彼女の目の前にちらつかせた。しずくは抵抗(ていこう)することも出来ず、思わず目をつむる。
「何をしてるの? 早く入りなさい」
 柊先生の声が後ろから聞こえた。しずくが目を開けると、彼女は職員室の入口の前に立っていた。えっ、何で? しずくが呆然(ぼうぜん)としていると、後ろから先生に背中を押された。
「そんなとこに立っていたら邪魔(じゃま)になるでしょ。そんなことも分からないの」
<つぶやき>怖い思いをすると、その時の感覚が急にわき上がってくることがあるのかも。
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