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書評:川口俊和著、『コーヒーが冷めないうちに』&『この嘘がばれないうちに』(サンマーク出版)

2017年05月03日 | 書評ー小説:作者カ行

4月26日から5月2日までスペイン・アンダルシア旅行に行ってまして、その旅行記は別途記事を書くとして、今日は旅行の移動中に読んだ本の書評を書きます。

川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』&『この嘘がばれないうちに』(サンマーク出版)はシリーズになっており、どちらも4編ずつ短編が掲載されていますが、バラバラに読んでも差し支えないようになっています。過去に戻れるという噂の喫茶店が舞台で、「コーヒーが冷めないうちに」はその喫茶店のウエイトレスで、お客さんを過去または未来に送ることのできる時田数(ときた・かず)が呪文のように唱えるセリフです。

プロローグより:

とある街の、とある喫茶店の
とある座席には不思議な都市伝説があった
その席に座ると、望んだとおりの時間に戻れるという

ただし、そこにはめんどくさい……
非常にめんどくさいルールがあった

    1. 過去に戻っても、この喫茶店を訪れた事のない者には会う事はできない
    2. 過去に戻って、どんな努力をしても、現実は変わらない
    3. 過去に戻れる席には先客がいる
      その席に座れるのは、その先客が席を立った時だけ
    4. 過去に戻っても、席を立って移動する事はできない
    5. 過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、
      そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ

めんどうくさいルールはそれだけではない
それにもかかわらず、今日も都市伝説の噂を聞いた客がこの喫茶店を訪れる

喫茶店の名は、フニクリフニクラ

あなたなら、これだけのルールを聞かされて
それでも過去に戻りたいと思いますか?
 

『コーヒーが冷めないうちに』(2015年12月5日発行)は次の4編が収録されています。

第1話『恋人』結婚を考えていた彼氏と別れた女の話

第2話『夫婦』記憶が消えていく男と看護師の話

第3話『姉妹』家出した姉とよく食べる妹の話

第4話『親子』この喫茶店で働く妊婦の話

 

『このウソがばれないうちに』(2017年3月14日発行)は次の4編が収録されています。

第1話『親友』22年前に亡くなった親友に会いに行く男の話

第2話『親子』母親の葬儀に出られなかった息子の話

第3話『恋人』結婚できなかった恋人に会いに行く男の話

第4話『夫婦』妻にプレゼントを渡せなかった老刑事の話

 

この2冊で8回泣けます。とは言えそんなに「お涙頂戴」的なストーリーではなく、比較的淡々と物語が進行します。過去や未来に移動しても現実は変わらないのですが、何より変わるのは人の気持ちです。誤解が解けたり、心が成長したり、心構えや覚悟ができたり。

この8編を通して少しずつ喫茶店の由来や働く人たちの関係や謎が紐解かれていきます。また、過去にこの喫茶店でタイムトリップをした人たちのその後もサイドストーリーとして語られているので、やはりバラバラではなく順番にお話を読んでいくのがより楽しめると思います。

人間、生きていれば心残りや後悔の一つや二つあるものですが、時にそれらは重く心を圧迫し、今後生きていく気力を失うこともあります。当シリーズはそうした心の重しを取り上げ、過去に戻ったり、未来に行ったりすることで、現実を変えられなくても心の整理をする過程を深刻になり過ぎずに描き、かすかな希望を感じさせる物語です。作者の視点が真摯で優しいと感じました。

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