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気が向いたら読書感想を書き、ねこに癒され、ありがとうと言える日々を過ごしたい。

『スイーツレシピで謎解きを』

2017-03-06 12:38:35 | 本の話・読書感想
スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫 (集英社文庫)
友井 羊
集英社


『スイーツレシピで謎解きを~推理が言えない少女と保健室の眠り姫~』 友井 羊 著(集英社文庫)
 うわー……感想書くのめっちゃ久しぶり……どうやって書いてたっけ……(滝汗)
 と自分でビビるくらいにお久しぶりな感想書きです。一番最近に書いたやつって、エア本ミス大賞の選考会のために読んだ候補作の選評で、それこそわたしがいつも書く珍走迷走をできる限り封印して済ました顔でいっちょまえな選評っぽいもの(だから余計に上滑り)でしたから……とほほ。
 さて。わたしこの作品、何でチェックしたんだったかな。Twitterのどなたかのレビューだったか、それともタイトルでホイホイされたか(苦笑)
 いえね、焼きっぱなし専門とはいえちょこちょことお菓子焼いたり固めたりしてるので、それなりに一応の手順は知ってるからね、それでついねw
 でもそんなお気軽な動機で読んだわたしを、終盤見事にびっくりさせてくれました。
 ミステリ好き、お菓子作るの好き、青春小説読みさん、ぜひ。



連作短編集です。そして、日常の謎系です。ていうか、舞台が高校で、高校生らしい日常の中の、いろんなヒトコマにミステリ要素を組み込んだ作品です。
……高校生が主役なのに、学校内に死体がコロコロされるがっつり殺人(ものによっては連続殺人)が出現して警察が来たり来なかったりして、高校生が事件の謎を解いて殺人犯と対峙してはーやれやれ、という物騒なミステリばっかり読んでる人間として、こういうキラッキラした高校生らしい日常の学校生活ってもう眩しくて眩しくて……!どこかで死体の一つや二つ、コロンと出てくる方が安心するってどうなのわたし……。

いやそれはそれとして。
こういうのもたまにはいいっすねー♪とか思ってたら、割とチクチク毒が仕込まれてたり理不尽なことや秘密を暴かれる恐怖があったり、主要キャラも輪郭がはっきりしてるから説明的な部分も苦も無く読めました。

【チョコレートが出てこない】
【カトルカールが見つからない】
【シュークリームが膨らまない】
【フルーツゼリーが冷たくない】
【バースデイケーキが思い出せない】
【クッキーが開けられない】
【コンヴェルサシオンはなくならない】
【マカロンが待ちきれない】

一話ごとに登場するスイーツについて蘊蓄があり、それと理系女子の主人公・菓奈ちゃんによるレシピの化学反応についての理論展開があり(美味しいもの小説はたくさんあるけど、これは珍しい)、それから持ち込まれる謎についての謎解きと人間関係の綾があり。

一通りお菓子を作っていて経験則で認識してることを、化学的な理論で説明されると、ああパティシエが多いのはこういうことが論理的に構築できるぶんミスしにくいからかな?と思わなくもなかった。ジェンダーがどうとか言われそうですが、パティシエールさんはもちろんたくさんいるけどそれ以上にパティシエ氏に有名な人が多いし世界的コンクールで優勝したりするのも男性がほとんどな気がするんですよ、そういうのって、材料の選択から作業工程に至るまでを化学的に筋道立てて構築できるのは女性より男性の方が得意な人が多いからかなって。
ちゃんと理論立てて手を動かせられれば、ミスや出来上がりのムラは少ないと思うの。
わたしみたいに経験だけで、ただレシピ見て「このお菓子はこうして作るもんだ」としか捉えていない人間には、応用はまったくきかない。これの代わりにアレを使ったらどうなるか?という自由な発想ができないんですよね……。

主人公の菓奈ちゃんは、それができる女子高生。だから上達が早い早いw
それと苦手なレシピもたぶん無い。理論的に考えて克服できるから。

そんな菓奈ちゃんは推理能力にも長けていて羨ましい限りなんですが、名探偵となるには決定的に足りない素質があって、それが、話すこと。
吃音。
立て板に水の如く滔々と喋り続ける名探偵がワンサカいるミステリ界において、うまく話せないしそのコンプレックスで人とうまく向き合えない菓奈ちゃんが探偵という設定は、それだけでニッチなところ突いてきたなあと感心するんですが。
彼女自身の性格にも名探偵というには人間的すぎて結構ギリギリな面もあることを、包み隠さず描写するために探偵の一人称にした書きっぷりがお見事です。謎を解いて自分がスッキリするとか仕返しするとか、そういう感情を表情に出してしまうとか、人間的に問題のあるホームズっぽくてマジでギリギリですわ(苦笑)

大方の名探偵は自分の感情と思考の筋道は隠すし、作者もどこが手掛かりだったかなんてなるべく気づかれないように自然に書き進めるじゃないですか。ところが菓奈ちゃんは、今の会話のどこかにヒントがあった、ということを読者に明かしてくれる親切設計w
その分、ガッチガチの謎解きのカタルシスはそれほどでもないかもしれないですが、そのマイナス面をスイーツレシピがカバーしてるので大丈夫、日常の謎というか高校生らしいあれこれこんがらがったことを清冽に解き明かしてくれます。

解説の青柳さんも書いておられますが、白眉はやっぱり最終話のコンヴェルサシオン~ですね。もっとも、そこまでの短編一本一本が効いてるからこそのこの最終話ですが、わたしも青柳さんと同じく「嘘?!」とすぐさま再読しましたとも!
本当だった!ある人物の秘密、登場シーンから読み返してみて、マジでそうなってた!!すげええええええ!!
もうこれだけで、この作品読む価値あると思うよ!

それと、おまけ、が、またしてやられたわ!
こうきたか。という感じで、それ自体は珍しい手法ではないんですが、ここでもポイントは会話。誰かと会話することに何の苦労もないタイプと、どうにもならないくらいに苦手なタイプがいる、それが「おまけ」の形で活きてる。

美味しそうなスイーツの描写に涎を垂らしつつ、どうにも苦いのは、吃音やそういうハンディキャップ、ただ性格的に内気な人に対しても、いじめやからかいのネタにして追い詰めることを何の躊躇もなくやってしまう子供たちの心理。
大人になって社会に出ていろんな人と出会って、そこでようやく個性ということや、ハンディキャップを持って生きる人達に思いを寄せることができるようになるのがわたし達で。
ましてや人間関係がシンプルで世界はそれほど広くない十代までの子供たちにとっては、誰かのハンデなんて自分達の生活を面白くする刺激の一つにしかならないのかも。少しだけ視野の広い、世界の広い子なら必要ない、からかいネタという刺激。
からかわれる側、ハンデによっていじめられる側の子供たちにとって、そんなネタになりそうなことは極力隠したい。でも残酷な同級生は善意からも悪意からも暴き立て追い詰めてくる。
保健室登校でかろうじて学校と繋がろうと努力する子供たち。
菓奈ちゃんはたまたま推理能力が認められたおかげもあって、最初にできた友達がみんな良く出来た人達で吃音を受け止めてくれて、だから菓奈ちゃんも自分と向き合いながら前に進もうと思えたけれども、現実にこんなラッキーな子は少ないでしょうね。
だからまあ、菓奈ちゃんが自分の推理力を内心自慢にする気持ちも分からなくはないですよね。やっと掴んだアイデンティティだから。
そんな菓奈ちゃんの暴走しがちな自尊心を、真雪くんは製菓の知識と腕で、悠姫子ちゃんは鋭い洞察力で、何度もポキポキ折ってあげます。自分だけが高いスキルを持っているわけではないことを思い知らされた菓奈ちゃんはその都度自分を戒めて、またお菓子をつくって二人に食べてもらいます。良い友達ですよね。

ミステリ界には、名探偵だから社会とうまく向き合っていけるタイプのキャラクタがいっぱいいます。
菓奈ちゃんも、推理能力がずば抜けているゆえに、友達との関係性が成り立っているところがあります。本人も自覚してるけれど、だからこそ、謎解きの推理をするときの菓奈ちゃんは自分の心を自制しないといけない。推理で相手より優位に立ちたがる自分の心を。
菓奈ちゃんにとって、推理力は諸刃の剣です。
真雪くんや悠姫子ちゃんに達に支えてもらってることを、感情が暴走しそうなときには思い出せるように、そのためにも吃音が少しずつでも治るように、彼女は努力し続けると思います。そう希望の持てる読後感でした。

さて。わたしも何かスイーツつくろうかな♪
それともケーキ屋さんで美味しそうなケーキ買ってこようかな♡

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