暗闇でインターホンを押したら、ナメクジを押してしまったこと、あるか?

学生時代に出会ったあいつは言った。「健康であること、そして楽しく生きること。アヒルも人間もな。」まったく、その通りだ。

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とりあえず3歳児になったら幸せになる話

2017-05-05 23:55:59 | 日記

J氏という風変わりな男と出会ったことがある。

J氏は40代前半で南米料理店とストリップ劇場に並々ならぬパッションを持っており、南米料理店とストリップ劇場について尋ねればGoogleマップよりも詳細な情報を提供してくれるという、特定の分野にのみ特化したアンドロイドのような男だった。


しかし彼はまた非常に高度なギターのスキルを所持しており、本業は別にあるものの、なにやらCMに曲を提供したりライブで副収入を得たりといった活動もしている、れっきとしたプロのミュージシャンでもあった。


南米料理店で飲み始める時などは必ずテキーラのショットを片手に「っしゃぁ!乾杯や!」と叫ぶや否やライムをかじって一気に飲み干しそのまま謎の香辛料にまみれた謎の肉にかぶりつくという漫画のような食べ方をするので、私はJ氏の本名を知るまでのあいだ心の中で「ONE PIECE野郎」と呼んでいた。


不思議なことに、J氏はいつも楽しそうだった。
いつ何時会っても人生愉快極まりないという顔で、
「今日はどこに飲みに行くか!」
「さっき買った60円の揚げたてコロッケがウマすぎて召されそうになったが生きている!」
「俺はリッケンバッカー(そういう名前のギターメーカーがあるらしかった)の似合う若い女子の踏み台になって死ぬ!」
など、軽快に話しては今にも踊り出しそうな様子だった。


また、J氏は女性によくモテた。
彼がハンサムで長身、四方八方どこから見てもディーン・フジオカといった容貌であるなら、さもありなんといったところであるが、実際はその対極をなすというか、どちらかというと不思議の国のアリスに登場するハンプティダンプティが何らかの深刻なエラーで東洋圏に生を受けましたといった雰囲気で、平たく言うと小太りのおじさんなのであった。


ある日、J氏が強く勧めていた南米料理店で飲んでいた時のことだ。
私は日頃からの疑問を率直にぶつけてみることにした。


「J氏はいつも楽しそうですね。女性にもモテておられる。それはなにか、秘訣というか、そういったものがあるのですか。シャブをキメてらっしゃるというわけではないでしょう。」


J氏はうんうんと何度か頷きながらテキーラのショットグラスを持ち上げ、
「せやねん…俺の家のクローゼットの中には3リッターほどの危険ドラッグが今もな…ってそんなわけあるかい!」
というノリ突っ込みのようなものを披露したが、私は何一つ拾うことができなかった。
J氏のこういったノリに対して江ノ島のサーファーのように滑らかに乗っかっていく人々を何人も見ていたが、その頃の私は「もしこのまま就職できなかったら、生と死を題材にした自由律俳句を詠んで文壇の天下を統一しよう」などと本気で考えていた気味の悪い学生だったので、J氏とはノリどころか根本的に人間性が違うのだと思っていた。
しかし、J氏があまりにも愉快そうであったので、そういった生き方ができるのであれば、少しばかり真似してみたいという気持ちもあった。


「まぁ、あれやね。モテるかどうかは別として。コツとしては、3歳児の精神性を維持することやね。」
と、J氏は突然真面目に語り出した。


「それは幼児退行とかそういったものですか。童心を忘れるな、みたいな感じでしょうか。」
とさらに質問すると、J氏はうーんと首をひねって、
「それは、近いけど、ちょっとちゃうかなぁ。退行って感じちゃうからな。まぁ童心を持っておくのはええことやけど。俺、ガムとかもらうだけでめっちゃ嬉しいし。USJとか大好きやしな。というか、そろそろハイボールに切り替えるわ」
と、突然ウエイターを呼んでハイボールを注文した。



「一番大事なんは、飽き性であることなんよ」
とJ氏は言った。



「3歳児見てるとわかるんやけど、あいつらめっちゃ飽きるやん。即、飽きて別の遊びするやろ。さっきトーマス振り回してたやんと思ったら、気づいたら床に転がって寝てるのに、突然ブランコで遊びたいとか言って起き出すし、夕方なったらEテレ見ながら訳わからんダンス踊って満足そうにしてるやろ。ほんでまた次の日は仮面ライダーごっこして、そのあとトーマス振り回してんねん。基本、あいつら飽き性やねんよ。なんかもう、思うがままやん。なんも、続かんのかい。持続性ゼロかい、みたいな。でもな、俺は、それが人間のほんまの姿なんやと思ってんねん。」


なるほど、と私は相槌を打った。確かに言われてみればJ氏にはそういった特徴があった。


J氏は優れたギタリストであったが、ギターを弾く気が起きない時期は2ヶ月でも3ヶ月でもギターを放り出して一切触らず、プレイステーションにかじりつき、無双シリーズをやり込んでいたという経歴がある。


その話をすると、J氏は「まさにそれやな」と頷いた。


「みんな、ちょっと真面目すぎるねん。なんでも毎日続けないと絶対あかん、今までの努力が無駄になるとか思ってるやろ。だから最初は好きやったことも、イヤイヤ続けたりして、それで嫌いになったりして、なんか本末転倒やろ。あと、人の役に立つことをせなあかんとか思って、やりたくないことやったりするやろ。でもちゃうねん。3歳児そんなん思わんやん。俺なんか、無双シリーズに飽きたら、ギターに戻ろうと思っててんけど、イヤやったからストリップ劇場にハマったしな。マジで3歳児やねん。でも、それが、楽しいんよ。」


J氏は運ばれてきたハイボールを六甲のおいしい水のごとくゴクゴク飲み干してしまった。
「で、こっからが重要やねんけど、俺は『楽しくなること』が人生で一番、大事なことなんやって、自分で決めてんねん。これ、重要やで。というのも、そうじゃない人もおるやん。いや、人生で一番大事なんは『忍耐!』やで、みたいな人もおるやん。色々あるけど人それぞれやろ。人は人で、それでええねん。でも、俺は『楽しくなること』が絶対やから、だからそのためにはなんでもやろう思うねん。だから、イヤになったらやめる!やりたくなったらやる!飽きたら放り出す!3歳児!って感じで生きてるねん。楽しいから。3歳児のモノマネやってんねんよ。モノマネやりすぎて、完全に3歳児やねんけどな」


「いや、それ生きていけるんですか」
と私が言うと、
「いや、俺、死んでるように見えるか!?」
とかなんとか叫んであとはゲラゲラ笑っていて、私はそんなJ氏の姿を見ると、なぜか大変に勇気付けられてしまった。


世の中いろんな考え方の人々がおり、その各々がそれぞれに正しいわけであるから、なにもJ氏の生き方が全員にとって正解であるわけではないのだが、少なくとも私にとっては魅力があり、「それもありやな」と思える主張であった。「2、3ヶ月ギター弾かんかったぐらいで、弦の張り方忘れるわけないやろ。もっと気楽に考えたらええ。人間関係も、仕事もそうや。」というJ氏の言葉はなかなかに説得力があった。


J氏は別れ際に「みくるくも、なんか変わったファッションブランドにどハマりしてたけど、今は自由律俳句がどうとか言うてるやん。けっこう3歳児やと思うで。その調子やで!」とまるで3歳児のごとく元気よく手を振ってストリップ劇場の界隈に消えていった。



ここからはアヒルおじさんからの提案だが、もし貴方が今何か、息詰まるような感覚になっているのなら、それは「ちょっと今3歳児じゃなくないか?大人になってないか?3歳児やろうぜ!」と自分に話しかけてみるのもいいと思う。


いきなり全部じゃなくてもいい。少しずつ少しずつ3歳児のような遊び方、慣れてきたら3歳児のような仕事の仕方、にしていくというのはどうだろう。3歳児のモノマネを、まずは暇な時だけでもやってみる。
なんとなく気持ちがワクワクしないだろうか。


私はなんとなく気持ちがワクワクする、簡単に言うと「アガる↑」という感覚が自分の中に少しでも芽生えたのであれば、それは今貴方の人生がその考え方なり行動なりを、欲しているということ、「それ、それ、それやってみたらええことあるでー」という貴方の内面から生じるサイン、であると考えているので、なのでもしJ氏発の「3歳児のモノマネ暮らし」が気になっちゃうなと感じる方がいれば、気軽に遊び感覚で、試してみてほしい。


ちなみにアヒルおじさんは、自由律俳句に飽きたらカメラに手をつけ、その後TOEICの勉強にも飽きたらアルゼンチンタンゴを聴きまくるという支離滅裂な生活をしていたが、ちょうどタイミングよく友人にカメラの本をもらえたり、その時偶然出会ったお兄さんがバンドネオン(タンゴを弾く時によく使われる楽器)の奏者であり、彼と大いに話が盛り上がったという楽しい思い出ができたりして、飽き性を極めていたわりには、いや飽き性を極めたばかりに、なかなかハッピーな事件に遭遇することができたので。これはとても不思議なことだ。


貴方も大人になりすぎたなと感じたら、3歳児になりきってみよう。そしてテキーラを煽らなくてもストリップ劇場に行かなくてもいいから、「楽しいということが、人生で一番大事!」などという馬鹿なことを言ってみよう。そして貴方の大好きなことをやってみよう。馬鹿らしくて楽しいことが、人生を救うことも、確実にあるはずだよ。
人や社会のために役立たなきゃね、なんてことは今は考えなくていい。この話はまたするけど、楽しいことをやってたら、自動的に人の役に立つんだからね。まずは自分が楽しいことをやってれば、それで問題なし。


というわけで何も考えずに明日からは3歳児だ。トーマスを振り回して、ブランコに乗ろう。仮面ライダー、変身!!!


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