インドで作家業

ベンガル湾と犀川をこよなく愛するプリー⇔金沢往還作家、李耶シャンカール(モハンティ三智江)の公式ブログ

ドラッグ天国殺人事件9(中編小説)

2017-05-23 19:09:52 | E全集(受賞作ほかの全小説作品、2017~)

エピローグ・ソフィの日記

7月*日
 一年ぶりに、ゴアに戻ってきた、うれしい! これから三ヶ月はわくわくするようなバカンスの始まり、去年も世話になったメアリーホームに落ち着きシャワーを浴びたあと、遅いランチにママンと繰り出す。行き付けだった海辺の人気レストラン・デアデヴィルで、マネージャーのエディは無論、顔なじみのウェイターらが大歓迎してくれた。フランスで買ってきたささやかなお土産をみんなに手渡す。そのくせ私はどこか上の空、隅の席に腰掛けているアンリを目の端で強く意識しながら、さりげなく斜め後ろのテーブルに腰掛ける。この角度からだと、アンリのアポロンのように精巧な貌がよく拝めるのだ。が、彼はいつものように知らん振り、一年ぶりに戻ってきたというのに、ほんと冷たーい。あたしが密かに恋焦がれている人はビーチボーイ、白人客相手の売春夫だ。ママンはあたしの気持ちに勘づいているけど、職業が職業だけに、好ましくないと思っている。自分もアンリを買ったくせして、勝手なもんだ。あたしは、身分なんて、気にしやしない。アンリがスウェーデンとの合いの子なら、あたしだってパパなしっ子、おんなじだもの。色が白くて、碧い瞳の飛び切りハンサムなアンリはビーチボーイのキング、欧米人女性から引っ張りだこ。三年前デアデヴィルで逢ってからというもの、あたしはぞっこん参っている。でも、アンリはなぜかあたしには冷たい。エディやアンリの商売敵のロッキーはあたしに無我夢中というのに。ルックスにも体にも自信があるのに、意中の人に振り向いてもらえないだけで、自分がちっぽけに思えてくる。保護者のいない大人の女性だったら、あたしだってアンリを買うのに。ママンときたら、本当に口うるさいんだから。やれ、地元の不良少年どもとは付き合うなだの、やれジョイントはほどほどにしろだの、自分だってマリュハナづけのくせして、ほっといてほしい。アンリが少しでも振り向いてくれないかと、ピザをほおばりながら、ちらちら盗み目で窺っていたが、完全に無視された。あたしは、短パンのポケットに忍ばせた黒蝶のペンダントをそうっと掌でもてあそんだ。アンリに買ってきたお土産だが、この分では手渡すチャンスはなさそう。久々にアンリの顔が見れてわくわくしたが、ハローの一言すら声をかけてもらえなかったのには、本当にがっかりした。でも、まだ胸が激しく動悸を打っている。アンリ、愛してる!

7月1 *日
 アンリ、何でそんなに冷たいの。あたしのいったい、どこが気に入らないの。会話のないまま虚しく時間だけが流れていき、あたしはいらいら。ただデアデヴィルで遠くから見つめるだけの切ない時間が流れていく。ああ、片思いはつらい。地元の不良少年どもはちやほやしてくれるけど、肝心のお目当てに振り向いてもらえずないんじゃあ、哀しい、それにしても、一言くらい声をかけてくれたっていいじゃない。店の入り口で、ちょうどイタリア女を連れて出てきたアンリとばったり鉢合わせして一瞬目が合ったのに、ぷいと逸らしてしまった。あんな醜い出っ腹のおばさんのどこがいいの。あのババアのぶかぶかのあそこがアンリのあれをくわえ込むと思うと、嫉妬で胸が張り裂けそう。15歳のあたしのあそこは、フランスにいるボーイフレンドのポールだって賞賛するくらい、締りがいいのに。アンリのテクニックは抜群と聞くけど、あたしだって名器、負けやしない。ママンやおばさん連中にはサービス一本やりで、自分が感じてる暇もないだろうけど、あたしとやったら、気持ちよくさせてあげる。フェラチオだって、あたしはほんとに上手なんだから。ママンが出ている隙を見計らって、アンリのことを思ってマスを掻く毎日。ああ、アンリに抱かれたくてむずむずしている。あのキュートな唇をむさぼってみたい。あたし、アンリを見ると、発情期のメスみたいになっちまう。アンリが欲しくて、欲しくてたまらない。狂おしくキスされて、自慢のBカップの胸を愛撫されて、あそこにアンリの繊細な指が忍び込むと想像するだけで、びちょびちょに濡れてくる。ほかの男に体を投げ出す気にはなれないので、自分で後始末するだけだ。今日も、タオルを汚してしまった。

7月2*日
 ああ、ままならぬ恋、だんだん悲観的になってくる。アンリに振り向いてもらえないんじゃあ、ほんと生きてる価値がないよなあ。あたしには頼ったり甘えたりできるパパはいないし、お先真っ暗。ママンが一人でここまで育ててくれたことには感謝してるけど、お金のため、いろいろ悪いことしてきたの、あたしちゃあんと知ってるんだ。ママンの秘密は何もかも、お見通し。自分であくどいことやってて、娘にはえらく厳しいんだから。あれをしてはいけない、これをしてはいけないと押さえつけられると、かえって反抗的になるってこと、ママンにはわからないのかな。あたしはママンが思ってる以上にませた悪がきなんだ。ママンだって、あたしがとっくにヴァージンでないことは、知ってるはず。それにしても、ママン、何であたしを産んだんだろうな。子供が将来不幸になるとは思わなかったんだろうか。あたしは一度も父親の顔を見たことがない。ひょっとして、あたしという娘が存在していることすら知らないんじゃないか。ママンは、パパのことは何も話してくれない。その男のこと愛してたのかな。でも、子供の将来のこと、ちゃんと考えてほしかったな。愛の結晶だなんて、エゴだよ。あたしはおかげで、こんなに苦しんでる。寂しがり屋で、独りぼっち。どんなに男たちにちやほやされても、孤独は癒されない。胸にぽかりとうつろな穴が空いたよう。いくら仲のいい女友達だからって、自分のほんとの胸のうちなど明かせない。ときどき、むしょうに死にたくなってくる。父親の顔は知らないし、アンリには全然振り向いてもらえないし(しくしく涙顔の自画像イラスト)。

7月3*日
 ああ、もうほんとに死んでしまいたい。どうでもいいようなにやけた男ばかり寄ってきて、あたしをうるさがらせる。アンリの冷淡さはいっこうに変わらない。あれからひと月近くたつのに、事態は改善する兆しなし(絞首台で首を吊ってる自画イラスト)。

8月*日
 近々、フルムーンパーティーが催されるかもしれない。ゴアのパーティーはドラッグ・セックス三昧で有名、二年前一度だけ参加したことがあったけど、ママンの監視付きであまり楽しめなかった。ママンを何とか、ゴアから追放できないかな。野生動物保護区にいっしょに行こうと前から言われているんだけど、ママン一人だけ発たせて、あたしはここに残るってどうかな。でも、ほんとにパーティーが開かれたらわくわく、そしたら、今度こそ、ママンの目を盗んで、アンリをものにしてみせる。乱交パーティーだから、暗がりに誘惑して無理やりにでも、犯してやる。ふふふ、犯すだなんて、あたしとしたことが。でも、冷たくされた長年の恨みを果たしてやるんだ。やってやりまくってやる。そして、必ずアンリをあたしに夢中にさせてみせる。醜い中年客より、ルックスも体もあたしのほうがフレッシュだってこと、15歳のソフィの魅力を思い知らせてやる。早くフルムーンが来ないかなあ。ママンがひいきにしているガイドのトミーに、ちょうどその時分ママン野生動物保護区に行きたがってるみたいだよって、何気なく洩らしておこうかな。でも、パーティー、ほんとに大丈夫かなあ。最近、警察の取締りが厳しくなって、主催者のイギリスのお兄ちゃんも、渋い顔してた。これまでも、何度か開こうとしたんだけど、そのたびに事前にお流れになったんだそうだ。ワイロとかいろいろ根回しが大変らしい。ゴアの刑務所には、ドラッグ所持のかどで捕まっている外人旅行者が六人もいるから、みんな慎重なんだ。汚職警察なんて、バクシーシというわいろで買収できるけどね。ママンに内緒で、エディからガンジャを買った私は、夜の浜でパーティー主催仲間とジョイントした。もっと良質のチョコレート色の塊まり・ハシシや、大麻入りビールも回ってきた。お兄ちゃんのイタリア人恋人がハイになってビキニを脱ぎ捨て、気勢をあげながら海に飛び込んだので、あたしもビキニを取って、後に続いた。夕刻、アンリがレストランで若い英国女性客と親密げに話していたのがまだ癪に障っていた。むらむら湧き上げるジェラシーの炎は止まぬままだったので、裸で泳いですっきりした。アメリカの陽気な若者ジミーが追いかけてきて、ヌードで絡みついてきたので、キスとペッティングだけ許してやったが、それ以上やろうとするので必死で抗って、浜に戻った。あたしのあそこは、アンリだけもの、ここでは絶対誰にも許さない。フルムーンパーティーがどうか開かれますように。そして、アンリとの恋が成就しますように!アンリ、愛してるよ、心からのキスをこめて!

8月1*日
 毎日届くポールのメールを無視してたら、ついに国際電話があった。懐かしい声を聞くと、逢いたくなってくる。こっちにいると、アンリのことしか眼中にないけど、ポールはなんといってもあたしの初めての男、クラス中の女の子のアイドルだったポールも最初あたしに冷たかったけど、落としてやったんだ。恋人になってわかったのは、意識するあまりクールに装ってたんだとか。アンリももしかして、それかなと希望を持ったり。ママンに買われたことでも、気にしているのかなと思う。ポールがあたしが恋しいと言ってゴアに来たいと言い出したので、あたしはちょっとあわてた。両天秤かけてると、知れたら大変。ポールときたら、男のくせにあたしよりやきもち焼きなんだから。でも、今はやっぱりアンリのほうに少し気持ちが傾いてるかな。ポールはあたしのものだけど、アンリはまだだから。フランスに帰ったら、けろっとアンリのことなど忘れて、またポールといちゃつくんだけどね。あたしって浮気性、やっぱ相当のワルかな。でも、パパがいないから、愛情に飢えてるんだ……(中断)。

                                        了


自作解説はこちら。
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