インドで作家業

ベンガル湾と犀川をこよなく愛するプリー⇔金沢往還作家、李耶シャンカール(モハンティ三智江)の公式ブログ

吉行淳之介-男の素顔(菊水庵便り9)

2016-10-16 12:32:47 | 私の作品(小説・ノンフィクション)
昨夜は中秋の名月を心ゆくまで愛でた。

図書館からの帰途坂を降りて行くと、右手の空に見事な黄金がかった白い満月がかかっていて見とれた。
河原に降りて山の端の少し上空にのぼった壮麗なフルムーンを堪能した。月光に照り映えた川面は銀箔をのしたようにゆらゆら光り輝く帯にきらめいていた。

ベンガル湾のフルムーンにまさるとも劣らぬ威容の、犀川上流から仰ぐ見事な中秋の名月だった。

閑話休題。
「暗室」日記上下(大塚英子)、「淳之介流-やわらかい約束」(村松友視)を読了。
大塚英子は、吉行の死後発覚した第二の愛人、女性恐怖症だった吉行が唯一息抜きでき安らげた存在だったようだ(女への恐怖心を女で癒すところに二重の皮肉があるが、内心は英子に対してですら、不信感を完全には拭い難かったのかもしれない)。

性的にも濃密に結びついた陰の女、吉行がひっそり匿って自分好みに調教した年齢不詳のミステリアスな美女、身長150センチ、長い黒髪の神経症気味の虚弱体質、世間に順応できず男が守ってやらなければならぬような弱い生き物、文壇一の美男作家ともてはやされ、エロスを描いた作家の愛人にはに似つかわしい。

なれそめは、銀座の文壇バー、「ゴードン」、栄子はそこの一ホステスだった。石原裕次郎さえ求愛したといういわくつきの美女を見事射止めて、バーを辞めさせ、穴蔵のような隠れ家的マンションに囲ったのだ。

「暗室」はじめの作品にもこの陰の愛人の影響は出ているようだ。文学に造詣の深かった英子にタイトルなどを相談することもあったらしい。

それにしても、秘められた愛人の存在は、事実は小説より奇なりというか、性を描く作家吉行の知られざる素顔が小説以上のドラマチック性を帯びた人生劇に、愛読者としてはどんでん返しを食らったようなショックである。それを意図して、吉行は生前英子に、俺が死んだらこのことを書け、と英子に命じたのであろうか。

己の作品に対してのアンチテーゼ、別居していた本妻、長年同棲していた第一の愛人(宮城まり子)への復讐? 実生活では本妻と愛人の間をトスされるバレーボールのように傷めつけられ、手玉に取られた如くの印象があった吉行だが、手玉に取っていたのはご本人、二人の女のいがみ合いの陰で、三人目の女、英子に慰撫を求めていた。

してやったり!との声が聞こえそうだ。しかし、宮城まり子がもう一人の愛人の存在をまったく知らなかったとは考えられない。女の勘は鋭いし、薄々勘づいていたのではなかろうか、それだけに、偏執狂的に、外部からかかってくる電話に神経質になったり、吉行の行動のいちいちを把握しようと躍起になっていたのではなかろうか(興信所で調べればすぐわかることだし)。知ってて素知らぬふりを通していたなら、まり子のほうが一枚上手、「してやったり!」のはずが「してやられた!」ということになる。

いずれにしろ、英子の日記では、まりこは「大先生」として登場し、吉行の畏怖する恐女として描かれる。
作品にも離婚と入籍を迫る愛人の存在は浮き彫りになっているが、若いころ熱愛関係にあった女優宮城まり子とは、吉行にとっていったい、何だったのだろうとの疑問が残った。

またインドに帰ったら、じっくり吉行淳之介論を展開したい。
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