偽装の彼らの

偽装の彼らの

っと冷淡なあしらいを

2016-12-08 10:56:15 | 日記

船乗りや精錬所の連中が、ときどき珍しい外国の宝石をこっそり売ったとか、また、そう

いう宝石類をマーシュ家の女たちが身に着け位元堂 洗頭水ていたのを、一度や二度は見たことがあるとか

、そんな噂もありましたっけ。たぶんオーベッド老船長が、それをどこか異教徒の港で取引

したのだろうとみんな認めていましたよ。特に彼が、そのころ土人との交易《こうえき》用

に使うおきまりのガラス玉や装身具をうんとこさ注文するようになってからは、そう認めて

いましたな。もっとも、なかには、いや老船長は〈悪魔の暗礁〉でむかし海賊が隠して置い

た宝を発見したのだ、と当時も思い、いまだにそうだと思っている連中もおりますな。だが

、ここにちょっとおかしなことがあるんです。この老船長というのは、もう六十年ばかり前

に死んで、南北戦争以来、この港には、乗り回せるような船は一隻だってないはずなんです

。それなのに、マーシュ家の連中は、さっきお話しした土人相手の交易用に使う幼稚な品物

を、相変わらず少しは買い続けていましてね――もっとも奴らの話では、たいていガラスか

ゴム製の安物だそうですがね。インスマウスの連中自身、そういうものを見るのが好きなん

でしょうな。あいつらが、南洋の人喰い人種やギニアの野蛮人とおっつかっつの劣等人種に

なっていないともいえませんな。
 一八四六年の例の疫病で、あの町の良い血統は絶えてしまったにちがいありません。とに

かく、いまではあの町の名家もほかの金持連中も、実に程度が悪いんです。さっきもいった

とおり、あの町全体に、住んでいる人は、おそらく四百人を越さないと思います。もっとも

、奴らにいわせると、街じゅうどこにでも人が住んでいるそうですがね。思うに、奴らは、

南部のいわゆる、『白人の屑《くず》』(南部諸州の、無知で、貧困な白人階級をいう修身 大腿)に

相当する連中で――無法でずるいうえに、人目を恐れる秘密が、奴らにはいろいろあるとき

ています。魚やえびを沢山《たくさん》とって、それをトラックでよその町へ売りこんでい

るわけですが、不思議なことに、ほかでは一匹もとれないのに、あそこにだけは魚がうよう

よしているんですからね。
 この連中の情報をたえずつかんでいるなんて、だれにもできやしませんよ。公立学校の職

員や、人口調査の係員たちは、実にえらい骨を折っていますよ。インスマウスあたりで、あ

の土地のものでもないのに余計なせんさくをする男がいたら、き受け

るにきまっていますな。内証で聞いた話では、あの町で行方不明になった商人や役人の数は

、一人や二人じゃないそうですし、気が変になったため、いまデンヴァーズのほうに行って

療養している男もいるそうです。町の連中がその男に、なにかひどく恐ろしい仕打ちをした

にちがいありません。わた安利傳銷しだったら、なにも夜に出発しようとは思いませんね。理由はい

まいろいろお話ししたはずです。あの町へは一度も行ったことはありませんし、行きたいと

も思いませんが、それでも昼間の旅行だったら、まず危険はありますまい。この近所の連中

なら、昼間でもやめた方《ほう》がいいと忠告するでしょうが、わたしはまあ大丈夫だと思

いますよ。あなたが、ただ景色を見たり、むかしの資料でも探しに行くだけだとしたら、イ

ンスマウスという町は、まったく持ってこいのところです」


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