indigo rain

気まぐれなおはなし。

かくれんぼ

2017-03-07 23:33:32 | SS
起床時間を告げるアラームが部屋に鳴り響いた。外は晴れている。昨日は朝からずっと雨が降っていたのだが、どうやら寝ている間に上がったようだ。雨の日も好きな私には少し残念でもあったが、晴れていると雨の日に比べて行動範囲が広がるのも確かだ。

今日はちょっと遠くまで行ってみようかしら。日曜日だし、最近はテストも近くて根を詰めていたから、お勉強はちょっとお休みしてもいいかもしれない。
そう決めた私は、読みかけだった詩集とサンドイッチを持って出かけることにした。


『朝』と呼ぶには少し遅く『昼』と呼ぶには少し早い、時間の隙間ってこのことを言うのかしら。こんな時間に自転車で走るのも悪くないわね。そんなことを考えていたところだった。

「やあ、おはよう亜美ちゃん。あれ?珍しいね、自転車なんか乗ってどこ行くの?」

「おはようまこちゃん。今日は天気が良いから、自転車でちょっと遠くまで行ってみようと思って」

「へぇー、いいね!ちょっとしたドライブだね・・・それさ、私も付いてっていいかい?」

「え?それはいいけど・・・そしたらもう一度出直そうかしら。またお昼過ぎくらいに集まりましょう」

「いいよ。今から行こうよ」

「今からって・・・まこちゃんだって自転車じゃないでしょう?」

「だからそれに乗ってくよ。私が前に乗るから、亜美ちゃん後ろね」

「ええ!?だめよ自転車の二人乗りなんて!私、結構遠くまで行くつもりだったし、まこちゃんが大変だし・・・そもそも二人乗りは危険だわ」

「まあまあそんな固いこと言わずにさ。お巡りさんに見つかりそうになったら亜美ちゃんが降りてくれたらいいじゃないか」

「そ、そんな・・・」

「さ、どいてどいて!遠くまで行くつもりなら、なおさら早く行かないとね」

そう言ってまこちゃんは半ば強引に私を後ろに乗せると、運転席を奪って自転車を漕ぎだした。

そういえば、自転車の二人乗りなんて初めてかもしれない。そして今まで見ているだけでは分からなかったが、自転車の後ろに乗るという行為そのものが、中々難易度の高いことだということも分かった。
私が後ろでバランスを取ったり、お尻に来る衝撃と格闘している間にも、まこちゃんは私を後ろに乗せて軽々と自転車を漕いでいる。

「まこちゃん、私、重くないかしら?」

「全然重くないよ。休みの日に、私がスーパーに買い物に行った時の帰りの荷物の方が重く感じるね」

「まこちゃんって最近のお休みの日は何をしているの?」

「休みの日かい?そうだなぁ、買い物に行ったり、部屋の植物の世話をしたりお掃除したり・・・亜美ちゃんは休みの日も勉強かい?」

「そうね・・・でも今日は何だか外に出かけたい気分だったの。特に用事があるわけではなかったんだけど、何となく外の空気に触れたくって」

「へー・・・あ、亜美ちゃん。あの川沿いの公園、すごく眺めが良さそうだよ。あそこに行こう!」

「あぁ、まこちゃん!そんなにスピードを出したら危ないわよ!」

「だーいしょうぶだって!それにしても亜美ちゃんにも勉強を後回しにする日があるんだね。でもそのほうがいいよ。ずっと部屋の中にいたら脳が息苦しくなっちゃうよ」

「そ、そうね・・・おかげで、今はとても気分がいいわ・・・」

「あはは、そりゃ良かった。よっと、とうちゃーく」

「ありがとうまこちゃん。私ずっと後ろに乗りっぱなしで・・・」

「気にしないでよ。私が無理に付いて来ちゃっただけなんだからさ!あーあ、お腹すいたなあ。私お昼ご飯買ってくるよ」

「あ、待ってまこちゃん!それならこのサンドイッチあげるわ」

「え、いいよ。それは亜美ちゃんが持って来たやつだろ、悪いよ」

「いいのよ、ここまで連れて来てくれたんだから。一緒に食べましょう?」

「そ、そうかい?ありがとう亜美ちゃん。じゃ、お言葉に甘えて頂くよ・・・うん、美味しいね!」

「本当?ありがとう。まこちゃんの作る料理に比べれば拙いものだけど・・・」

「何言ってんだよ。私にはこんなに美味しい味のサンドイッチは作れないよ。ま、サンドイッチ以外なら負けないけどね」

そう言いながら、美味しいと言って笑ってくれるまこちゃんを見ているのはとても幸せだった。

それから、私たちはとりとめのない話に一緒になって笑ったり、一緒になって考えたりした。
他人からすれば何の意味もない話かもしれない。でも私たちにとっては、私にとっては、私たちだけにとっては、意味がある。彼女の口から出た何気ない言葉ひとつでさえ漏れてしまわないように掬い取って、そうやって私は意味を作り出す。

「そういえばまこちゃん、今日は何も予定がなかったの?」

「え、うんまあね。私も今日は外に出たい気分だったんだ。この間までテストだったし、体が訛っちゃってたしさ。本当は昨日出かけようと思ってたんだけど、雨だったじゃんか。だから今日になっちゃったんだけど、たまたま亜美ちゃんと会えて良かったよ」

たまたま会えて良かった。まこちゃんはそう言った。
それは私も一緒よ。とは私は言わなかった。

私がそう言ってしまえば、私は「たまたま」 という奇跡を運命だと思ってしまう。私には運命なんて必要ない。だって私にとってあなたがいることは、神様が決めたことではないから。私にとってまこちゃんは奇跡なのだから。この世界で起こる全てが、そしてまこちゃんの全ては、他の誰にも決めることができない奇跡なのだから。


「まこちゃん。日も暮れてきそうだし、そろそろ帰りましょう。今度は私が前に乗るわ」

「え!?だめだよ亜美ちゃん。私、亜美ちゃんより重いし絶対進まないよ」

「いいからほら!後ろ乗って!」

今日は誰の誕生日でもない。何かの記念日でもない。そんななんでもないような日に隠れている幸せを見つけることができた私は、とても幸せ者だ。一人で勉強しているだけじゃ見つけることはできなかった、奇跡の手助けあってこその今日の幸せ。今度は、あなたの幸せを私が一緒に見つけてあげられたらいいな・・・なんてことを思った。








「・・・亜美ちゃん・・・やっぱり変わるよ・・・このままじゃ日が暮れるどころか、夜が明けちゃうから・・・」


いつか私も奇跡と一緒に、あなたの幸せを見つけてあげたい。そして今度はあなたと一緒に、奇跡を見つけたい。だけど気づけば、私はまたあなたの後ろに乗せられていた。















「あしたもまた自転車」を聴きながら自転車乗ってた時に思いついたお話だけど、だいぶ時間が掛かっちゃった。
1月くらいには結構できてたけど、色々忙しくて中々完成できずにいたところ、今日がアニメ放送からちょうど25年ということをさっき思い出して、これもう今日しかないって急ぎで仕上げました。
アニメ25周年おめでとうございます。
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