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政権交代と財政赤字

2010-01-13 | 日記
井堀利宏 『日本の財政改革』 ( p.139 )

 わが国でも、小選挙区制度のもとでの総選挙が何度も行われると、政府の役割について理念の相違が明確となる二大政党に収束し、大きな政府か小さな政府かという政府支出の評価の異なる政党間で政権が交代する可能性は、ありえるだろう。理念の異なる政党間での政権交代が行われるようになると、既得権に対する切り込みは可能であろう。しかし、それによって財政赤字の削減が容易になるかというと、必ずしもそうともいえない。場合によっては逆に、財政赤字を拡大する誘因を与えることも考えられる。以下では、こうした理念の異なる二大政党間での政権交代と財政赤字の関係を考えてみよう。
 現実の世界でも、政権交代が起こるときには、政府支出の評価について意見を異にする政党間で政権が交代することが多い。アメリカでの民主党と共和党との交代や、イギリスでの労働党と保守党との交代はその例である。もし、現在政権にある政府が近い将来、政府支出をより過大に評価している別の政府に政権を明け渡さざるを得ないとしたとき、そうでない場合とくらべて、現在の政府の財政政策にはどのような影響があるだろうか。
 たとえば、アメリカの共和党=小さな政府と民主党=大きな政府の二大政党を想定しよう。いま、共和党が政権にあるとして、現在の政府 ( 共和党 ) は、将来の政府 ( 民主党 ) よりも本来は、小さな政府を志向する政府であるとしよう。政権交代の可能性を考慮すると、現在の政府の財政政策は、その政府が将来も引き続いて政権にある場合よりも、現在の財政政策を積極的に運営し、政府支出を拡大し財政赤字を拡大させて、そのツケを将来の政府に押し付ける可能性がある。なぜなら、共和党政府が財政赤字を拡大させると、その結果として、将来の民主党政府は、財政赤字を解消するために、一部は増税で、残りは政府支出の削減で対応せざるを得ず、本来望ましいと判断していた大きな政府に対応した財政支出政策をより縮小せざるを得ない。これは、小さな政府を志向する共和党にとって望ましい結果である。
 すなわち、小さな政府を志向する共和党の政府は、与党の際に財政赤字を拡大することで、逆に、大きな政府を志向する将来の民主党の政府の財政支出を削減することが可能になる。共和党は、政権をとっているときには、財政赤字を拡大する誘因をもち、野党に回っているときには、民主党政権に対して財政赤字を縮小させる圧力をかける誘因をもつ。一九九〇年代に入ってアメリカの財政赤字が縮小してきたのも、民主党政権に対して野党である共和党が、強力な歳出削減の圧力をかけたためと考えられる。その結果として、民主党の政府は、本来望ましいと判断していた大きな政府に対応した財政政策を、より縮小せざるを得ない。すなわち、八〇年代のレーガン政権にみられたような、共和党の政府の意図的な公債発行は、小さな政府を志向する共和党政府の財政運営をより大きめに、逆に、大きな政府を志向する民主党政府の財政運営をより小さめにすることで、財政政策の政権交代による非連続性を緩和する役割を果たしている。


 ( 政策の異なる政党間で ) 政権が交代すると、財政政策も変わるはずであるが、実際には、政策の非連続性は緩和される、と書かれています。



 この論理は、( 現在の ) 与党が国家財政を 「人質」 にとらなければ、成り立ちません。ここでは、政権交代がほぼ確実に予測されるとき、与党が、みずからの政策を対立政党に実行させるために、

   意図的に、みずからの政策とは正反対の政策を行う

という、歪んだ状況が発生する、と想定されています。すなわち、A党 ( 与党 ) とB党 ( 野党 ) が政権を争っているとき、政権交代がほぼ確実であれば、

   選挙前に、A党 ( 与党 ) はB党の政策を実行し、
   選挙後に、B党 ( 与党 ) はA党の政策を実行する、

という、異常な状況が発生する、と想定されています。

 こんなことが、本当にありうるのでしょうか?



 上記引用には、実例として、レーガン政権の 「意図的な公債発行」 が挙げられていますが、動機はほかにも考えられると思います。「異常な状況」 を実証する実例としては、記述が簡潔すぎて、すこし、説得力に欠けていると思います。

 身近な、日本の例で考えます。

 昨年、わが国の自民党政権は総選挙直前に、大量の公共投資を前倒ししました。これなどは、小さな政府 ( 自由競争 ) を志向する自民党が、大きな政府 ( 高福祉 ) を志向する民主党に、小さな政府を志向せざるを得ない状況をもたらした、ともいえますが、

 もともと民主党はムダの削減を主張していたはずであり、どちらかといえば、自民党のほうが公共投資に積極的だった、という事情もあり、総選挙前の自民党の動きは、民主党の政策をより強化する状況をもたらした、ともいえます。

 したがって、動機のみならず、事実評価の観点からも、( 現実は複雑であり ) 著者の上記記述はやや、説得力に欠けるきらいがある、と思います。



 状況を全体としてみれば、選挙前に、与党が意図的に、正反対の政策を行おうが行うまいが、大差はない、と考えられます。なぜなら、

   選挙前に、A党 ( 与党 ) はB党の政策を実行し、
   選挙後に、B党 ( 与党 ) はA党の政策を実行する

場合と、

   選挙前も、A党 ( 与党 ) はA党の政策を実行し、
   選挙後に、B党 ( 与党 ) はB党の政策を実行する

場合を比べれば、「どちらの場合も、A党の政策とB党の政策が実行されている」 からです。



 とすれば、上記、著者の記述されたような状況が、現実にあり得るか否かは、ある意味、どうでもよいことであり、

  「理念の異なる政党間での政権交代が行われるようになると、
   既得権に対する切り込みは可能であろう。
   しかし、それによって財政赤字の削減が容易になるかというと、必ずしもそうともいえない。
   場合によっては逆に、財政赤字を拡大する誘因を与えることも考えられる。」

と考えるのではなく、

   理念の異なる政党間での政権交代が行われるようになると、
   既得権に対する切り込みが可能になる。
   それによって財政赤字の削減は容易になり、財政赤字は拡大しない、

と考えるのが、適切ではないかと思います。
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