言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

デフレの脱出策

2010-01-21 | 日記
竹森俊平 『資本主義は嫌いですか』 ( p.98 )

 カバレロによる世界経済の現状の理論的な解釈を見てきたが、ここまでの説明には、「低金利」 は出てきても、「バブル」 はまだ姿を現さなかった。一体、「バブル」 がこの議論にどう絡むのかというと、こうである。「金融資産」 の市場における 「超過需要」 と、「実物財」 の市場における 「超過供給」 の同時発生という、世界経済の 「不均衡」 を解決する方法としては、もちろんこれまで述べたように相対価格の調整がまず考えられる。「金融資産」 市場で金利が低下するとともに、「実物財」 市場では 「デフレ」 もしくは 「ディスインフレ」 が発生すれば、世界経済は両市場の同時均衡に近づく。
 問題は、金利の低下には 「ゼロ」 という限界があることだ。もし、金利がゼロの下限に達してもまだ両市場の同時的均衡が達成されなかったら、相対価格の調整のために残された道は 「デフレ」 だけになる。しかるに、日本のデフレについて内外の経済学者が指摘したように、「デフレ」 の経済コストは高い。名目賃金が下落しにくく、名目金利が 「ゼロ」 の下限に張り付いているといった状態で 「デフレ」 が起こると、実質賃金、実質金利がともに上昇して、不況圧力を高めるからである。それを避けたかったら、相対価格調整以外の方法で、両市場の同時均衡を摸索しなければならない。しかし、そんな方法があるだろうか。
 「バブル」 が経済にとって有用なものとなりうるという、ティロールの議論がここで参考になる。繰り返しになるが、カバレロによれば、現在の世界経済が抱える最大の問題は、新興国において投資対象が不足するために、「金融資産」 市場において、「投資対象への需要」 に比べて 「投資対象の供給」 が不足する 「超過需要」 の状態が発生することである。そうであるなら、多少、人為的な方法であっても、「投資対象」 をつくり出せばよい。真正な投資対象が不足するというのなら、仮想的 ( ヴァーチャル ) な投資対象でもよいからつくり出すのである。近年、世界各地でバブルが頻発しているのは、「金融資産」 と 「実物財」 の市場の同時均衡を目指して、民間と政府が 「ヴァーチャルな投資対象」 、つまり 「バブル資産」 を次々に作り出す結果である。そうカバレロは評価する。
 一九九七年の通貨危機までのアジアでの不動産バブル、二〇〇〇年までのアメリカのITバブル、二〇〇六年までの主要先進国での住宅バブルや中国の株式バブル。個々のバブルを問題として取り上げ、バブルの回避や再発防止を訴えるのは簡単である。しかし、個々のバブルを回避し、再発を防止したところで、根本問題は解決せず、必ずどこかでまた別のバブルが発生する。なぜなら、バブルは 「根本問題」 そのものではなく、「根本問題」 が生み出す結果でしかないからだ。では、「根本問題」 そのものは何なのか。それは、先ほどから述べているように、「新興国において投資対象が不足する」 という事実である。


 名目賃金が下落しにくく、実質金利が 「ゼロ」 の下限に張り付いているといった状態で 「デフレ」 が起こると、実質賃金・実質金利がともに上昇して不況圧力を高める。それを避けるには、「バブル」 をつくり出せばよい。個々のバブルを回避・防止したところで、必ずどこかでバブルが発生する、と書かれています。



 「カバレロの議論」 を支持するならもちろん、著者の主張は正しい、と考えることになると思います。支持しない場合であっても、実質賃金・実質金利が上昇して不況圧力を高める、必ずどこかでバブルが発生する、という主張は、正当なものだと受け取ってよいのではないかと思います。



 著者の議論の枠組みに沿って述べれば、デフレ対策は 3 つある、と考えてよいと思います。次に列挙します。

  1. 何もしない。放っておけば、市場が自然に 「金融資産」 と 「実物財」 の同時均衡を達成する。
  2. 能動的に 「金融資産」 の価格を上げる ( 価格上昇を加速する政策をとる ) 。
  3. 能動的に 「実物財」 の価格を下げる ( 価格下落を加速する政策をとる ) 。




 (1) 「何もしない」 選択は、デフレは好ましくない、早くデフレを終わらせろ、という主張が多いことに鑑みれば、政治的にとりづらいと思います。したがって、「何もしない」 道は、他の方法をとりえない場合に残された、最後の選択だとみるべきであり、

 他の選択肢を先に検討します。



 (2) 能動的に 「金融資産」 の価格を上げる選択が、現状を打開するうえで適切である、というのはわかります。どのみち、価格が上昇するのならば、早く上昇させたほうが、早く均衡に達します。均衡に達した時点で、デフレも終わるはずですから、これは好ましい選択だといえるでしょう。

 しかし、意図的に 「ヴァーチャルな投資対象」 を作り出すというのは、いかがなものかと思います。そんなもの、わざわざ作り出さなくとも、市場は、自然に作り出すはずです。したがって、政策的に 「ヴァーチャルな投資対象」 を作り出す必然性はどこにもない、と考えてよいと思います。「ヴァーチャル」 な投資対象を ( 意図的に ) 作り出す、というのは、そこに、いくばくかの 「いかがわしさ」 が内包されていますので、必然性がない以上、行わないほうがよいと思います。

 とすると、能動的に 「金融資産」 の価格上昇を引き起こす政策で、「まっとうなもの」 を探すことになります。それは何かといえば、ゼロ金利 ( …に近い状態 ) のもとでは、量的緩和ではないかと思います。とすれば、現在の政策は好ましい、と評価してよいのではないかと思います。



 (3) 能動的に 「実物財」 の価格を下げる選択は、要は、デフレを加速させる、ということにほかなりません。それは政治的に、行い難い選択ではないかと思います。

 しかし、デフレを加速させれば、「早く」 デフレが終わります。「実物財」 の価格が 「高すぎる」 のが問題で、下がりきらないかぎり、デフレは終わらないならば、いっそのこと、「意図的に」 デフレを加速させ、早くデフレを終わらせる、という道もあるはずです。

 それでは企業の倒産が激増し、人々の暮らしが成り立たない、という批判も予想されますが、そこは、( 既存の ) 貯蓄で乗り切ればよい、と考えられます。政府による支援策があれば、貯蓄の少ない世帯においても、デフレの期間を乗り切れるのではないかと思います。

 デフレを加速させれば、「なにもしない」 場合 ( デフレを加速しない場合 ) に比べて、デフレの期間が短くなります。したがって、デフレを乗り切るために必要な貯蓄額 ( 取り崩さなければならない貯蓄 ) が、少なくてすむのではないか、と考えられます。



 以上、3 つの政策を比べたときに、もっとも容易なのは、(2) の量的緩和だと思います。現在、量的緩和政策がとられつつあるのは、いわば、必然の帰結といってよいと思います。



 ここで、さらに先へと考えれば、

 (2) について、「ヴァーチャルではない、まっとうな投資対象」 があればよい、と考えられます。それこそが最善のデフレ脱出策であることは、論を俟たない ( またない ) ところです。「まっとうな投資対象」 といえば、たとえば環境関連などが考えられますが、

 国はどのような政策をとるべきか、という視点でみれば、それらの分野への優遇策、さらには、新たな技術開発の促進政策 ( かならずしも環境等、現時点で有望な分野にかぎらない ) などがありうると思います。

 (3) について、「実質賃金」 ・ 「名目賃金」 の下落を許容するというのも、ひとつの選択としてありうると思います。現在、徐々に名目賃金は下落の傾向を示していると思われますので、この傾向を助長する、すくなくとも、下落を止めない、という政策も、よいのかもしれません。

 賃金の下落を許容するのは、反・労働者的な意見であるかに受け取られやすいと思いますが、許容しなければ、「多数の失業者と、一部の高給取りが併存する社会」 を是認する結果になります。したがって、賃金の下落を許容するのは、反・労働者的な意見ではなく、その逆、労働者の利益を考慮した意見である、と考える余地があるのではないかと思います。



 以上をまとめると、デフレ脱出策としては、
  • とりあえずの応急措置として量的緩和を行いつつ、
  • 長期的な視点で、技術開発の促進 ( …と、可能であれば賃金の下落許容政策・暮らしの支援政策 ) を行えばよい、

と考えられます。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« カバレロの議論 | トップ | ディスプレイを設置しています »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。