言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

財政改革のプロセス-税収の予想外の縮小の場合

2010-01-12 | 日記
井堀利宏 『日本の財政改革』 ( p.127 )

 今度は、バブルの崩壊などによって、景気対策として所得税率や消費税率を引き下げるなどの税率の低下が生じたとしよう。あるいは、社会保障制度の予想外の改訂によって、移転支出が増加したとしよう。補助金の増大は、国民全体からみれば納めた税金がそのまま返ってくるので、税率の低下と同じである。
 税率が当初の水準Aからより小さな水準Bに外生的に低下したケースである。今度は、予算編成において残された選択可能な変数は、政府支出の水準である。与党は税率が低下したBのもとでは、政府支出の拡大が望ましいから、与党は相対的に高い水準の政府支出を要求するだろう。しかし、大蔵省にとっては、相対的に低い水準の政府支出が望ましい。もし両者の交渉力がほとんど同じであれば、新しい予算編成の均衡点での政府支出は、両者の望ましい政府支出の中間になる。その結果、当初の均衡点と比較して、新しい均衡点での政府支出はあまり変化せず、税率の外生的な低下を反映して、財政赤字の拡大が生じる。大蔵省にとっては支出の削減が望ましいが、与党にとっては支出の拡大が望ましい。その結果、政府支出はあまり変化せず、財政赤字の拡大が生じるのである。
 さて、ここで、税率の大幅な低下というBの制約がはずれて、税率も政府支出同様に自由に選択できる場合の財政再建のプロセスを検討しよう。裁量的な増税が経済環境の面では実現可能であったとしても、両当事者間の交渉でそれを合意できるだろうか。新しい均衡点Bから古い均衡点Aへの動きは、両者ともに好ましい動きではない。税率の変化により、両当事者の経済的な満足度=効用は逆方向に変化するからである。大蔵省は税率が上昇すれば得をするが、与党は税率が上昇すれば損をする。
 当込の予算編成の均衡点Aから新しい予算編成の均衡点Bへの動きが与党を利するので、逆の動きは与党を害する。すなわち、新しい予算編成の均衡点が、与党の既得権になっている。大蔵省は、政府支出一定のもとで税率の上昇が望ましい。しかし、与党は政府支出所与のもとでは常に税率の低下の方が望ましい。両者の選好が対立しているので、もし両者の交渉力が同じ程度であれば、新しい均衡点から当初の均衡点への動きは実現できない。つまり、財政再建は容易には達成されない。


 税収の予想外の縮小の場合における、財政改革のプロセスが説明されています。



 財政改革が必要になるのは、この 「税収の予想外の縮小の場合」 と、「政府支出の予想外の拡大の場合」 です。

 ここで議論されている内容も、「財政改革のプロセス ― 政府支出の予想外の拡大の場合」 と同様、きわめて説得的だと思います。

 予想外の事情によって、税収が減少した後、予想外の事情がなくなった ( 税率を下げたりする必要がなくなった ) 場合、悪化した財政を再建するために、

  1. 増税する ( 減税をやめて、元に戻す )
  2. 支出を減らす

という、2 通りの選択肢がありますが、常識的に考えて、どちらも、選択しづらいと考えられます。なぜなら、

  1. いかなる事情であれ、いったん減税したあと、元に戻す、つまり、増税することには、国民の反発が予想され、政治的に難しいと考えられますし、
  2. 他方、支出を減らす、という選択肢についても、「政府支出の予想外の拡大の場合」 とは異なり、「もともと、普段の状況において必要な費用しか計上されていないはず」 ですから、現実問題としてあり得ない、

と考えられるからです。



 国民のひとり ( 当事者 ) としての立場を忘れて、第三者として、大局的にみれば、

 この場合の解決策はあきらかです。予想外の事情がなくなったのですから、「元に戻す」 、つまり減税をやめる ( 増税する ) ことが、最善の解決策になるはずです。また、不況の際に景気対策などを行ったならば、その費用は、不況が終わった後、支出の削減 ( ムダの減少 ) によって捻出するのではなく、収入の増加 ( 増税 ) によって賄うことが、本来のありかたであるはずです。特別な事情による支出増 ( ここでは景気対策等の費用を指す ) には、増税によって対応するのが、自然だと考えられるからです。

 しかし、不況が終わった後にも、増税は政治的に難しい、となれば、財政再建は困難をきわめ、事実上、不可能になるものと予想されます。



 ここで 「財政改革のプロセス」 について、まとめると、

   「政府支出の予想外の拡大の場合」 の財政再建は容易であるのに対し、
   「税収の予想外の縮小の場合」 の財政再建は難しい

ということになります。

 それはなぜか。おそらく、支出を減らすことは ( 相対的に ) 容易だが、収入を増やすことは ( 相対的に ) 難しいからだと思います。これは感覚的にわかると思います。民間企業にも、おなじことがいえるはずです。



 いまの日本は、どちらかといえば、「政府支出の予想外の拡大」 ではなく、「税収の予想外の縮小」 の場合にあたると思います。とすれば、財政再建は困難をきわめる、と予想されます。

 上記分析によれば、適切な対策は、「税収の減少局面においては増税せず、景気が回復してから、増税する」 ということになります。したがって、日本は、いま、

   増税を行わずに、景気対策を実行し、景気が回復してから、増税するべき

だと考えられます。典型的なケース ( モデル ) の分析からは、この対策をとるべきだといえるはずです。



 もっとも、現実は多くの場合、典型例 ( モデルケース ) とは異なっています。いまの日本については、

 天下りのためのポストを用意するために、不必要な事業・支出がなされている疑いが濃く、ムダの点検・チェックを行い、予算を削減すべき合理的な理由があると思います。また、経済のクローバル化などにより、今回の不況は、そのうち自然に好況に転じることはなく、きわめて長期間、不況・デフレが続く可能性もあります。

 したがって、安易に 「増税を行わずに、景気対策を実行し、景気が回復してから、増税するべき」 だと結論してはならないとは思いますが、

 ひとつの理論的な枠組みとして、この視点 ( いまは増税を行わず、あとで増税する ) が有益であることには変わりありません。日本の国家財政を憂慮する声が高まりつつあることに鑑みれば、

   「いまは増税しませんが、景気が回復したなら、そのときには増税します ( …ので安心してください ) 」

という政策も、あながち、不合理とはいえないのではないか、と思います。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 財政改革のプロセス-政府支... | トップ | 政権交代と財政赤字 »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。