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米国に利用された日本のシーレーン防衛構想

2012-10-10 | 日記
孫崎亨 『日米同盟の正体』 ( p.36 )

 多くの日本人は、シーレーン防衛構想によって対潜水艦哨戒機P-3Cを保有したのは、石油を主体とする補給海路の確保のためであると理解している。だがそれは間違っている。次の文献を見ていただきたい。
 二〇〇一年に国家安全保障会議(NSC)日本・朝鮮担当部長、〇四年同上級アジア部長兼東アジア担当大統領特別補佐官の任に就くなど、米国国内で東アジアの専門家として信任されているマイケル・グリーンは、論文「力のバランス」で次のような説明をしている。
 当時、米国を標的とする核兵器の三本柱の新たな一本である潜水艦のために、ソ連がオホーツク海を海の要塞として使用していることに米国海軍はますます懸念を強めていた。レーガン政権は、米国の焦点を極東の同盟国に役割と任務を割り当てる問題へと移した。
 シーレーン防衛の政治的承認を勝ち取るための好機は、鈴木善幸総理が一九八一年五月、ワシントンを訪問したときに訪れた。鈴木は一〇〇〇カイリのシーレーンの防衛を意味することを宣言した。
 この距離はオホーツク海のソ連海軍力を封じ込めるに十分だった。おそらく、鈴木自身は自分の言った言葉の意味を十分に咀嚼(そしゃく)していなかった。これは欧州におけるソ連の攻勢に地球規模で対応するためオホーツク海のソ連の潜水艦を攻撃することを意味していた。
 日米同盟は何十年にわたり、アメリカを軍事的にアジアに留め、そして日本を西側に留めておくための道具であった。いまや、この同盟はソ連に対するアメリカのグローバルな軍事封じ込め戦略の中心的な構成部分となった。(スティーヴン・ヴォーゲル編著『好立か協調か』中央公論新社、二〇〇二年所収の要約)

 グリーンのこの解説は驚くほど率直である。グリーンは「いまや、この同盟はソ連に対するアメリカのグローバルな軍事封じ込め戦略の中心的な構成部分となった」、日本のシーレーン構想は「欧州におけるソ連の攻勢に地球規模で対応する」戦略の一環であると述べている。当時、日本政府の関係者の中で、こうした説明を国民に行った人はおそらく皆無であろう。さらに言えば、ぞっとする話であるが、当時、日本政府内にこのことを理解していた人はいなかったのではないか。これが日本の安全保障政策の実態てある。

(中略)

 日本は安全保障政策を考えるとき、ともすると米国の説明を鵜呑みにしたり、自分の論理だけで構成する。日本の安全保障を考える際は、常に国際的安全保障全体の中でどう位置づけられるかの視点がないと、とんでもない間違いを犯す。
 グリーンの議論、特に欧州におけるソ連の攻勢に地球規模で対応するためという部分は、日本の政策を考える際には、世界全体の安全保障の状況を考えなければならないことを示す好個の材料である。この問題がどうなっていたかをいくつかのステップに分けて説明してみよう。
  • 第一ステップ――一九七〇年当時、欧州戦線では、ソ連側は戦車の数で優位だった。質の面でNATO(北大西洋条約機構)側が優れ、軍事バランスは西側に優位である。しかし、量で優位に立つソ連が、自分は優位にあると判断し西欧を攻撃する危険性があった
  • 第二ステップ――ソ連が陸上戦闘を始めたときには米国はソ連を核攻撃する態勢をとった。その際、米国はソ連のICBM(大陸間弾道ミサイル)をほぼ完全に破壊する。したがって、米国本土が核で反撃されることはない。この態勢が維持できる限り、ソ連は第一ステップをとれない
  • 第三ステップ――ソ連がこれに対抗して欧州ではバレンツ海、東アジアではオホーツク海に戦略潜水艦を配備した。この戦略潜水艦が米国の攻撃時にも生き残るとなると、ソ連はニューヨークやワシントン等に報復攻撃を行いうることとなる。その際には仮にソ連が欧州戦線で陸上攻撃した際にも、米国は自国への核報復攻撃を恐れ、反撃できない
  • 第四ステップ――米国はバレンツ海、オホーツク海でのソ連の戦略潜水艦を攻筆する態勢を整える。バレンツ海での作戦は当時のNATO戦略の最重点地域となる
  • 第五ステップ――オホーツク海の周辺はソ連が実効支配している地域で囲まれている。さらに米国は七〇年代、東アジアの軍事的重要性は減少したとして、東アジアでの米軍の近代化を実施しなかった。オホーツク海のソ連の戦略潜水艦をめぐっての海上、航空戦闘能力はソ連の方が優位ですらあった。米国は対潜水艦攻撃能力を急増させる必要がある。しかし、国家予算の制約もあり、米国だけでは実施できない
  • 第六ステップ――対潜水艦攻撃能力強化に日本を参加させることを考える。しかし、日本人は戦略問題で巻き込まれることを警戒するので、戦略を述べず、日本人だけに通ずる論理を組み立てる。幸い日本は経済問題の利害に敏感で、日本経済は石油に依存している。これを利用し、このルートがソ連の潜水鑑によって攻撃される危険性を強調する。これによって日本に潜水鑑攻撃能力を持たせる。日本向けには南のシーレーン確保のためと言う。しかし、実際は北のオホーツク海を想定すればよい。ソ連がそう認識すれば抑止の効果が出る
  • 第七ステップ――日本は第六ステップの論理を受け入れる


 次にデヴィッド・リヴキンの論文を紹介したい。この論文は米国海軍関係で最も権威のある "PROCEEDINGS" 誌の一九八四年最優秀論文となった。
「ソ連は戦争では一気に政治・軍事の中心部を攻撃する戦略をとっており、海上輸送路を遮断するという作戦の比重は極めて低い。かつ最近の運用を見るとオホーツク海での戦略潜水艦を守ることに集中し、輸送路攻撃の比重はさらに下がっている」(筆者訳)

(中略)

 この問題で深刻なのは、日本がシーレーン防衛構想への参加を決めた際、シーレーン防衛構想を米国の戦略、特に欧州戦線との関連で考えた形跡がほとんどないことである。


 多くの日本人は、シーレーン防衛構想によって対潜水艦哨戒機P-3Cを保有したのは、石油を主体とする補給海路の確保のためであると理解している。だがそれは間違っている。実際には、米国の戦略を見抜けなかった日本が、米国に利用されたのである、と書かれています。



 おそらく著者の主張する通りなのでしょう。日本は、米国の戦略を見抜けず、米国に利用されたのでしょう。



 ここで、考えかたは2通りあります。

 一つは、米国は日本を利用しようとしている。日本は「汚い」米国と関わるべきではない。日米安保を破棄すべきである、という考えかた。

 一つは、だからといって、日米安保を破棄すべきではない。日本も戦略思考を身につければよい、という考えかた。



 上記のうち、どちらが適切でしょうか?

 現実問題として、いまの日本は、米国との同盟関係なしに安全を確保することは不可能でしょう。少なくとも、いまの段階では、現実的な選択肢としてあり得ない。

 とすれば、日本は日米安保体制を継続するほかに、選択はあり得ない、といえるのではないでしょうか。



 さらにいえば、米国が本当に「汚い」といえるのかも、疑問があります。

 米国は、「日本とともに、戦略を練りたかった」けれども、日本側にその意思または能力が欠けていたために、米国側は、日本を「騙して利用する」形をとらざるを得なかった、と考えられます。

 その根拠は、上記引用部のうち、
日本人は戦略問題で巻き込まれることを警戒するので、戦略を述べず、日本人だけに通ずる論理を組み立てる。幸い日本は経済問題の利害に敏感で、日本経済は石油に依存している。これを利用し、このルートがソ連の潜水鑑によって攻撃される危険性を強調する。これによって日本に潜水鑑攻撃能力を持たせる。日本向けには南のシーレーン確保のためと言う。しかし、実際は北のオホーツク海を想定すればよい。ソ連がそう認識すれば抑止の効果が出る
の部分です。

 日本側に、米国とともに戦略を練る意思・能力さえあれば、日米の同盟関係は、もっとすばらしいものになっていたと考えられます。



 とすれば、問題は結局、日本政府、とりわけ当時の外務省の無能である、ということにはならないでしょうか?

 日本側も「米国とともに、戦略を練る」態勢を整えれば、それですむ話だと思います。



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