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イラク戦争の目的

2011-10-02 | 日記
水野和夫・萱野稔人 『超マクロ展望 世界経済の真実』 ( p.43 )

萱野 いまの点に関連して、ここでイラク戦争の話をさせてください。イラク戦争というのは、いまの議論にあった、市場メカニズムをつうじて石油価格が決定されるようになったという話とものすごく関係しているんですよ。
 取り上げたいのはアメリカがイラクを攻撃した理由です。そもそもなぜアメリカはイラクを攻撃したのか、実際のところあまり理由が明らかにされていませんよね。

水野 最初アメリカは、イラクが大量破壊兵器を隠しもっていると主張して、実際に査察をしましたが、まったく何も出てきませんでしたね。

萱野 そうなんです。それでもアメリカは、イラクは脅威だということで戦争をはじめました。国連安保理でフランスやドイツに反対されたり、世界中でイラク戦争反対の運動が起こったにもかかわらず、です。では、なぜアメリカはそこまでイラクを攻撃することに固執したのか。よくいわれるのは、アメリカはイラクにある石油が欲しかったからだ、という理由です。
 実際、イラクの石油埋蔵量は世界トップクラスです。それに、イラクの石油はすごく良質だといわれています。地表から火が吹き出ている様子をテレビなんかでみたことがある人もいるかと思いますが、イラクの油田は地面の浅いところにあり、また不純物が少ないということで、ひじょうに安価に採掘できるらしい。だから、イラクでの石油採掘権を独占できれば、たしかに大きな利益を得ることができるでしょう。
 また、イラク戦争の理由が石油利権にあることの根拠として、ブッシュ一家が石油会社のオーナー・ファミリーだった点をあげる人もいます。たしかにブッシュ・ファミリーと石油産業には深いつながりがあります。シニア・ブッシュ大統領の父、プレスコット・ブッシュは銀行経営で財をなし、シニア・ブッシュが石油会社を設立する際に多額の資金を援助しました。そして石油ビジネスの成功によって得た財力を背景に、ブッシュ・ファミリーは二代にわたってアメリカ合衆国大統領を輩出したわけです。こうした事情から、イラク戦争には石油利権がからんでいるだろうといわれたんですね。

水野 日本のメディアは特にそんな論調でしたね。

萱野 でも、イラク戦争の理由を石油利権から説明しようとすることは的を射ていません。なぜかというと、アメリカがイラクを攻撃して、イラクの石油をすべてアメリカの利権として囲い込むことは、そもそもいまの国際石油市場の構造からいって無理ですから。

水野 すでに石油そのものが戦略物資から国際的な市況商品になってしまったわけですから、石油を植民地主義的に囲い込むことなんでできませんよね。戦争をして勝ったからといって、その領土の資源を囲い込むことはいまや難しい。

萱野 そうなんですよ。しかしそれを理解していない論者が多すぎます。とくに左翼ですね。彼らはいまだに「軍事的な支配によって、ある領土の市場や資源を囲い込むことができる」という植民地主義的な発想から抜け出ていません。
 では、なぜアメリカはイラクを攻撃したのか。どんな戦争であれ、戦争が開始されるときにはもちろん複数の要因が作用します。ひとつの理由しかないということはありえません。これはイラク戦争でも同じです。しかし、そうした複数の要因のなかでもとりわけ重要な要因があります。
 まず、一九九九年にEUにおける共通通貨、ユーロが発足しますね。その一年後の二〇〇〇年一一月にイラク大統領だったフセインが、これからは石油の売上代金をドルでは受け取らない、すべてユーロで受け取る、ということを国連に対して宣言し承認されました。当時まだイラクは湾岸戦争後の経済制裁を受けていたので、石油の輸出を制限され、その売上代金はすべて国連が管理していました。その口座のお金を、フセインはドルからユーロに変えてしまったのです。
 これはアメリカにとってものすごく嫌な措置でした。というのも、フセインの決定は「石油の国際取引は原則としてドルで決済しなくてはならない」というルールに挑戦するものだったからです。

水野 つまり、石油に裏づけられたドルの基軸通貨体制にフセインは対抗してきたわけですね。

萱野 そうです。一九七一年のニクソン・ショックによってドルは金の裏づけをなくしてしまいましたよね。しかし、それでも冷戦が終わるまでは、西側諸国は協調してドル基軸通貨体制を護持してきました。社会主義陣営に対して資本主義体制を守らなくてはならないという意識からです。しかし冷戦も終わったいま、ドル基軸通貨体制を裏づけるものは石油しかありません。そこにフセインは挑戦してきた。
 このフセインの決定に、たとえばリビアのような反米の産油国も追従する動きをみせます。それに新たにユーロを発足させたEU諸国だって内心ではうれしかったはずですよね。

水野 もしユーロで石油を取引できるようになれば、ユーロ加盟国はわざわざドルに換金して石油を買わなくてもすみますからね。

萱野 逆にアメリカにとってはたまったものではありません。ドル以外の通貨でも石油を買えるようになれば、誰も赤字まみれのドルを受け取ってくれなくなり、場合によってはドルが暴落してしまうかもしれませんから。
 だからアメリカはどうしてもフセインの決定をつぶさなくてはならなかった。フセインを倒して、基軸通貨としてのドルの地位を守らなくてはならなかったのです。こうして最終的にアメリカは、イラクをテロ支援国家と位置づけて、二〇〇三年三月にイラク攻撃をはじめたのです。
 要するに、イラク戦争というのは、イラクにある石油利権を植民地主義的に囲い込むための戦争だったのではなく、ドルを基軸としてまわっている国際石油市場のルールを守るための戦争だったんですね。これはひじょうに重要なポイントです。

水野 なるほど。イラク戦争は、石油そのものではなく、石油についての国際的な経済ルールをめぐってなされた戦争だということですね。


 イラク戦争は石油を手に入れるための戦争ではなく、ドル基軸通貨体制を守るための戦争だった、と書かれています。



 ドルの価値が石油に裏づけられていることや、イラク戦争にはドル基軸通貨体制を守るという動機があった、という著者らの主張そのものは、正しいと思います。

 しかし、石油を手に入れるための戦争ではなかった、という部分(主張)は、間違っていると思います。イラク戦争の背景には、

   (1) ドル基軸通貨体制を守る
   (2) 石油資源を手に入れる

という「2つの」目的があったと考えることに、なんら不都合はありません。したがって、ここで (2) を排除する必要はありません。

 著者らは、
萱野 でも、イラク戦争の理由を石油利権から説明しようとすることは的を射ていません。なぜかというと、アメリカがイラクを攻撃して、イラクの石油をすべてアメリカの利権として囲い込むことは、そもそもいまの国際石油市場の構造からいって無理ですから。

水野 すでに石油そのものが戦略物資から国際的な市況商品になってしまったわけですから、石油を植民地主義的に囲い込むことなんでできませんよね。戦争をして勝ったからといって、その領土の資源を囲い込むことはいまや難しい。

萱野 そうなんですよ。しかしそれを理解していない論者が多すぎます。とくに左翼ですね。彼らはいまだに「軍事的な支配によって、ある領土の市場や資源を囲い込むことができる」という植民地主義的な発想から抜け出ていません。
と述べ、石油価格が市場で決定されることを根拠として「(2) 石油資源を手に入れる」だった可能性は「ありえない」と主張していますが、

 石油価格が市場で決定されているとはいっても、
  1. 産油国には「売らない」という選択肢がある以上、石油の戦略資源性が「完全に」失われているとまではいえず、
  2. 油田を手に入れれば、「市場価格で」売って利益を得られる
わけですから、イラク戦争に「(2) 石油資源を手に入れる」という動機がなかったとまでは言い切れないはずです。



 著者らと同様、私も、
どんな戦争であれ、戦争が開始されるときにはもちろん複数の要因が作用します。ひとつの理由しかないということはありえません。これはイラク戦争でも同じです。
と思います。2つの動機が併存していたと考えることに、なんら不都合はありません。したがって、「(2) 石油資源を手に入れる」だった可能性を排除する必要はありませんし、(著者らが述べている理由で)排除してはならないと思います。



 なお、ドルと石油が切り離されれば「誰も赤字まみれのドルを受け取ってくれなくなる」という(著者らの)主張にも疑問があります。そもそも基軸通貨とは「赤字」国の通貨でなければならないはずです。とすれば、著者らがイラク戦争の動機として主張する「(1) ドル基軸通貨体制を守る」も少しあやしくなってきます。

 しかし、これをもって (1) の可能性を排除する必要もありません。(1) と (2) 、両方の動機が併存していた、と考えれば、それで十分だと思います。



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