言語空間+備忘録

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中国の労働法

2010-05-07 | 日記
アレクサンドラ・ハーニー 『中国貧困絶望工場』 ( p.73 )

 ユージン・チャン (引用者註: 仮名) はウォルマートの役員が監査に訪れた工場のオーナーであり、世界有数のオフショア生産拠点の一つであった香港で育った。

(中略)

 数年前、チャンはウォルマートへの納品契約を獲得しようと決意した。それが難しい仕事であることはわかっていた。詳細は後述するが、一九九〇年代からウォルマートなどの巨大多国籍企業は納入業者に対し、自社が定めた企業倫理行動規範の遵守を求めるようになった。この行動規範の内容は企業によって異なるが、少なくとも労働時間の制限、安全設備の設置および従業員に対する法定最低賃金の支払いを求めている。さらに、地元の労働法を遵守することを要件としている場合もある。ウォルマートから納入業者として認められるためには、以上のすべてを満たす必要があった。チャンにとって最大の難題は労働時間の条件であった。ウォルマートの納期に果たして間に合うのか、労働時間に関する国内法を守り切れるのか、と不安を覚えたのである。
 改革開放後の中国には一九九四年まで労働法はなかったが、その翌年から施行された。労働法では、労働時間は週平均四四時間、毎月の残業時間は三六時間以内、標準労働時間は八時間、休日は毎週一日および祝祭日として最低でも年間四日とすることが定められた。国内企業が従業員に週の標準労働時間を超えて働いてもらいたければ、まずは従業員本人か労働組合と交渉することが労働法で定められているが、実際には、企業が地元の当局との協議を通じ、この規定の適用免除扱いを受けることが認められている。平日の残業代は通常賃金の一・五倍、(日曜や祝祭日以外の) 休日出勤では同二倍、日曜日や祝祭日の出勤ならば同三倍になる。また、一日三時間を超える残業は認められていない。
 比較のために米国の公正労働基準法を見てみると、週四〇時間を超えて働く従業員は超過勤務手当として一時間当たり通常賃金の一・五倍以上をもらえることになっている。従業員の種類に応じて例外規定はあるが、一六歳以上の場合は労働時間の上限を定めていない。さらに、週四〇時間を超えて働く従業員を除き、雇用主には日曜、祝祭日を含めた休日の残業代を支払う義務はない。
 中国の労働法は、国家が鄧小平 (トウショウへイ) の指導の下で市場経済に移行し、労働者の不安が顕在化したために定められたものである。一九九二年の南巡講話後、鄧小平 (トウショウへイ) は市場改革を推進する決意を表明し、労働法に新しい経済体制を反映させるべきか否かの議論が始まった。法治主義の進展に向けた広範囲な動きの一環として、労働法は外国投資家に対し、中国が安定した投資先であり、法律の行き届いた国であるという安心感を与えるために定められたものである。中国の官僚は欧州各国など他国の労働法を参考に制定した。

(中略)

 チャンは確信している。
「中国で労働法を守っていたら、ビジネスなんてとても長続きしない」
 後日、チャンのビジネスパートナーであるフィリップ・ラムも口を揃えた。
「取引先は自分たちの考え方が合理的であると思っているのだろうが、我々から見れば、彼らの要求する価格はとても合理的とはいえない。だからこそ、一定の利益を確保するためには、何とかして他の方法を考え出さなければならないのだ」


 1995 年から施行された中国の労働法が、米国の労働法と比較しつつ、紹介されています。また、ウォルマートなどが取引先工場に要求している倫理規定の内容も紹介されています。



 中国に労働法が制定されたことによって、中国の労働者の権利は、一見、保護されるかに思われます。

 しかし、労働法が制定されたのは、( 中国における ) 労働者の権利を保護するためではなく、「外国投資家に対し、中国が安定した投資先であり、法律の行き届いた国であるという安心感を与えるために定められたもの」 であるなら、実際には、労働者の権利は保護されない可能性が高いのではないかと思います。( 中国の ) 当局は、労働者の保護ではなく、経済発展を意図している、と考えられるからです。

 本来、労働法というものは、労働者を保護するためのものであるはずです。それにもかかわらず、中国の労働法は、( 中国における ) 労働者の保護ではなく、投資家 ( 資本家 ) を誘致するために制定されています。したがって、

   おそらく労働者保護は形だけで、実際には、当局は資本家を優先している、

と考えられます。



 もちろん、「市場経済に移行し、労働者の不安が顕在化したために定められたものである」 とも書かれており、労働者の保護をも、念頭に置いているのだろうとは思います。しかし、「経済発展優先、資本家優先」 であることには、変わりないのではないかと思います。それが証拠に、

「国内企業が従業員に週の標準労働時間を超えて働いてもらいたければ、まずは従業員本人か労働組合と交渉することが労働法で定められているが、実際には、企業が地元の当局との協議を通じ、この規定の適用免除扱いを受けることが認められている。」

と書かれており、ここには、当局の 「経済発展優先、資本家優先」 という姿勢が現れています。



 引用文中のチャンの言葉、「中国で労働法を守っていたら、ビジネスなんてとても長続きしない」 と併せ考えれば、中国の労働者は、かなり厳しい立場に置かれていると思われます。
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