言語空間+備忘録

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北方領土返還の可能性

2011-01-25 | 日記
櫻井よしこ 『異形の大国 中国』 ( p.117 )

 92年以降、ロシア極東と中国との、人とモノの流れは倍増した。特に中国側から多くの人口が流入した。ちなみに、ロシア極東の人口は当時800万人だが、ソ連解体後、移住の自由が許されたために、この10年で100万人も減少した。他方、一億を超える中国東北部の人口は河を越えてロシア側に移り始めた。ロシア極東での中国人の増加は現在も顕著で、一世代後には "人口力" によってロシア極東は事実上中国領土になると、ロシア知識人らは心配し深刻な声音でこう語るのだ。
「われわれは、中国人よりも日本人に来てほしいのです」
 極東ロシア人の中国脅威論は、大挙して押し寄せる中国人を見ているだけに切迫感がある。住民の反中国感情は高まり、中国に領土を譲る形での国境画定には強硬な反対論がおこった。ロシア外務省はこうした中で中国との国境画定交渉を続けた。
 04年10月14日、プーチン大統領と胡錦濤国家主席は、突然、中露国境問題は完全に解決したと発表し、世界を驚かせた。解決法は「フィフティ・フィフティ」と呼ばれ、係争領土の面積を半々に割り、領土面積のみならずその他の利益も双方同等に考慮したといわれている。
 だが、両国政府は合意内容の詳細の発表を当初控えた。中国側は特に厳しく報道を規制したが、それは「譲りすぎ」「敗北外交」と批判されることを恐れた結果だと言われている。そうした批判がさらに政府批判へと傾くことを恐れているのだとも見られている。
 中国政府が恐れる国民の反発は、ロシア政府にとっても同様だ。05年11月に来日したプーチン大統領は北方領土問題は解決済みという姿勢を維持した。北方領土は国際法によってもロシア領であると確認されていると、事実無根の挑発的な発言も行った。プーチン大統領の強硬発言の意味をロシア側はこう解説する。
「中国との国境線画定でプーチン大統領は中国に譲り、今また日本に譲るのかと疑われるのを避けるためにも、強硬発言が必要だった。だがそれは空論ではなく、ロシアの本音そのものだ。日本に北方領土を返す確率はゼロ、全くのゼロだ」

(中略)

 中国問題専門家の平松茂雄氏は、中国の国家目標は清朝の支配した領土の復活だと指摘する。そのような中国に対して、中国が強大になりすぎる前に手を結ぶのが得だとロシアが判断したとの見方も成り立つのだ。
 無論、中国との "良好" な関係は、両国関係全般に評価すべき前向きの影響も生み出した。またロシアにとってそれは米国や日本に対する切り札にもなり得る。「北方領土返還の可能性はゼロ」と繰り返したロシアの有力者はこうも述べた。
「ロシア経済はかつてなくすばらしい。中国とは経済、軍事、全ての面で交流が活発だ。日本の投資と経営力は必要だが、すでにトヨタはきている。全てが順調ないま、なぜ、領土を返すのか。領土返還なしには平和条約はないと日本政府が言うなら、我々はそれでよい」
 日本の代表的企業といえども、領土という政治問題を飛び越えて投資に踏み切れば、その企業は日本籍というより、実態として無国籍企業の性格を帯びる。そうした企業の存在はロシアの立場を強め、島を返してまで日露関係を改善しなくてもよいと思わせるだけの余裕を彼らに与える。


 極東ロシアでは、中国人の流入に対する危機感・反中国感情が高まっている。2004 年 10 月 14 日に中露国境問題が解決したいま、ロシアでは「日本に北方領土を返す確率はゼロ、全くのゼロだ」「全てが順調ないま、なぜ、領土を返すのか。領土返還なしには平和条約はないと日本政府が言うなら、我々はそれでよい」とロシア有力者は述べた、と書かれています。



 「ロシア極東での中国人の増加は現在も顕著で、一世代後には "人口力" によってロシア極東は事実上中国領土になると、ロシア知識人らは心配し」て、
「われわれは、中国人よりも日本人に来てほしいのです」
と言うなら、もっと親日的な政策、すなわち北方領土の返還に向けた動きを政治面でみせてほしいところですが、そのような動きがみられないということは、要は、

   そこまでして日本人に来てほしいとは思わない

ということなのでしょう。

 もっとも、ロシア側の希望は「定住してほしい」ということだと思います。

 日本では出生率が低下し、人口が減り続けていますので、北方領土が返還された場合であっても、極東ロシアに移住する日本人はほとんどいないのではないかと考えられます。

 とすれば、領土が返還されようがされまいが、ロシアにおける「中国人問題」はなくならないと考えられます。したがってこの要因によって、日本に領土が返還される可能性は考え難いと思います。



 ところで、上記引用部分のうち、ロシア有力者の次の発言が気になります。
「ロシア経済はかつてなくすばらしい。中国とは経済、軍事、全ての面で交流が活発だ。日本の投資と経営力は必要だが、すでにトヨタはきている。全てが順調ないま、なぜ、領土を返すのか。領土返還なしには平和条約はないと日本政府が言うなら、我々はそれでよい」
 この発言が意味しているのは、「善意」でもって「親切」にし続けたところで、「日本にとってよい結果にはならない」ということだと思います。ロシアの経済発展に協力し、ロシア人が「親日」になったところで、領土は返還されないと予想されます。

 「こちらが善意で接すれば、相手も善意で応えて(こたえて)くれる」といった考えかたは、国際政治、とくに領土問題に関しては、成り立たないとみてよいのではないかと思います。

 とすれば、北方領土問題にかぎらず、尖閣諸島についても、竹島についても、日本は外交方針そのものを間違えている、ということになるのではないでしょうか。中国のような「恫喝外交」がよいとまでは思いませんが、日本のような外交方針にも、問題があると言わざるを得ないのではないかと思います。

2 コメント

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Unknown (memo26)
2011-05-25 19:07:32
 そういう考えかたもありますね。しかし、北方領土にはすでにロシア人が定住しているので、ロシアは死守するのではないかとも考えられます。
 北方領土についても、機会をみて、さらに考えたいと思います。
焦る必要全然なし (四葉のクローバー)
2011-05-24 11:43:35
ロシア極東部での人口減少と中国人流入による国土荒廃・治安悪化は、止まらないと思います。

従って、極東の中でも、さらに辺境に位置する北方領土については、地政学的、経済学的、人口学的に言っても、早晩、ロシアが持ち堪えられなくなるのは明らかです。

また、ロシアがあくまで、岩に毛が生えた程度の二島(歯舞と色丹)しか返還しないのであれば、むしろ返還されない方が、長期的に見ても、日本の国益にプラスです。


日本は決して焦る必要はありません。


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