5月4日 NHK海外ネットワーク
国連安全保障理事会で各国の言語が飛び交う議場の上にある通訳専用ブース。
瞬時に正確に訳すことが求められる通訳官の仕事場である。
その数は総勢110人。
(国連の通訳官)
「大変だからこそ面白い。」
「ミスが許されないのがエキサイティングだ。」
(国連 通訳部部長)
「彼らは世界最高の通訳たちだ。」
国連の公用語は英語、フランス語、アラビア語、ロシア語、スペイン語、中国語など6つである。
議場が見渡す場所に専用のブースが設けられそれぞれの言語の担当が同時通訳を行っていく。
第二次世界大戦後 ナチスドイツの罪を裁いた国際軍事法廷 ニュルンベルグ裁判。
今の国連での同時通訳は約70年前のこの裁判での通訳の進め方が原型となっている。
それまでの国際会議では出席者の発言がひと区切りついたところで訳すというのが一般的だった。
しかしこれではいくつもの言語が飛び交う裁判の進行に時間がかかりすぎるため
同時通訳の手法が取り入れられるようになったとされている。
同時通訳の中でも国連の通訳官は国と国との利害がぶつかる議論を扱うだけに
最高レベルの技術と経験がないと務まらないと言われている。
採用試験に応募してくるのは大学院などで高い学識を身につけた人たちばかりだが
合格率はわずか5%。
アラビア語の通訳官でエジプト出身のナビル・アブデルアルさん(57)。
1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦勝を目前にした安全保障理事会など
歴史的な場面で通訳を任されてきた達人である。
アメリカの国連大使の発言をほぼ時間差なくアラビア語に訳す。
(同時通訳)
(アメリカの国連大使)
「関係者が交渉を中断したら私たちは和平に必要な決断を下すことができない。」
速さと正確さだけでなく話し手の表情も観察しながらその思いまで伝えるよう努めている。
(ナビルさん)
「発音、文法、専門用語なども考慮に入れ忠実に真摯に正確に伝えるのが通訳。」
エジプトの大学院で英文学を専攻していたナビルさん。
自分の力を試そうと32年前国連本部の通訳官に応募し合格。
アメリカに移住した。
英文学で博士号を持ち世界の文学や言語学などにも知識を広げてきた。
この博識ぶりから「ドクター」と呼ばれ同僚たちから頼りにされている。
(同僚の通訳官)
「とても勉強熱心で一緒に仕事がしやすい人だ。」
しかしそんなナビルさんも通訳を始めたばかりのころはついて行けずマイクの前で言葉に詰まることもあったと言う。
どんな場面でも的確な通訳ができるよう人一倍努力を重ねてきたナビルさん。
今も勉強を絶やすことはない。
ナビルさんがこれまで培ってきた知識と経験がいかんなく発揮されたときがあった。
シリアの内戦をめぐってシリアの国連大使と反政府勢力を支持するサウジアラビアの国連大使がアラビア語で突然非難の応酬を始めたのである。
筋書きのない二人のやり取り。
ナビルさんはあわてることなく正確に通訳した。
(同時通訳)
(サウジアラビアの国連大使)
「シリア政府は自国民に対して戦争を起こした。」
(シリアの国連大使)
「サウジアラビアこそ暴力やテロを助長しシリア国民の流血を生き起こそうとしている。」
さらにアラブの詩を引用した発言まで飛び出しナビルさんの教養が試される事態に。
(同時通訳)
(サウジアラビアの国連大使)
「アラブの有名な詩人であるアハマド・シャウキの詩で締めさせてもらう。」
サウジアラビアの大使が引用したのはアラブ世界で最も有名な詩人アハマド・シャウキ(1868~1932)の詩の一説。
20世紀初頭の戦乱で今のシリアの首都ダマスカスの荒廃を憂う詩を今の内戦の惨状に重ね合せたのである。
「『おお ダマスカスよ
私の涙は止まらない
悲しみよ・・・』」
シリアの大使も母国の詩で対抗した。
(同時通訳)
(シリアの国連大使)
「私のシリアの偉大な詩人ニザール・カバニの詩で終えたい。
『アラブの民であることは
何と苦しく厳しい仕打ちなのか』」
戦乱が絶えないアラブの宿命を嘆いた詩。
文学にも通じたナビルさんにこそできた通訳だった。
(ナビルさん)
「詩を訳すのは時間がかかる。
簡単には訳せない。
難しくて気分が高ぶった。」
ナビルさんに心が休まる暇はない。
この日の担当はパレスチナ情勢をめぐる安保理での公開討論。
アメリカが仲介するイスラエルとパレスチナの和平交渉は4月に再び暗礁に乗り上げた。
新たな衝突が起きることが懸念されているが打開に向けた糸口は見つかっていない。
(ナビルさん)
「中東には様々な問題がある。
発言をいかに正確に伝えるかが非常に大切。」
故郷中東の現状に心を痛めるナビルさん。
プロフェッショナルに徹することで祖国エジプトや中東の平和や安定につなげたいと願っている。
国連安全保障理事会で各国の言語が飛び交う議場の上にある通訳専用ブース。
瞬時に正確に訳すことが求められる通訳官の仕事場である。
その数は総勢110人。
(国連の通訳官)
「大変だからこそ面白い。」
「ミスが許されないのがエキサイティングだ。」
(国連 通訳部部長)
「彼らは世界最高の通訳たちだ。」
国連の公用語は英語、フランス語、アラビア語、ロシア語、スペイン語、中国語など6つである。
議場が見渡す場所に専用のブースが設けられそれぞれの言語の担当が同時通訳を行っていく。
第二次世界大戦後 ナチスドイツの罪を裁いた国際軍事法廷 ニュルンベルグ裁判。
今の国連での同時通訳は約70年前のこの裁判での通訳の進め方が原型となっている。
それまでの国際会議では出席者の発言がひと区切りついたところで訳すというのが一般的だった。
しかしこれではいくつもの言語が飛び交う裁判の進行に時間がかかりすぎるため
同時通訳の手法が取り入れられるようになったとされている。
同時通訳の中でも国連の通訳官は国と国との利害がぶつかる議論を扱うだけに
最高レベルの技術と経験がないと務まらないと言われている。
採用試験に応募してくるのは大学院などで高い学識を身につけた人たちばかりだが
合格率はわずか5%。
アラビア語の通訳官でエジプト出身のナビル・アブデルアルさん(57)。
1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦勝を目前にした安全保障理事会など
歴史的な場面で通訳を任されてきた達人である。
アメリカの国連大使の発言をほぼ時間差なくアラビア語に訳す。
(同時通訳)
(アメリカの国連大使)
「関係者が交渉を中断したら私たちは和平に必要な決断を下すことができない。」
速さと正確さだけでなく話し手の表情も観察しながらその思いまで伝えるよう努めている。
(ナビルさん)
「発音、文法、専門用語なども考慮に入れ忠実に真摯に正確に伝えるのが通訳。」
エジプトの大学院で英文学を専攻していたナビルさん。
自分の力を試そうと32年前国連本部の通訳官に応募し合格。
アメリカに移住した。
英文学で博士号を持ち世界の文学や言語学などにも知識を広げてきた。
この博識ぶりから「ドクター」と呼ばれ同僚たちから頼りにされている。
(同僚の通訳官)
「とても勉強熱心で一緒に仕事がしやすい人だ。」
しかしそんなナビルさんも通訳を始めたばかりのころはついて行けずマイクの前で言葉に詰まることもあったと言う。
どんな場面でも的確な通訳ができるよう人一倍努力を重ねてきたナビルさん。
今も勉強を絶やすことはない。
ナビルさんがこれまで培ってきた知識と経験がいかんなく発揮されたときがあった。
シリアの内戦をめぐってシリアの国連大使と反政府勢力を支持するサウジアラビアの国連大使がアラビア語で突然非難の応酬を始めたのである。
筋書きのない二人のやり取り。
ナビルさんはあわてることなく正確に通訳した。
(同時通訳)
(サウジアラビアの国連大使)
「シリア政府は自国民に対して戦争を起こした。」
(シリアの国連大使)
「サウジアラビアこそ暴力やテロを助長しシリア国民の流血を生き起こそうとしている。」
さらにアラブの詩を引用した発言まで飛び出しナビルさんの教養が試される事態に。
(同時通訳)
(サウジアラビアの国連大使)
「アラブの有名な詩人であるアハマド・シャウキの詩で締めさせてもらう。」
サウジアラビアの大使が引用したのはアラブ世界で最も有名な詩人アハマド・シャウキ(1868~1932)の詩の一説。
20世紀初頭の戦乱で今のシリアの首都ダマスカスの荒廃を憂う詩を今の内戦の惨状に重ね合せたのである。
「『おお ダマスカスよ
私の涙は止まらない
悲しみよ・・・』」
シリアの大使も母国の詩で対抗した。
(同時通訳)
(シリアの国連大使)
「私のシリアの偉大な詩人ニザール・カバニの詩で終えたい。
『アラブの民であることは
何と苦しく厳しい仕打ちなのか』」
戦乱が絶えないアラブの宿命を嘆いた詩。
文学にも通じたナビルさんにこそできた通訳だった。
(ナビルさん)
「詩を訳すのは時間がかかる。
簡単には訳せない。
難しくて気分が高ぶった。」
ナビルさんに心が休まる暇はない。
この日の担当はパレスチナ情勢をめぐる安保理での公開討論。
アメリカが仲介するイスラエルとパレスチナの和平交渉は4月に再び暗礁に乗り上げた。
新たな衝突が起きることが懸念されているが打開に向けた糸口は見つかっていない。
(ナビルさん)
「中東には様々な問題がある。
発言をいかに正確に伝えるかが非常に大切。」
故郷中東の現状に心を痛めるナビルさん。
プロフェッショナルに徹することで祖国エジプトや中東の平和や安定につなげたいと願っている。