MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

日本パブリックサービス通訳翻訳学会(1)

2006-04-05 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
前回まで、医療通訳研究会(MEDINT)の成り立ちのお話をしました。
ただ、以前よりずっと気になっていたことがあります。それは、日本の通訳者に2種類の通訳者がいるということです。
ひとつは、いわゆる会議などの同時通訳や会社取引などの商用通訳、外国語放送の通訳やエンターテインメントの通訳など、プロの通訳者と呼ばれる人たちです。欧米の言葉が中心ですが、立派な職業として成り立っています。
もうひとつの通訳者、日本に住んでいる外国人が使う通訳者の現場はどうしょう。警察や裁判所、病院や行政窓口など専門の窓口では、100%日本語での会話ができない外国人はたくさんいます。彼らは日常生活においては「日本語」を使うことが前提と考えられていて、母語でのサービスを受けるには自分で通訳者を探してくるしかないのが現状です。そうした人々のアクセス権を支援するのが、もうひとつの通訳者、パブリックサービス通訳者です。専門用語への精通はもちろんのこと、在住外国人を取り巻く状況や制度などにも精通し、人権の立場で活動します。しかし、来日日数の浅い外国人の中に通訳支援が必要な人が多いことから、クライアント自身が支払うことができないために、こうした通訳者は未だプロ化されておらず、多くの場所でまだ無償ボランティア(私はこの言葉が嫌いです)に頼っています。
医療通訳では、一部集住地区の病院で、通訳者を雇用している場所はありますが、それはまだ非常にレアケースで、日本中どこでも外国人が医療通訳者を使って受診することができるという環境は整っていません。医療通訳の制度化にむけて、モデルケースを探して悩んでいました。
私は、まだ「通訳制度」と「外国人の人権」が完璧に保障された国家は存在していないと思っています。欧米のどんなモデルを日本にあてはめても、その背後にある文化的な配慮がなければ、失敗してしまうという考えです。
そこで、目をつけたのが日本の「司法通訳人」制度です。私自身、当番弁護士通訳や接見、刑事裁判の通訳の経験がありますが、書記官というコーディネーターの存在、不明瞭ではあるけれどきちんと裁判所から振り込まれる通訳料は、医療通訳の現状にくらべれば、はるかに整備されたものです。しかし、そう遠くない昔には、こうした司法通訳人はほとんど存在しなかったはずです。では、誰がこの制度を作るために動いたのか。すでに日本社会で定着しつつあるこの制度の、人と組織から学ぶことが一番の早道ではないかと気づきました。それが「日本司法通訳人協会(JJIA)」です。
会長の長尾先生は、通訳の世界ではとても有名な方です。お声をかけるにはかなり勇気がいったのですが、とても気さくに、話を聞いてくださいました。司法通訳もまだ完璧な制度にはなっていませんが、それでもJJIA(日本司法通訳人協会)の皆さんは10年かけて様々な問題を解決してきました。「司法が10年かかったのだから、医療もそれよりも短い期間で制度化が可能。司法のたどった道を参考にすればいい。」と力強い言葉をもらいました。その頃は、まだ夢だと思っていた「司法」「医療」「行政」のパブリックサービス専門通訳がひとつになって一気に動きだしました。 続く


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