goo

(「子どもがほしい」の向こう側)流産・死産編:下 悲しみ認め合い、心重ね

【出所:2017年4月21日 朝日新聞】

 東京都内に住む夫(54)と妻(52)に、子どもはいない。時折、11年前に流産したわが子のことを思い出す。例えばテレビのCMで、家族に1人、2人と子どもが増える様子を目にした時だ。

 ■夫婦で手握り、ともに涙

 夫は「望むべくもない家族像。でも、寂しさを強くは感じないんです」。妻は「胸の中が乾いて空っぽになるような、何とも言えない喪失感に見舞われる」と、思いは違う。それでも、「幸せそうな映像をじっと見つめる私の頭を、彼がポンポンとなでてくれることもある」。妻は自分の気持ちを認めてもらっていると感じ、安心するという。

 夫37歳、妻35歳で結婚した。2年後に不妊治療を始め、人工授精から体外受精へ。妻は仕事を辞め、より高度な治療を受けたが、願った結果は得られなかった。

 「努力しても報われない治療だ」と思っていたころ、妻の42歳の誕生日に妊娠がわかった。高齢出産になるため手放しでは喜べなかったものの、期待は膨らんだ。夫は夜、小さな命が映った超音波検査の写真を笑顔で見つめ、妻は成長日記をつけた。

 妊娠3カ月になってからの診察の日、妻は不妊クリニックを「卒業」し、次から出産する病院に通うはずだった。

 「あれ?」という医師の言葉で、子宮を映す超音波のモニターを見た。前回の診察で動いていた、赤ちゃんの心臓が止まっていた。「流産」と診断される前から、涙があふれた。
 待合室にいる人たちに気づかれないよう、クリニックのトイレにこもり、仕事中の夫に電話をかけた。嗚咽(おえつ)しながら、「心臓が……いなくなっちゃった」と絞り出すのが、精いっぱいだった。

 夫は仕事を切り上げ、妻が待つクリニック近くの喫茶店に駆けつけた。右手をそっと出すと、妻は握り返した。言葉は交わさず、互いを見つめ、涙を流した。20分くらい経ち、夫が「残念だったね」とつぶやいた。

 2人の気持ちは、必ずしも同じわけではない。妊娠前、治療をめぐって激しいけんかを経験し、気づいていた。

 長時間、診察を待つしんどさや、体外受精のために、針を刺して卵子を取り出す時の痛み。そうした治療について積極的に尋ねようとしない夫に、「なんで私の気持ちをわかってくれないの」と妻は怒りをぶつけた。

 夫も「僕は体感できないから、全てはわからない」と思わず言い返した。「『大変だったね』なんて励まして、わかったふりはできない」という考えが根底にあった。

 立場が違えば、感じ方も違う。それを確かめる話し合いを深夜まで続けた。妻は感情をぶつけて理解してもらおうとするのをやめた。どう伝えたら、互いに歩み寄れるのかを考えるようになった。

 だからこそ、流産した時に喫茶店で悲しみを「認め合えた」ことは、2人にとって忘れられない出来事になった。

 「いつも冷静な夫が私の前で流す涙と、握手で、ずっと一緒に治療を歩んできてくれたんだと思いました」と妻。夫は「あの時、お互いの気持ちを完全にわかっていたわけではないと思う。でも信頼して支え合っていると、実感できました」と振り返る。

 ■「感情の共有方法、話し合って」

 流産や死産を経験した人の相談に応じる生殖心理カウンセラーの石井慶子さん(60)は、「子どもを失った悲しみには、夫婦間で個人差や男女差がある。それが2人の気持ちのすれ違いにつながることがある」と話す。

 妻は、妊娠したことを夫より強く実感し、胎児が亡くなった場合に体の外へ出す手術を受けるなど、身体的にも痛みを感じる。

 「夫が泣かない」「テレビを見て笑っている」。石井さんはカウンセリングで、そんな妻の嘆きを聞く。一方、夫の側からは「仕事中にふと涙が出る」「家で妻が悲しんでいると思うと、玄関のドアを開けるのがつらい」と打ち明けられる。悲しみを抱えながら、妻の前では表に出さないケースも多いという。

 また、子どもを亡くした悲しみは、月日が経っても、ふとした時にあふれ出る。直後は気丈にふるまいながら、後から落ち込む人もいる。

 心配する気持ちから発したとしても、「泣かないで」など相手の感情を抑えるような言葉をかけるのは避けた方がいいという。夫婦でうまくコミュニケーションをとるために、普段からルールを作るよう勧める。

 例えば、泣いた時は励まさずに抱きしめてほしいと、あらかじめ伝えたり、離れた場所にいても、その時の気持ちを短いメールで送り合ったり。「『気持ちを察して』だけでは、感情を共有するのは難しい。具体的な方法を話し合うといいでしょう」

     ◇

 石井さんらカウンセラー3人は5月28日午後1時半から流産や死産を経験した人やその家族向けの講演会を開く。会場は東京・渋谷の東京ウィメンズプラザ。講演会の定員は60人で、終了後に少人数グループで体験を語り合う会(定員24人)もある。参加費は1人3千円(講演会のみは2千円)。事前に申し込みが必要。詳しくは主催団体「WAKOMO会」(https://www.wakomo.jp/)へ。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« メタボ健診「... 救急隊に翻訳... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。
数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。