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国家試験水準が目標 がん大国白書 第5部 生きる力に/1(その2止)

【出所:2017年3月21日 毎日新聞】

 人工知能(AI)は「蒸気機関の登場に匹敵する産業革命をもたらす」ともいわれ、さまざまな分野で研究開発が進む。中でも、ディープラーニング(深層学習)という技術は、膨大な画像や文字を繰り返し学習するうちに対象の特徴を自動的につかむことができ、AIの認識能力に革新をもたらしている。

 宮野悟・東京大医科学研究所教授(遺伝情報学)らは、米IBMのAI「ワトソン」を使った臨床研究に取り組む。白血病や消化器にできるがんの論文をAIにディープラーニングさせて、患者の治療に役立つ情報を医師に提供し、診断を支援する。背景には、がんに関する論文の増加がある。宮野教授によると、がんにかかわる遺伝子レベルの研究が進み、昨年だけで約20万本ものがんの論文が発表された。人間がすべて読んで学習することは不可能だが、AIならできる。

 宮野教授らの研究は、従来の治療ではうまくいかない白血病を患う60代の女性患者の病名をAIが約10分で示し、治療につながる薬剤が見つかったことで注目を集めた。宮野教授は「人知を超えるがんの病態に対し、人工知能の活用は必然といえる。AIの学習を深めて、治療に役立つよう精度を高めていきたい」。

 さらに、AIによる病気の診断の実現を目指すのは榊原康文・慶応大教授だ。榊原教授は、医師国家試験に合格できる水準のAIを開発している。医師国家試験では、患者の病状や血液検査結果、検査画像などを基に、受験者が病名や治療薬などを選ぶ。問題の書き方は医師が実際の診療で書くカルテに似ているため、AIが問題を解ければ診断も可能になるという。高齢化が進む日本では、多くのがん患者を診ることも想定される。榊原教授は「AIを初診段階で使えば、専門的な知識がなくてもがんの見落としが減り、必要な病院や検査を紹介できるようになるのではないか」と話す。

 こうして開発されたAIが、どこまで医療現場で使われることになるのか。診察室に入ると、がんの名医ならぬ「名AI」が待っている時代が来るのか。

 厚生労働省は、AIを使った治療を巡るトラブルの責任や、治療に関する決定者の明確化、医療機器としての承認の必要性などを検討するため、2017年1月に専門家によるAIの懇談会を設置した。AIの専門家で、懇談会のメンバーの松尾豊・東京大特任准教授によると、従来のロボットとAIの大きな違いは、設計者だけが制作過程を理解しているのではなく、AI自身が学習していくところだ。松尾准教授は「医師はさまざまな経験を積んで実力を身につける。AIも同じようにテストや実績を積み重ねて、信頼を高めていくだろう」と展望する。

 一方、過大な期待には注意を促す。「AIの開発が進んでも、医師が不要になることはない。医師は患者の体の状態や職業など一人一人の情報も加え、総合的に診察する。AIは医師と同じレベルを目指すのではなく、画像の判読の手助けなど、医療者の負担軽減の役割を担っていくことになるだろう」
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