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研究対象の権利保護実現を 世界標準へ初めの一歩 内科・精神科医師 斉尾武郎 視標「臨床研究法」

【出所:2017年5月15日 共同通信社】

 臨床研究法が3月、国会で成立した。日本の臨床研究制度は世界標準と比べると、ようやく生み出された小さな赤ん坊のようなものだが、これを「初めの一歩」として、研究対象となる人の権利保護のための制度を実現しなければならない。

 法制化のきっかけはスキャンダルだった。高血圧治療薬を販売する製薬会社が大学の医師らに多額の奨学寄付金を援助し、社員がデータを操作して本来の効果よりも効くようにみせかけた論文を一流医学誌に発表した。

 五つの大学病院それぞれが他の病院を巻き込み、共同研究の結果として多数の論文を発表したが、学会での論争や報道を受けて調査され、その多くが撤回された。

 論文は製薬会社の広告に使われ、この薬の2012年の売り上げは1千億円を超えた。5大学に対する10年間の奨学寄付金は11億円超であった。厚生労働省が製薬会社を刑事告発し、社員は逮捕された。3月に東京地裁は無罪判決を出し、東京地検は控訴した。

 他にも同様の事件が次々と発覚し、臨床研究法は、医薬品・医療機器などの有効性や安全性を明らかにする研究に適用されることとなった。中でも企業が利益供与する研究と、未承認の医薬品などを用いる研究は、「特定臨床研究」として、行政当局への事前の届け出が義務付けられた。

 ところが「特定臨床研究」に該当しない研究での不正も頻発している。

 虚偽の申告により、精神疾患患者の非自発的入院の判断権限を持つ「精神保健指定医」の資格を取り消された医師が、不審に思った患者の申し立てに対しカルテを改ざんし、大学が組織ぐるみで隠蔽(いんぺい)した事件は、国会での法案審議で問題にされた。しかし、この研究は企業から直接の資金援助を得たものではない。

 また、製薬会社の営業担当者が上司に命じられて患者のカルテを閲覧したと内部告発した事件は、患者に薬を投与する研究ではないため、臨床研究法の適用範囲かどうか微妙である。

 そもそも世界標準の制度では、「臨床試験」と呼ばれる医薬品などに関する臨床研究は薬事関連法に基づき既に規制されている。その外側に、手術方法やカルテ調査なども含めて広範囲な臨床研究に適用する別の法律を持つ国もある。

 日本は製造販売承認を目的とする臨床試験だけが、医薬品医療機器法に基づく「治験」として規制されてきた。その外側に今回、臨床試験に適用する法律が作られた。

 研究の対象となる人は、企業による支援の有無や目的が承認申請かどうかによらず、平等にその権利を保護されるべきである。このことは、第2次世界大戦中の人体実験への反省に基づき、国連の「世界人権宣言」とそれに基づく国際条約「国際人権自由権規約」に示されている。

 臨床研究法の付帯決議は、同条約に基づき、法の対象とならない手術・手技の臨床研究などの対象者も含め、尊厳と権利を保護するための対応を検討するよう求めた。

 未承認の医薬品や医療機器の研究は、正しく行われ、医療現場で使えるようにならない限り、患者を無駄に使ったことになる。このため付帯決議は、研究データを承認申請資料として活用できるようにすべきだとしている。国会と政府はそうした仕組みを早急に整備する必要がある。

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 さいお・たけお 1962年秋田県生まれ。群馬大医学部卒。フジ虎ノ門整形外科病院(静岡県)に勤務。訳書に「ビッグ・ファーマ」「FDAの正体」など。
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