goo

難治性てんかん手術、広がらず 事前検査の負担・認知度の低さ響く

【出典:2017年1月25日 朝日新聞】

 薬を使っても発作を抑えられない難治性のてんかん。患部を取り除く手術で、根治が期待できるタイプもあるが、国内で手術を選ぶ患者はまだ少ない。事前検査の負担や認知度の低さが背景にあるようだ。

 ■根治の一方、リスクも

 大阪府内の女性(25)は幼少期から、突然ぼーっとなって、受け答えができなくなったり、口をぺちゃぺちゃさせたりする発作が時折起きた。てんかんと診断されて薬を使い続けたが、発作はなくならなかった。

 「手術で治るかもしれない」。女性は短大卒業後、小児科の主治医からこう勧められ、近畿大学病院(大阪府大阪狭山市)の脳神経外科を受診した。

 てんかんは、脳神経の過剰な活動を防ぐ薬による治療が基本だが、薬では発作が抑えられないケースが3割ほどある。適切な薬を2年使っても発作が止まらない難治性てんかんが手術を検討する対象となる。

 女性は入院して脳波などを詳しく調べ、左側の「海馬」が興奮の発生源になっていることが分かった。海馬は記憶の働きを担い、脳の奥に左右一つずつある。女性の左の海馬は神経細胞が減って縮んで硬化し、ほぼ機能していなかった。

 成人の難治性てんかんでは、海馬の硬化を伴うタイプが多い。患部を取り除く手術で根治が期待できる一方、完全には治らない可能性もある。また、取り除く部分に脳の正常な機能が残っていれば、記憶障害の懸念もあった。女性の母親は「当日まで迷いに迷った」と振り返る。2012年、女性は左の海馬の一部と周辺部分を切除する手術を受けた。発作は止まり、記憶障害もないという。

 手術を担当した加藤天美(あまみ)・主任教授は「発作がなくなれば、集中力が上がり、運転免許も取得できる。ただ、手術のリスクと得られる利益のバランスがどの程度か、慎重に見極める必要がある」と話す。

 ■国内で年700件止まり

 てんかん発作には、脳神経の興奮が脳全体で起きる「全般発作」と、「焦点」と呼ばれる特定の部分から興奮が始まる「部分発作」がある。手術で根治が期待できるのは、焦点を取り除ける部分発作のケースだ。

 女性のような片側の海馬やその周辺に原因がある「内側側頭葉てんかん」は、特に手術の治療効果を高く、8割以上で発作が消えるという結果が出ている。先天的な脳の形成異常や感染などの後遺症で起きるてんかんも、焦点を取り除くと5~7割で発作が消える。

 また、手術で根治できないタイプでは、重い発作を和らげるため、神経の接続を一部切って、異常な神経活動が脳全体に広がらないようにする手術もある。

 MRIなどの検査機器の進歩で、手術成績は向上し、「適応のある人に早く勧める」という考えになった。しかし、国内の手術は年間600~700件ほど。およそ100人に1人というてんかんの有病率から見積もると「数千人が対象になっておかしくない」と加藤さんは指摘する。

 手術が少ない一因は、入院の負担や脳の手術への抵抗感だ。根治手術では、焦点の位置を把握し、切除しても言語や運動の機能に影響しないか確認する必要がある。入院して脳波や発作を詳しく調べるため、手術を含めて入院期間が1カ月半に及ぶことがある。

 手術が十分に知られていない現状もある。手術適用の判断や手術ができる「てんかんセンター」は全国に約40施設。手術で治る可能性があっても、説明されずに必要な検査もされていない患者がいるとみられる。 静岡てんかん・神経医療センター(静岡市)の井上有史院長は「薬を使っていても発作が起きたら、神経学の専門医に診てもらった方が良い。薬を2年使っても発作が止まらないなら、外科治療にも対応した専門の医療機関を受診して欲しい」と話す。

 子どもでは「2年」にしばられない対応も必要だ。発作を繰り返すと脳の発達に影響する可能性もあり、広島大学病院(広島市)の飯田幸治・てんかんセンター長は「できていたことができなくなるなど、発達に陰りが出るタイミングが目安だ」という。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 准看護師強殺... そううつ病の... »