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ひたむきに生きて 緊急手術 公平原則に=天野篤・順天堂医院院長

【出所:2017年2月13日 毎日新聞】

 ◇天皇陛下の言葉が転機

 今年は寒さが厳しいですが、寒暖の差も激しいと感じています。このような天候が続くと、増えてくるのが緊急手術です。予定された手術が「定期試験」とすれば、緊急手術は抜き打ちの「実力試験」のようなものでしょうか。若い頃は誰よりも先に救急患者を受け入れようと、急患室の入り口で救急車の到着を待つくらいの姿勢で臨んでいました。

 医師になって5年目だったと思います。勤務先の海辺の病院に、サーフボードのフィンで太ももを負傷した若い男性が救急車で運ばれてきました。足の脈が触れずに感覚がまひしていたので、靱帯(じんたい)の断裂を修復する際、整形外科の医師に私が呼ばれました。急ぎ手術室に運んで患部を調べると、大腿(だいたい)動脈が切断されていて、修復しないと足を切断しなければならない厳しい場面に直面したのです。

 損傷した動脈をつなぎ合わせるか、他の血管で切れた動脈にバイパス(迂回(うかい)路)をつくらなければならない状況でした。バイパスに使う静脈を切り取る手術はこれまでたくさんしてきましたが、バイパスを作るのは未経験でした。しかし、心臓のバイパス手術では数多く助手をしてきたので、同じ手術器具を使って人生で初めてバイパスを作ったところ、血液の流れを回復させることができ、足の切断を免れることができてホッとしたことを覚えています。

 同じ頃でしたが、自動車事故で胸を強く打って心臓が破裂した患者が運ばれてきました。先輩の医師が手探りで破裂した部分を縫合し、救命に成功。この時は知識と経験だけでなく、勇気が人の命を救うということを教えられました。

 このように、若い頃は成長するうえで大切な多くのことを経験を通じて学ぶことができます。ところが、病院やそこでの立場、自身の生活様式が変わることで、救急患者の受け入れ方が変化した時期もありました。手術が予定された患者を優先するあまり、術後管理に手のかかる重症患者を他の病院に移すようになったのです。都市部の病院では他の病院に転送した方が患者には良心的な対応になることもあるので、直ちに非難される状況ではなかったのですが、一方で「治療成績を確実に上げたい」「周囲から認められたい」とも思っていました。

 その後も紆余(うよ)曲折がありましたが、2012年の天皇誕生日に冠動脈バイパス術を受けられた陛下から、ご公務に際して「公平の原則を大切にし続けたい」というお話を聞いてからは、どんな時でも緊急手術はすべからく公平に行うことを実践し続けています。昨年10月から順天堂医院も心臓外科手術室が増設されたことに伴い、麻酔科や手術室スタッフも拡充され、以前よりも緊急手術を円滑に受け入れられるようになりました。どんな難しい緊急手術でも引き受け、回復した患者は「病院に通わなくても大丈夫」という一期一会を目指す理想の治療を追い求めていきたいものです。

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 ■人物略歴

 ◇あまの・あつし

 1955年生まれ。埼玉県出身。83年日本大医学部卒。亀田総合病院、新東京病院、順天堂大教授などを経て、2016年から現職。12年に天皇陛下の心臓バイパス手術を執刀したことで知られる。
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