美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

日本の石炭火力発電は世界最高水準である (イザ!ブログ 2013・6・30,7・3 掲載)

2013年12月17日 06時45分05秒 | エネルギー問題
まずは、次の記事を見ていただきたい。

「オバマ大統領、既存発電所のCO2も規制へ 温暖化対策発表」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130626-35033855-cnn-int
「CNN.co.jp 6月26日(水)10時59分配信

ワシントン(CNN) オバマ米大統領は25日、ワシントンのジョージタウン大学で地球温暖化を含む気候変動対策について演説し、現在稼働している石炭火力発電所からの二酸化炭素(CO2)排出規制を盛り込んだ新戦略を打ち出した。

(中略)

同戦略の効果が現れるまでには時間がかかるかもしれないが、CO2汚染を削減し、米国民を気候変動から守るためには、今、さらなる備えをすることが必要だと大統領は指摘。米国は世界最大の経済国として、また世界2位のCO2排出国として、世界をリードしなければならないとの認識を示した。

(中略)

オバマ大統領は2009年の時点で、2020年までに温暖化ガスの排出量を05年のレベルから17%削減するという目標を打ち出し、政権1期目では新規に建設される火力発電所に対する規制を制定している。

今回の演説では現在稼働中の発電所に対するCO2排出基準の確立を打ち出した。基準は発電所が業界や州、労働団体などの関係者と協議して設定するものとし、米環境保護局に対し、2014年6月までに具体的な提案を、その1年後に最終案をまとめるよう求めている。

米国では現在、電力の約40%を石炭火力発電に依存している。」


この記事を読むと、オバマのアメリカが、これから火力発電所のCO2排出の削減に関して世界をリードしていくかのように読めますね。また、火力発電所は相変わらず、煙突から煙をもくもくと吐き出して、地球温暖化の元凶であるかのような印象も受けます。これ、ほんとうでしょうか。

″いやいや、そんなことはない。火力発電所のCO2排出の削減に関しては、日本が世界をリードしているし、これからもその役割がますます期待されている。また、日本の火力発電所は、どこかの国みたいに煙突から煙をもくもく吐き出したりしていませんよ″と、私は言いたいのですね。

「え?それホント?」と思われたあなた。これから、ちゃんと順を追って説明しますね。

私は、先月の二八日(火)に、神奈川県は横浜市の磯子区にある磯子火力発電所を見学してきました。そこで知り得たことをこれから皆さんにお伝えして、上の主張を裏付けたい、と思っています。




上の全景図で、設備の配置を、石炭のルートをたどる形で説明しておきましょう(退屈でしょうが、まあ、我慢して聞いてくださいね)。

右端の灰色の石炭船で運ばれてきた石炭は、その舳先の左側にある円柱形で灰色の石炭受入ホッパに陸揚げされ、そこから左に伸びている細長いうすい青色のベルトコンベアーで、敷地左端にある四つの淡い水色のクローバー型の石炭サイロに運ばれます。ちなみに、石炭を運ぶコンベアーは、密閉パイプ内のベルトを空気で浮上させて搬送する方式を採用しています。これらのシステムは、石炭粉じん飛散防止、騒音・振動の低減に効果的です。

石炭サイロに運ばれた石炭は、写真の中でひときわ高い、色違いの水色の二つのボイラー建屋のなかの石炭バンカーとそれに続く給炭機へと運ばれ、最後に微粉炭機で粉末状にされ、ボイラーで燃やされます。そこで発生した熱によって、ボイラー内部にある何千本もの細いパイプを通る水を加熱し、高温・高圧の蒸気をつくります。蒸気条件は超々臨界(USC:Ultra Super Critical)を採用していて、世界最高水準を達成しています。これは、今回のお話のなかでもっとも重要なものなので、後ほどあらためて取り上げます。なお、狭い敷地を最大限に活用するために、同規模の従来型ボイラーより、設置面積の少ないタワー型ボイラーを日本ではじめて採用しています。だから、ボイラー建屋が高くなるわけですね。

蒸気は、ボイラー建屋の手前の、黄色い長方形やオレンジ色の横線の見られる平らなタービン建屋内のタービンに送られ、その噴射力と膨張力によってタービンの羽根車を高速回転させ、発電機ローラーを回転させることにより電気を起こします。タービンを回転させた蒸気は、タービン建屋内の復水器に送られ、海水で冷却されて水に戻り、再びボイラーへ送られます。ちなみに、蒸気がタービンに送られるところからは、原子力発電所の場合も、基本構造に違いはほとんどありません。

「煙突の手前の、ブレード・ランナーに出てくるようなパイプの構築物は、なんなんだ」と気になった方も、いらっしゃるでしょう。それは、排煙脱硫装置と言います。詳しくは後ほど。あ、そうそう、言い忘れるところでした、煙突は200mです。高いですね。これについても、ちょっと驚きのお話があるのですね。それも、後ほどに。

ついでながら、手前の大きなふたつのタンクは、東京電力の敷地内の構築物です。磯子火力発電所は、東京電力ではなくJ・POWER(電源開発株式会社)の傘下にあります。J・POWERは、1952年、政府によって設立された電気の卸売会社で、2004年に民営化され卸電気事業を営んでいます。日本全国に発電所、送変電設備を保有し、一般電気事業者(10電力会社)に電気を供給しています。

ところで、みなさんの素朴な疑問の第一は、石炭火力発電っていまどき必要なのっていうことでしょう?国内の炭鉱がすべて閉鎖されたのですから、そう思うのも無理はありません(ただし、夕張炭鉱の地下採掘作業だけはいまでも行われている。地下採掘技術輸出のため)。

ところが、それはまったくの誤解なのです。次のグラフを見てください。




2009年の、主要国の電源別発電電力量の構成を帯グラフにしたものです。

石炭が、石油や天然ガスにとって代わられているとは言い難いのが現状であるというのが一目瞭然ですね。

先進国の場合、アメリカが約45%、韓国が46%ドイツが44%、イギリスが29%、日本が27%となっています。また、新興国の場合、中国がなんと79%、インドが69%となっています。世界全体でも約41%という高さです。ちなみに、記事のなかで、アメリカが40%となっているのは、近年シェールガスなどの天然ガスへの依存度が高まっているということでしょう。いずれにしても、世界が石炭火力に大きく依存している現状がお分かりいただけたことと思います。

そうして、現状のみならず、将来においても、石炭は発電の主役としての役割が期待されています。IEAによれば、いまから22年後の2035年においても、石炭は発電の主役であり続けるとのことです(IEA A World Energy Outlook2011)。ちなみに、同じくIEAによれば、2035年の世界の発電総量は、2035年の約1.8倍にふくれ上がっているそうです。

では、エネルギー資源の埋蔵量はどうでしょうか。



上の図から分かるとおり、石炭の確認埋蔵量は、石油の約3倍、天然ガスの約2倍です。ウランを含めた主なエネルギー資源のなかでもっとも埋蔵量が豊富なのですね。資源の安定供給の観点からも、石炭の重要性は増します。

それだけではありません。電力の安定供給のベースを作ってきた原発は、いま軒並み稼働停止状態にあります。それで、石炭火力発電の重要性が急浮上しているのです。それに関連して次に掲げるのは、産経新聞六月二日(日)の記事(記者 長谷川秀行)です。

原発停止で火力発電の燃料費負担が急増する中、天然ガスや石油より安く、電気料金の値上げ抑制につながる石炭火力が再評価されている。政府は環境影響評価(アセスメント)の審査基準を見直して建設を後押しし始めた。

(中略)

発電量1キロワット時あたりの燃料単価は、液化天然ガス(LNG)の11円、石油の16円に対し、石炭はわずか4円。東日本大震災前の平成22年度と比べ、25年度に電力各社が支払う燃料費の増加額は原発停止分だけで3兆8千億円になるとの推計があるが、大半は石油とLNGだ。安価な石炭火力を増やせば、円料費を大幅に削減することができる。

しかも、産出国に偏りがある石油や天然ガスと比べ、石炭は世界的に産出し、可採埋蔵量が多い。中東の政治情勢などを勘案すれば、石炭火力の拡大はエネルギー安全保障の面でも大きな意味を持つ。

第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストの試算では、現在、発電電力量の4割を超えるLNGの割合を1割分減らし、2割台の石炭火力を1割分増やせば、実質国内総生産(GDP)は3年後に1兆6千億円(0.3%増)程度押し上げられる。企業のコスト負担が減って業績が改善し、設備投資が増えるほか、家計の所得増が個人消費にプラスに働くことなどが期待できるためだ。


ふたつほど説明を加えておいた方がよさそうです。ひとつは、記事のなかの「発電電力量の4割を超えるLNG」という数値と上記「主要国の電源別発電電力量の構成」の帯グラフのなかの日本の「天然ガス27.4%」とはつじつまが合わないではないか、という疑問についてです。

記事のなかの「発電電力量の4割を超えるLNG」という数値は、直近の(おそらく2012年の)ものであるのに対して、帯グラフのなかの日本の「天然ガス27.4%」は2009年のものなのです。2011年度は、東日本大震災の影響による原子力発電所の長期停止等により、火力発電量が増加しました。原発の長期停止は、それまでの安定した電源構成を激変させたのですね。原子力がそれまでの29%から11%へ18%も激減したのに対応して、天然ガスは29%から40%へ、石油は8%から14%へ激増しています。それらの激増分を足すと17%になりますから、原子力の激減分をほぼ天然ガスと石油の激増によってカバーしたと言えるでしょう(それに対して、石炭はほぼ横ばいです)。そのコスト増が、最近の電気料金の大幅な値上げの主たる要因のひとつになっているのですね(そのことひとつとってみても、発送電分離によって電気料金の値下げを、という主張が筋違いであることが分かります。それについては、いずれ)。だから、現在の電源構成は、応急処置的なものであって、この構成が固定化してしまうのは、コストの面からも、エネルギー安全保障の面からも、とてもマズイのです。

ふたつめは、「企業のコスト負担が減って業績が改善し、設備投資が増えるほか、家計の所得増が個人消費にプラスに働く」の箇所です。これはマクロ経済学の基本を踏まえたうえでの議論です。企業の設備投資は、それ自体、GDPの増加をもたらしますが、それにとどまりません。設備投資増は、マクロ的な観点からは、新たな雇用を生み出します。それは、家計の所得増をもたらし、所得増は消費増をもたらします。その分、GDPが増えるのです。

とはいうものの、「石炭火力発電に、期待に満ちた熱い注目が集まっているのは分かった。しかし、煙モクモクの石炭火力発電は、SOx(ソックス・硫黄酸化物)やNOx(ノックス・窒素酸化物)やばい塵(じん)を大量に排出して、深刻な大気汚染をもたらすではないか」という疑問が湧いてきた方が少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

その疑問をいだいたままでけっこうですから、次のグラフを見てください。




アメリカって、SOx排出量に関してはお世辞にも先進国とは呼べない状態ですね。フランスに至っては、NOxの排出量さえもひどい水準です。それにひきかえ日本は、すごく高いレベルです。SOxやNOxの排出量を押さえる技術に関して、日本は超先進国で、世界をリードする立場にあることが一目瞭然です。

確かに、石炭が燃焼するとSOx・NOx・ばいじん(すすや燃えカス)が大量に発生します。日本では、高度経済成長時代、深刻な大気汚染が大きな問題になりました。しかし、過去四〇年にわたり環境対策技術や効率的な燃焼方法を開発して、環境負荷を低減する努力を積み重ねてきた結果、日本は、世界の石炭火力を牽引する存在にまで成長しました。

今日、石炭火力の煙はきちんとした浄化処理を行ったうえで大気中に放出しています。「煙突から煙モクモク」は過去のものとなりました。どこかの国で問題になっているPM2.5とは無縁の、ほとんど何が出ているか見えない状態なのです。

磯子火力発電所の取り組みを具体的に述べておきましょう。同発電所は、従来より低NOxバーナや二段燃焼といった技術によって、NOxの排出量を抑制してきました。それに加えて、新1・2号機では乾式排煙脱硫装置(全景写真の煙突の手前にある構築物)を設置して、排ガス中の窒素酸化物の87.5%以上の除去を実現しています。

ばいじんについては、電気式集じん装置(全景写真の、ふたつのボイラー建屋の後ろに隠れている)で対応し、その99.9%以上を除去しています。

SOxについては、上で述べた乾式排煙脱硫装置が、その除去に当たり、除去率95%以上を達成しています。

磯子発電所は、横浜市と日本ではじめて公害防止協定を締結し、環境対策を徹底しているのですね。

「しかし」と新たな疑問が湧いて来た方がいらっしゃることでしょう。「石炭は二酸化炭素を大量に排出するではないか。それは、いま環境問題のなかでとりわけ大問題になっている地球温暖化の大きな原因である。だから、石炭火力発電所の設置を推進することは、時流に合わないのではないか」

この疑問に答えることが、当論考の主たる目的です。かなり長くなりましたので、それについては、稿を改めようと思います。



排煙脱硫装置。その後ろから伸びているのは、200mの煙突である。

*****

前回、磯子発電所をはじめとする日本の石炭火力発電所は、大気汚染の原因となるNOx(ノックス・窒素酸化物)・SOx(ソックス・硫黄酸化物)・ばいじんを除去する世界最高水準の技術を有することを述べました。しかし、それだけでは、地球温暖化の主な原因とされている二酸化炭素を大量に排出するという、火力発電の最大の弱点が克服されたとは言えない」という問題提起をしたところで終わりました。

まずは、次の帯グラフを見ていただきたい。



http://www.isep.or.jp/library/4409 環境エネルギー政策研究所HPより

確かに、化石燃料(LNG・石油・石炭)はほかの燃料と比べて、二酸化炭素の排出量が突出しています。また化石燃料のなかでも、とりわけ石炭は排出量が多いですね。このグラフを見る限り、なんとも分が悪いと申し上げるよりほかはありません。

ここからは、「ところが」というお話になります。次の折れ線グラフを見てください




温室効果ガスのCO2を削減するためには発生する比率を低くすることと、発生量全体を抑えることの両方が必要です。燃焼によって発生するCO2は同じ電気を作る場合、石炭は石油と比べると通常2倍近くになりますが、日本の石炭火力は蒸気タービンの圧力や温度を超々臨界圧(USC:Ultra-Super Critical)という極限にまで上昇させる方法で、欧米やアジア諸国に比べて高い発電効率を実現しています。発電効率が向上すればするほど、石炭火力発電所で使われる石炭の量が減少し、CO2の排出量の減少に貢献します。言いかえれば、発電効率の向上によって、単位発電量あたりのCO2排出量は確実に低下するのです。

ここで、超々臨界圧(USC)という耳慣れない言葉に戸惑われた方が、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。「臨界」といえば、原子力発電特有の言葉と私たちは思い込んでいるからです(私もそうでした)。それについて、いささか説明を加えておきましょう(いささか無味乾燥な技術の言葉が並びますが、ご容赦くださいね)。

水は、摂氏100℃で沸騰し100℃以上にはなりません。沸点に達した水は水蒸気になります。ここで、臨界圧力以下の気相を蒸気と呼びます。ところが、温度と圧力を共に臨界点(臨界圧力約22.1MPa〈メガパスカル・218気圧〉および臨界温度約374℃)以上にすると、物質は液体とも気体とも異なる特殊な状態をとります。この状態にある物質を超臨界流体と呼びます。この物理・化学の原理を利用して、「亜臨界圧」や臨界圧を超えた「超臨界圧」が、さらには、臨界温度を超えた「超々臨界圧」という技術が次々と生み出され、発電効率を高めることになります。次のグラフを見てください。



http://highsociety.at.webry.info/200912/article_51.htmlより

1965年から80年までの「亜臨界圧」時代を経て、80年代初頭に「超臨界圧」の「松島」が建設され、さらに、1990年代後半に「超々臨界圧」の「松浦2号」が建設され、「磯子新1号」に至っています。こうやって、日本は石炭火力発電効率において、すなわちCO2削減技術において、世界のトップ・ランナーとして走り続けてきたのです。そのなかでも、グラフを見る限り、J‐POWERが世界最高水準の技術を牽引してきたことが分かります。

このことが、世界のCO2削減にとってどれほどの大きな意味を、可能性として持っているのかは、次の図を見ていただければ一目瞭然なのではないでしょうか。




仮に日本の石炭火力発電の最高水準性能をCO2排出量の多い米国、中国、インドに適用した場合には、現在の日本の年間CO2排出量より多い約13.5億トン‐CO2の削減効果があると試算されています。石炭火力発電、というCO2排出に関して難題とされてきた分野で、日本の最高水準の技術が国際貢献のできる可能性は小さくないというべきでしょう。それと、冒頭のオバマ演説の記事で、オバマは、まるでアメリカがこれから火力発電のCO2削減の分野で世界をリードしていくかのような口ぶりですが、これまで述べてきたことから、オバマは、三顧の礼で日本の技術者たちを顧問として迎える慎ましさを示すべきであることがお分かりいただけるのではないかと思います。日本から教えを請うことで、アメリカのCO2削減の技術は飛躍的に伸びるはずです。そのことが、石炭をはじめとする「限りある化石燃料」を有効活用することに直結するのですから、日本もその申し出があれば、(損はしないようにしながら)大いに協力すればいいと思います。こういうところでこそ、日本は「毅然と」してほしいものです(余計なところでは、べつに「毅然と」しなくていいから)。

さて、石炭火力発電のさらなる高効率化の試みは、そのことにとどまりません。

J‐POWERは(ということは、ほかの石炭火力発電関連企業も)、世界に先駆けて「石炭ガス化複合発電」(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)や「石炭ガス化燃料電池複合発電」(IGFC:Integrated coal Gasification Fuel cell Combined cycle)といった次世代の最先端技術に取り組んでいます。ここでそれらの技術的な詳細について触れるのは、煩雑に過ぎますし、にわか勉強の私の役柄でもないとも思いますので、以下に、それらの概念図を掲げておきますので、ざっとごらん下さい。いずれにしても、発電効率が良くなればなるほど、CO2の削減に資することは明らかです。




上の図のいちばん下に、「CO2分離回収技術」とあり、枠の外に「CO2輸送・貯留へ」とあるのが、これも開発中の「二酸化炭素回収・貯留技術(CCS:Carbon Capture & Storage)です。これまでご紹介した発電効率を高めるための諸技術は、CO2の排出量を減少させはしますが、それが外部に排出されることそれ自体をなくすものではありません。このCCSは、下の図にあるとおり、発電時に発生したCO2を回収して地中へ閉じ込める方法で、国内外の機関が研究を進めています。将来、世界のCO2排出量の約100年分に相当する2兆トン‐CO2を世界全体で貯留できる可能性があるとされているそうです。まあ、これはけっこう先の話でしょうね。これも下に概念図を掲げておきましょう。


www.jpower.co.jp/bs/karyoku/sekitan/sekitan_q03.html

ずいぶん話が広がってしまいました。話を磯子火力発電所に戻しましょう。

環境保護のために、同発電所は、次のような細かい配慮もしています。

水質・温排水対策として、同発電所で発生するプラント排水は、総合排水処理装置により浄化し排水しています。また、復水器で蒸気の冷却用に使われる海水の取放水温度差は7℃以下、取放水流速は船舶の航行に影響を及ぼさない速さになっています。

騒音・振動対策。発電機などの機器類を建屋内に収納することや、低騒音型機器を採用することによって、騒音や振動が周辺環境に与える影響を低減しています。

石炭灰の有効利用。石炭を効率的に燃焼させるだけでなく、副産物である石炭灰の再資源化にも力を入れています。具体的には、セメント原料として、石炭灰をほぼ全量有効利用しています。

さらに、景観にも細やかに配慮しています。横浜港を挟んだ対岸の小高い丘にある根岸森林公園から海をながめた場合、200mの煙突がなるべく目立たないようにするために、円筒形ではなくて平べったい作りにして、同公園からは、いちばん細長い面が見えるようにしています。これには、感心することしきりでした。

説明がいささか細部に渡りすぎた報告だったかもしれません。しかしながら、思わずそういう書き方になってしまったのは、日本の技術者たちの地道で粘り強い、そうして誇りに満ちた努力の積み重ねによって、日本の電力事情が、一歩また一歩と改善されてきた歩みの一端でも、これを読んでいただいた皆さんに、感じ取っていただきたかったからです。同発電所内を案内してくれた工藤さんという方の、技術者としての熱心な明るい語りを聞いているうちに、私は、日本の発電所の関係者一般の、物静かな深い思いが伝わってくるのを感じました。彼らには、日本人のいちばん良いところ―モノ作りに没頭する無私のこころ―が保たれているのではないかと思った次第です。

それを思うにつけ、私の脳裏に浮かぶのは、あの「ゲンパツ反対、どん・どん・どん」の反原発連中の痴呆的な有様や、それに阿ねる脱原発知識人の醜悪さや、それを票に結びつけようとする不健全弱小野党の救いがたさです。別に自民党が素晴らしいとは言いませんが、自民党の現実的な原発推進に対抗しようとする勢力は、あまりにも幼稚であり、非現実的であり、無責任でもあります。彼らは、いったい何を考えているのでしょうか。健全野党が育ってくれないことには、国民の政治的な選択肢がいちじるしく狭められてしまうではありませんか。いくら何でも、愚かなことを言い募る政党に票を投じるほどに愚かな国民は、いてもごく少数でしょう。この、自民党一人勝ち情況は、日本の政治の新たな危機です。

この世に、一気に解決できることなんてひとつもありません。現場の関係者たちの寡黙で地道な努力の積み重ねによって、諸問題はひとつずつ具体的に解決されていくものなのです。そのことに例外はありません。空騒ぎをして彼らの邪魔をしたりしないで、彼らを暗黙のうちに信頼し、プロとしての彼らに「託す」という振る舞いこそが、彼らを心底から奮い立たせ、事態の改善に着実に一歩近づく道なのです。それくらいのこと、大人であるはずの彼らが、なぜ分からないのでしょうか。分かろうとしないのでしょうか。顔を洗って出直せと言いたい。

今の日本社会の豊かさの維持を望むのならば(そんなもの要らないなどと言う人は、その恩恵に浴している自分の姿がまったく見えない人です)、エネルギーの安定供給がその土台になることを認めるほかないでしょう。そうして、残念ながら、それができる電源は、現状の技術水準を前提とする限り、火力発電と原子力発電しかありません。それ以外は、ないのです。脱原発派はすぐに「地球に優しい風力や太陽光などの再生可能エネルギーがあるではないか」と言いたがります。しかしながら、日本は、一部地域を除いて風が常時吹いているわけではありませんし、日光がさんさんと照り続けるわけではありませんから、それらの電源に頼るわけにはいかないのです。それらの電源に、電力の安定供給を託すのは、あまりにも愚かしい振る舞いです。これは、ちょっと考えてみれば当たり前のことでしょう。だから、中国の太陽パネル企業をむざむざと儲けさせ、国民に意味のない負担をかけるだけの、メガ・ソーラーの固定額買取制度など即刻やめてしまうべきです(その詳細についてはいずれ)。もっとも安定的な電力の供給が可能な原子力発電の再稼働の見通しをはっきりとさせたうえで、それと火力発電をどう組み合わせていくかを、政府はエネルギー政策の土台にすることのほかに選択肢は現状ではないのです。そのうえで、それぞれの技術水準を上げていくことが差し当たりのエネルギー政策の今後の柱になるほかないでしょう。その延長線上に、次世代型の発電が存在することは、この報告を読んでいただいた方になら、少なくとも石炭火力発電に関しては納得していただけるのではないでしょうか。

エネルギー政策に関しては、ありのままの現実に立脚し、技術者の心意気を信じた方策が望ましいと私は考えます。そういうことを、この報告を作成しながら考えました。

最後になりますが、同発電所の発電出力は、新1号機60万KW、新2号機60万KW、計120万KWで、太陽光パネルなら山手線の内側分の面積を要するそうです。

(文中、専門知識を要する叙述が少なからずありました。にわか勉強の付け焼刃ですから、誤りがあるものと思われます。お気づきの点、ございましたら遠慮なくご指摘ください)


〈付記〉
これ、なんだと思われますか?



ずいぶん錆びた煙突でしょう。それもそのはず、2011年の相次ぐ原発稼働停止を受けて、急遽、四〇年間使い続けて廃炉にされるのを待つばかりだった火力発電を稼働させて今日に至っているそうです。磯子発電所のとなりの東電のものです。これって、ぎりぎりで動いている感じで、まずいですよね。新たな基準に合格した原発の再稼働を粛粛と進める必要をあらためて感じた次第です。

*****

〈コメント〉

Commented by tiger777 さん
美津島さんの最新石炭火力発電所についての論考、大いに参考になり大賛成です。
が、ちょっとだけ意見を述べさせてください。

>今の日本社会の豊かさの維持を望むのならば、エネルギーの安定供給がその土台になることを認めるほかないでしょう。そうして、残念ながら、それができる電源は、現状の技術水準を前提とする限り、火力発電と原子力発電しかありません。それ以外は、ないのです。

 高能率最新石炭火力発電所がもっと日本で設置されるのなら、原発を代替できるのでは、と思いました。
原発は核燃料リサイクルや事故の可能性などリスクが皆無にはならない。代替エネルギーとして火力を認めれば、やっかいな原発に頼らずとも、火力のミックスでエネルギー問題は解決すると思います。

>確かに、化石燃料はほかの燃料と比べて、CO2の排出量が突出しています。

 原発の排出量が少なく描かれていますが、これは詐欺です。発電時CO2を排出しないという言い方は、商品購入時、クレジットカードなら現金不要というようなもの。原発装置を作る際、莫大な資源を使っており、そのとき大量のCO2が排出されています。原発はクリーンでもなんでもない。CO2の排出が問題なのは何も火力だけではないのです。
 でもCO2のどこがいけないの、と問うべきなんです。

(もう少し意見があるので次のコメント欄に続けさせてください。)

Commented by tiger777 さん

>発電効率が向上すればするほど、石炭火力発電所で使われる石炭の量が減少し、CO2の排出量の減少に貢献します。言いかえれば、発電効率の向上によって、単位発電量あたりのCO2排出量は確実に低下するのです。

 これは確かに結構なことですが、むしろそもそもCO2排出など問題ではない、つまり地球温暖化CO2説を否定する形で火力発電の推進の論陣を張っていただけたらと思います。
 クライメートゲート事件やいい加減なIPCC及び現実に寒冷化しつつあるなど地球温暖化CO2説そのものが今揺らいでいます。社会主義・共産主義の教義が世界に悲惨をもたらしましたが、科学的に真実でない地球温暖化CO2説も同じ害を世界に撒き散らしています。ドイツのエネルギーにおける混乱は、地球温暖化CO2説の信奉が根本にあると思います。

>このCCSは、発電時に発生したCO2を回収して地中へ閉じ込める方法で、国内外の機関が研究を進めています。将来、世界のCO2排出量の約100年分に相当する2兆トンCO2を世界全体で貯留できる可能性があるとされているそうです。

 地球温暖化CO2説を否定するなら、こんなことは全く意味ない行為なのですが、先日小浜さんの特別寄稿へのコメントで紹介した地震爆発論の石田氏によれば、このCCSは地震を誘発する可能性があり非常に危険とのことです。
 アメリカ・デンバーで汚染水を地下深く高圧で埋めたところ地震が頻発、中断したら地震が収まり、地下注水を再開したら再度地震が頻発したようです。
 日本では、長岡市といわき市でCCSを実験していますが、新潟中越地震と東日本大震災が起きています。偶然とばかりはいえません。これが本当なら、地球温暖化CO2説は地震災害まで引き起こすものといえるでしょう。そしてこのCCSは今、CO2を大いに発生させる大規模発電所の近く、つまり東名阪の工業地帯に設置しようという動きがあります。CCSによる地震が誘発されても、首都直下型、南海トラフ地震と片づけられてしまうでしょうが。


Commented by 美津島明 さん
tiger777さん。いつもながらの貴重なコメント・情報をどうもありがとうございます。

地球温暖化CO2説が極めて疑わしい仮説であることは、管見の限りですが、武田邦彦さんや池田清彦さんの著書に触れることで理解しているつもりです。私は、一昨年の埼玉県主催の、中学生対象の「チャレンジ・テスト」の理科の分野で、たまたま作問委員になり、その仮説の否定を前提とした問題を作成し、顧問役の大学教授から承認をいただいて、出題したことがあります。

この仮説って、「国の借金1000兆円」や「痛みを伴う構造改革」などとともに、マスコミを通じて、国民の思考経路にセットされてしまっているフレーズですよね。これらの言葉が出てくると、なぜか思考のブレーカーが落ちてしまって、そこから先へ話が進まない。困ったことです。

それで、私なりの言語戦略なのですが、地球温暖化CO2仮説が、石炭火力発電の技術進歩と共存しうる限りは、あえてその仮説の否定にまでは踏み込まない、ただし、tiger777さんが指摘なさるようなCCSのような危険な(妄想的な?)技術については、その危険を具体的に指摘して、その推進を阻止する言説を展開する、ととりあえずは考えています。おそらく、そんな妥協的なやり方では、tiger777さんはご不満がおありなのでしょうが、とりあえずは、そういう功利主義で行こうと思っています。

ただし、この仮説とガチンコ勝負をしないことにはどうしようもない、という事態に立ち至ったら、その場合はしょうがないから、非力をかえりみずやるしかないでしょうね。

原発の推進については、この場で断言できるほどの定見があるわけではありません。もう少し、考えてみます。ただし、「放射能、コワい、コワい」という情緒的な衆愚の反応に立脚しての脱原発に対しては、否定的であらざるをえない、それは変わらないだろう、とだけとりあえず言っておきます。私は、技術の改善・進歩という具体的な形で表現された人類の英知に最大限の敬意を表したいし、その意味の大きさを謙虚に受けとめようとしないタイプの言説はあまりにも馬鹿げていて嫌なのですよ、要するに。

また、ご意見、お待ちしています。


Commented by tiger777 さん

美津島様ありがとうございます。

私は、地球温暖化CO2仮説の一連の状況を、政治・経済・科学・思想等の点で、中世のキリスト教あるいは近代の社会主義・共産主義に匹敵するほどの巨大な罪悪を人々にもたらしていると考えています。大げさかもしれませんが。
これを打ち破るには今後100年かかるかもしれません。

今後100年は寒冷化に進むと思いますが、彼らからすれば、いくら寒冷化しても温暖化が原因だというでしょうね。最近の日本の寒冷現象を気象学者は、温暖化により偏西風が蛇行したためと強弁していますから。

>私なりの言語戦略なのですが、地球温暖化CO2仮説が、石炭火力発電の技術進歩と共存しうる限りは、あえてその仮説の否定にまでは踏み込まない…。

ちょっと不満ですね。ぜひ地球温暖化CO2説そのものを問題にしてほしいと思います。すみません、勝手なことをいって。

>「放射能、コワい、コワい」という情緒的な衆愚の反応に立脚しての脱原発に対しては、否定的であらざるをえない、それは変わらないだろう…。

全く同感です。
ただ、「「放射能、コワい、コワい」という情緒的な衆愚の反応」というのはある面やむを得ないものがあります。一般人は「素朴(!)」ですから。それを増幅し、別の目的に利用するいわゆる「知識人」、活動家が一番の問題なのだと思います。ドイツの「緑の党」やシーシェパードなど環境テロリストたち。

左翼の最後の砦が(過激な)「環境主義」なのだと思っています。

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