美津島明編集「直言の宴」

一〇代から六〇代までの良質な執筆者が集結しました。政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

消費増税問答(その1)(小浜逸郎)

2016年10月16日 10時29分21秒 | 小浜逸郎


小浜逸郎氏のブログ「ことばの闘い」からの転載記事です。消費増税問題は、より多くの一般国民によってその本質が周知されればされるほど、その虚偽が明らかになり、増税凍結、さらには、税率低下さえもが実現可能になります。だから、「知ってしまった者」が「いまだ知らざる者」にどうやって伝えるのかが、きわめて重要なポイントになってきます。その点、当論考は、貴重なドキュメントになっているのではないでしょうか。(編集長記)

***

 さる9月19日、政治経済ジャーナルChannel Ajerに出演しました。テーマは「消費増税の真実」です。
 消費増税は3年後に延期されたので、とりあえず国民の関心から遠のいているように見えます。しかしなお、なぜ増税の必要があるのか、増税には根拠があるのかについて、ふつうの人々に理解が行き渡っているとはとうてい言えません。財務省やマスコミ、一部の経済学者やエコノミストたちは、いまだにその必要を説き、国民をまんまと騙しています。このインチキをしっかり暴いておくことは、たいへん重要です。なぜならば、三年後には必ず増税が実施されるものとほとんどの人がいま思い込んでいることそのものが、直近の経済活動の大きな抑制効果として現れているからです。増税は延期ではなく、少なくとも凍結、本来は増税ではなく元の5%に戻すべきなのです。根拠のない増税論がまかり通ることによって、現在の人々の消費行動や投資意欲を縛っています。人は将来の予想によって現在の経済行動を決めるからです。

 動画は全体で40分ほどですが、初めの15分は、you tubeで無料でご覧になれます。

『第1回デタラメが世界を動かしている「消費増税をめぐる真実」①』小浜逸郎 AJER2016.9.19(9)


*当動画をすべて見るためには、プレミアム会員(¥1,050/月税込)になる必要があります。以下のURLをクリックしていただけば、そのための手続きがしていただけます。http://ajer.jp/
なお、プレミアム会員になれば、当該サイトでUpされたすべての動画を視聴することができます。

 
 さてこれを見た私の親しい知人から長い質問メールをいただいたので、それに応答しました。以下、2回にわたってその質疑応答を掲載します。なお質問は、より一般的なものにするために私が勝手に整理し、また応答のほうも若干修正したところがあります。

Q1:貴兄は動画のなかで、増え続ける社会保障費の財源のためにも増税は必要だという論理に対して、「お金に色はない。歳入で税収が増えたとしても歳出を決めるのは財務省と各省庁との折衝で決まる。特別会計で使い道を決める法律でも通すなら別だが、そんな議論はなされていないのだから、国民だましのトリックにすぎない」と言っていますが、「でも、財布全体の支出増に対して収入を増やさなきゃ、ということ自体は考え方として間違っていないのでは?」という反論があったらどうなのでしょうか。この反論が正しければ、社会保障を抑えるか税収を増やすかどちらかは結局しなくてはならないのではないでしょうか。
 あるいは、この動画の趣旨は、家計を「喩え」に用いて、何とか収入を増やすかそれとも我慢して節約するかと考えるのと、政府の歳入歳出とは本質的に違う、ということなのでしょうか。


A1:収入を増やさなければならないというのはその通りです。社会保障費を抑えるわけにはいかないし、抑えるべきでもありません。しかし税収を増やすだけがその方法ではありません。
 社会保障費のためには、特例国債(赤字国債)を発行すればよいのです。特に長期国債の利子がマイナスにまで落ち込んでいる現在、特例国債によって賄うのは絶好のチャンスであり、理にかなったことです。もちろんその償還は将来の税収からということになるのですが、後に述べるように、「国の借金1000兆円」というのはデタラメですから、新規国債発行を政府が(まして国民が)恐れる必要はもともとないのです。
 また、社会保障費でなく、現在ぜひ必要な高速道路網、劣化した橋などのインフラ整備のためには、赤字国債とはまったく異なる建設国債を発行することができます。これによって公共投資を行った場合には、建設された公共施設が将来も国の資産として長く残るため、いま増税分で償還しなければならないということはありません。

 おっしゃる通り、家計と国家財政とは根本的に違います
 家計は決まった収入によって制約されますが、国家財政は、
①政府が通貨発行権を持つので、新たに通貨を発行することで、(すべてではないにしても)ある程度まで負債をチャラにできます。
②日銀は広い意味で政府の一部門なので、日銀が買い取った国債を、新規発行の国債(無利子、返済期間無期限)と交換できます。
③アベノミクス第二の矢であった「積極的な財政出動」によって公共投資を拡大し、民間経済を活性化させることができます。
④政府の負債が拡大しても、それはそのまま債権者である国民の財産ですから、普通の借金のように法的に返済義務があるわけではなく、また罪悪視する必要は何らありません。国民生活に役立つなら(デフレの時は特に民間を刺激する必要があるので)、むしろ積極的に拡大すべきなのです。
⑤日本国債は、100%円建てなので、①②で述べたように、政府・日銀レベルでいくらでも処理できますから、破綻の危険はゼロです。そこがユーロで借金しなければならないギリシャなどとまったく違うところです。
⑥そもそも国家財政の破綻とは、借金が返せなくなることではなく、誰も新たに貸してくれなくなること、つまり日本政府が国民や金融機関の信用を失って国債を発行しても誰も買わなくなることです。しかしそういうことはこれまで起きたことがありません。日本の国民と国家との信認の関係を考えれば、これからも起こりえないでしょう。
⑦日本は対外純資産(外国に貸している金―外国から借りている金)250兆円を保有しており、世界一の金持ち国です。これを処理することもできます。

 なお、動画でも言っていますが、税率を高くしさえすれば税収が確保できると考えるのは、端的に誤りです。なぜなら、税収はGDPの関数なので、消費税率を高めれば高めるほど、消費や投資が減り、つまりGDPが下がり、結果的にその分だけ税収も減ってしまうのです。これは97年橋本内閣の時に実際に起きたことです。

Q2:いまよく世間で言われているのは、「国債の債務が膨張すると日本経済の信用や格付けが低下し、さらに予算膨張も続く。すると円の信用が低下し、国際発言力の低下やら対外経済の状況悪化を招く。だからそれを避けるために国民全体で国家予算を健全化しましょう。そのためには増税やむなしですね」といった文脈ではないのですか。貨幣価値が「信用」をベースにしている以上、海外の経済格付け会社の評価が下がったり、グローバル経済界を行き来している人々の間に蔓延しているトレンド(つまり、はやりの「気分」)とか、そういったもので信用低下という流れが定着してしまうと、それがどれだけ本質と離れていようと、貴兄の言われる怖ろしい「デタラメな世界」が実現してしまう。それに対する危機感、には一定の根拠があるのではないですか。

A2:まず国際経済の「気分」が円の信用失墜に結びつくことはあるのではないかという懸念ですが、現下の状況では、国際通貨の中で、円は、ドル不安やユーロ危機などが高まった時(実際高まっているのですが)に、必ず避難場所として買われる(両替される)ので、まず信用失墜ということはあり得ません(ただし再び円高に振れ過ぎて輸出がふるわなくなるということはあり得ますが)。
 また格付け会社などは、頼まれもしないのに、勝手に他国の国債の格付けをやっているので、こんな外国人投機筋の思惑を過度に気にするには及びません。それよりも真っ先に大事なことは、日本がデフレから脱却するにはどうすればよいかということであって、それは国家主権を握っている日本政府の決断しだいでいかようにも対策を打てます。それをやらないで、財務省、御用経済学者、エコノミストたちが「国の借金が~」とか「国際的な信認が~」などと根拠のないことを言って国民を騙し続けてきたので、いつまでも景気が良くならないのです。
 デフレとは国内の総需要の不足ですから、政府が内需拡大のために、率先して財政出動を行い、民間のデフレマインドを一刻も早く打払うべきです。ここさえ突破できれば、円高による輸出不振が多少あったとしても、それほど問題ではなくなります。
 なお、国際的な経済の減速はすでに十分認識されていて、先日のG7やG20でも、各先進国が緊縮財政から積極財政へと方向転換すべきだという点で一致しました(頭の硬いドイツ以外は)。このへんは、公式的には言いませんが、安倍首相も2014年の増税による大失敗で痛い目に遭って、ようやく理解したようで、財務省の圧力を何とかはねのけようと努力しています。
 しかし財務省、経済学者、エコノミスト、マスコミのマインドコントロールの力はものすごく、自民党議員もいまだに緊縮財政派が主流で、積極財政派は少数派です。政治家はじつに不勉強なのです。

 また、動画の無料公開部分では言及されていませんが、私は、いわゆる1000兆円の国の借金というのが完全なデマだということを、具体的な数字を挙げて細かく説いています。
 いろいろな算出の仕方が考えられますが、あの放送では(ここがあの放送の一番大事な部分なのですが)、最終的に政府の負債は100兆円足らずだという試算を試みています。
①政府の資産650兆円のうち、流用可能な額が約250兆円。
②財政投融資による特殊法人の借金が160兆円であり、これは税収から返済することが禁止されており、法人が政府に返済すべき。
③建設国債250兆円は、政府の資産に変貌するので、借金と見なす必要なし。
④3年間にわたる日銀の年間80兆円の国債買い取りによって240兆円の負債はすでに消えている。
 よって、1000兆円―250兆円―160兆円―250兆円―240兆円=100兆円
 なお拙著『デタラメが世界を動かしている』P59~P61でも、この試算をやっていますが、こちらは、①の650兆円を全て算入してしまっているので、やや乱暴であるのは否めません。

Q3:「空気」によるデタラメが通ってしまう結果として、誰も望んでないのにグローバル化せざるをえず、誰も望んでいなくても、「日本経済ちゃんとやってます」的な花火を打ち上げないといけなくなる、ということはあるのではありませんか。だからと言って、消費増税がこれらの漠然とした国際的な信認失墜の不安に対する有効な対応策だとは思いませんが、上記のデタラメな危機感への対策として、「少なくとも何か手を打ってます感」を出さなくてはならない、ということはあるのかな、と思うのですが。

A3:一国のデフレ対策をどうするかということと、一定程度の已むをえぬグローバル化(ヒト、モノ、カネの国境を超えた移動)の必要とは話が別です。
 たしかに、IMFなどはバカの一つ憶えのように、何かといえば構造改革せよ、財政均衡を保てなどと偉そうに忠告してきます。IMFはもともと国情もわきまえずに、とにかくある国の財政破綻を過剰に恐れる体質を持っているので、それももっともといえばもっともですが、それに加えて、IMFの中に、財務省べったりで構造改革派の日本人メンバーが入り込んでいて、いかにも国際的権威の衣を着て、それが正論であるかのように押し付けてくるのです。
 しかし、体面を保つためにそうした言い分に従い続けているうちに、デフレからの脱却はますます困難になり、日本の実質賃金はこの三年間で、6%も下がってしまったのです。国民の生活をこれだけ犠牲にしてまで「何か手を打ってます」感などを示す必要があるでしょうか。しかもその「手」なるものが何の解決にも導かれないのです。根拠のない「危機感」のために、大げさではなく、亡国の憂き目に遭いかねません。まさしく「日本経済ちゃんとやってます」的なことを示すためには、デフレを解消して実体経済の活気を取り戻して見せなくてはならないのです。国民経済の全体と、政府の間違った経済政策とを混同してはなりません。

つい熱くなって長々と書きました。お許しください。

初出:2016年09月30日 01時04分10秒
ジャンル:
経済
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