ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

1998年時点での対北朝鮮強硬派の予測する北朝鮮の将来(1)

2010-11-02 15:33:50 | 北朝鮮・拉致問題
たまたま某公立図書館で本をあさっていたら、『北朝鮮の延命戦争―金正日・出口なき逃亡路を読む 』という本を書架で見かけましたので手に取ってみました。1998年に出た本です。編者が関川夏央と恵谷治、さらにNK会となっています。この本はずいぶん昔ざっと読んだことがあります。

NK会とは、関川のあとがきによると

>NK会とはノースコリア研究会の略称と思ってもらっていい。七〇年代末、つまり不勉強を原因とした北朝鮮への情緒的加担の空気がいまだ強かった時代、玉城素氏など、数人の同学の人士がつどって北朝鮮の実証的研究をはじめた。以降地道な活動を継続してきたのだが、それは秘密会ではなく、あくまで自由な勉強会であった。九〇年代に入り、その成果を積極的に世に問おうという気運がおこり、出版にも力を入れるようになった。(p.252)

だそうです。

>それは秘密会ではなく、あくまで自由な勉強会であった。

ていうのがよくわからないんですが(笑)、「秘密会」って、当時北朝鮮を批判的に検討する会を、秘密会にしなけりゃいけないほどだったってこともないでしょうけど…。

で、この本は巻末に本の執筆者たちによる北朝鮮の将来予測があります。

ふつう、こういったことはあまり割が良くないところがあります。当たったってたいして誉められないし、外れれば馬鹿にされます。そして、この手の予測はたいてい外れます。

正直様々な問題の将来予測というのは、問題を決定する関数が多すぎるのと複雑すぎるので、現実問題としては全く手に負えるものではありません。一つの国家の将来像の予測など、するだけはずれを覚悟しなければなりません。

この本の編者である関川夏央は次のようにのべています。

>北朝鮮の近未来を予測する12項目
執筆者たちは端的にこう考える

 一九九四年頃、つまり金日成死亡直後、北朝鮮近未来予測が日本のマスコミにことさらに流行した。しかし、急速にそれは衰えた。マスコミは飽きたのである。また当時積極的にマスコミの要請に応じたウォッチャーたちは「金正日体制」の()樽を前提として発言していたから、時を経るにしたがってその正体の見えなさにとまどい、にわかに口をつぐんだのである。
 近未来予測は、ある意味で通俗なやり口といわざるを得ない。それを承知で編集委員会があえてその手法を採用したのは、大多数が普通の人々であるだろう本書の読者の利便に供したいと発想したからだが、同時に、北のみにとどまらず、長くコリア全体を見つづけ学んできた民間研究者たちの見方を、ここで日本政府にも端的に示しておきたいという意図もひそんでいる。読者は、これら執筆者の北朝鮮の将来へのクールな展望とともに、日本外交への強い危惧の念をも感じとって驚かれることだろう。しかし、それこそが常識人の常識であると知っていただきたいのである。


「常識人の常識」ねえ…。

そーんな、自信満々の態度で、あとで恥かかない? って、私みたいな小心者なんかつい考えちゃいますが、はてはて、彼らの未来予測はどんなもんでしょうか。

まず執筆者10人について紹介します。紹介は、この本の記述をそのまま引用します。wikipediaに名前がある人はリンクしておきました。また私の調査でそれなりに情報を得られた人については記述を追加します。

玉城 素 1926年生まれ。旧制二高(現東北大学)中退。現代コリア研究所理事長。著書に『金日成の思想と行動』、『北朝鮮 破局への道』など。NK会幹事代表。

McCreary追記:玉城は2008年9月14日に亡くなっています(こちらより)。なお、今年の7月13日に亡くなった歌人の玉城徹は実兄だそうです(こちらより。この記事はけっこう面白いと思います)また弟に玉城哲という人がいてこの人は専修大学の教授でした(こちらより)。かなり優秀な家系ではあるようですね。

関川夏央 1949年生まれ。 上智大学外国語学部中退。85年『海峡を越えたホームラン』で第7回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『二葉亭四迷の明治四十一年』など。NK会幹事。

McCreary追記:理由は分からないんですが、関川は北朝鮮関係の著述からは足を洗ったみたいですね。北朝鮮が一向に崩壊しないことに失望したのかな。


恵谷 治 1949年生まれ。早稲田大学法学部卒。探検部OB。アラブ、アフリカのゲリラ解放区の紛争現場を歩く一方で、旧共産圏情勢や民族問題、軍事同盟にも精通。北朝鮮関連の著書多数。NK会幹事。

McCreary追記:知名度の高い人ですので、私の追記は省略します。

野副伸一 1942年生まれ。早稲田大学第一政経学部経済学科卒。67年アジア経済研究所入所。在ソウル海外特派員、在ソウル海外調査員、主任調査研究員、国際交流室長をへて、現在亜細亜大学アジア研究所教授。NK会幹事。

McCreary追記:こちらに亜細亜大学での野添の教員紹介をリンクしておきます。北朝鮮というよりどちらかというと韓国に興味の方向が強いみたいですね。

花房征夫 1938年まれ。文部省図書館職員養成所卒。60年アジア経済研究所図書館へ入所。高麗大学アジア問題研究所、韓国産業研究院などに4年間滞在。主な論文に「南北経済交流の現況と特徴」など。NK会幹事。

花房は現在「東北アジア資料センター代表」という肩書ですが、当のセンターのHPの類をみつけられません。

久仁昌:1929年生まれ。旧制弘前高校(現弘前大学)中退。朝鮮問題研究家。共著書に『韓国・朝鮮 そこが知りたい』など。NK会幹事。

McCraery追記:この人についてはほとんど情報を得ることができませんでした。ただ櫻井よしこのブログに

>朝鮮問題研究家の久仁昌氏が95年12月号の『文藝春秋』に吉田猛氏の父親の龍雄氏について報じ、龍雄、猛の親子2代にわたって第一八富士山丸問題に関わっていたことを示唆している。

紹介されていて、この部分がいろんなサイトにコピペされています。そしてこの記事もそうなりました(笑)。上の雑誌記事については私は未読ですのでなにも論評できません。

鈴置高史 1954年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。77年日本経済新聞社入社。産業部、大阪経済部、ソウル特派員などをへて、アジア部記者。著書に、『韓国経済何が問題か』など。

McCreary追記:鈴置は、2002年にボーン・上田記念国際記者賞を受賞しています。なかなか優秀な記者のようですね。

小林一博 1940年生まれ。早稲田大学法学部卒。64年中日新聞(東京新聞)入社。川崎支局、特報部、社会部をへて、政治部。この間、ソウル特派員。現在、論説委員。

McCreary追記:かれは現在も東京新聞にちょいちょい文章を発表しているようです。今年70ですからすごいものです。

荒木和博 1956年生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。元民社党全国青年部弾く部長。現在現代コリア研究所研究部長・拓殖大学海外事情研究所専任講師。

McCreary追記:この人は拙ブログでもさんざん馬鹿にしているので、みなさんご存知かも。現在は拓殖大学教授です。さらに特定失踪者問題調査会代表。

田中 明 1926年生まれ。小中学校時代を京城(現ソウル)で送る。東京大学文学部卒。52~79年朝日新聞記者。85年拓殖大学海外事情研究所教授。97年同所顧問。著書に『韓国政治を透視する』など。

McCreary追記:「チャンネル桜」なんかに顔を出している(いた)みたいですね。まあそういう人です。

以上です。正直、久仁氏のようにほとんど無名の人物がどのように会で位置を占めていたのかというのもけっこう興味のあるところです。

なお、NK会についてはネットで調べてみましたが、現在では実質的な活動は行っていないようです。おそらく解散もしくは休会状態なのだと思われます。あるいは発展的に別の組織を作ったのかも。

では前置きが長くなりましたがお待たせしました。10人のエキスパートの方々による北朝鮮の未来予想図(1998年段階)を採録します。

正直、私も読んでいて、これはひどいと思うところもたくさんあります。が、これも一種の史料ですので、お読みください。なお、予測は1998年2月現在のものです。金大中大統領就任直後の時点ですね。以下数字は質問です。そのあと10人の考えを書きます。

1:金正日はいつまでもつか

玉城 素:1年半。金正日死後5周年までに。
関川夏央:現状ではかわりが見つかるまでは、むしろもってほしい。
恵谷 治:20世紀末まで。
野副伸一:余りもたないであろう。国民を食わせることができず、金日成のようにカリスマ性もないから。
花房征夫:数年間が限度。
久仁 昌:金正日政権は、限界点に迫りつつある。だが、彌縫策如何によって21世紀、2005年ごろまでは、つづくとみられよう。
鈴置高史:予測は困難。
小林一博:今世紀いっぱい。「国民に食わせる」という国家の役割を果たせない体制は、そう長続きしない。
荒木和博:ただちに排除されても不思議ではない(側近のテロなどのかたちで)。
田中 明:金正日「体制」ということなら、もうこわれている。


2:北朝鮮という国はいつまでもつか

玉城 素:中国保護下に15年ほど。
関川夏央:韓国に、北朝鮮と中国に対するリアリズムが育つ日まで。あるいは中国に統一コリアと国境を接する準備が整うときまで。
恵谷 治:21世紀初頭まで。
野副伸一:意外ともつかも。肝心の韓国が統一を何が何でも実現したいという気がない以上、周辺国も現状維持に傾くしかない。
花房征夫:金正日と国家は運命を共にしている。国家だけが生き残る場合は、中国介入の可能性が高い。
久仁 昌:中国が必要と考えれば、自国の政策展開に適う、「社会主義原理の北朝鮮製権」の継続・冊立を図る可能性もありえよう。
鈴置高史:予測は困難。ただ、周辺国の支援や、各国の現状維持策で、3年前と比べ存続の可能性が高まった。
小林一博:金正日体制崩壊後1年。閉鎖体制に穴があけば、国民の統率はできなくなる。
荒木和博:長くもっても20世紀中。
田中 明:韓国がこれまで通りである限りつづく。

3:戦争はおこるか、おこるとすれば、いつ、どんな形か

玉城 素:おこる。1年半後ころ非正規戦先行の打ち上げ花火型。
関川夏央:全面戦争でなければ1、2年以内に。あるいは金正日の精神・肉体が危機的となったとき。
恵谷 治:おきない。しかし、韓国内での不正規戦は現実に展開中である。
野副伸一:北朝鮮が起こす可能性があるケースは、①韓国が大混乱(例えば金大中暗殺事件)がおこった時。②北朝鮮の体制崩壊が目前に迫った時。
花房征夫:非常に少ない。戦争形態は、在韓工作員などによるテロ、建築物爆破などとか。
久仁 昌:米国を敵とする全面戦争は起こらない。敵を韓国に限定できる情勢と判断した場合には、限定的戦争の可能性もありうる。
鈴置高史:状況次第だが、98年初段階では可能性は高くない周辺国が北朝鮮の存続を消極的ながら望んでいることを北朝鮮が知ったからだ。
小林一博:おこらない。「窮鼠猫をかむ」例は、かつての日本だけ。対南工作はこれまで通りつづく。
荒木和博:金正日の立場があやうくなったとき、韓国国内でのテロに始まり、直接の南侵へと展開するだろう。
田中 明:挑発的事件はあっても全面戦争はおこらない。

4:いわゆるソフトランディングは可能か

玉城 素:不可能。ハードランディングでもない。クラッシュ型。
関川夏央:不可能。
恵谷 治:不可能。改革なき解放がソフトランディング幻想を生んでいる。
野副伸一:ありえないと思う。
花房征夫:可能性は失われた。現実は、危機管理問題に移っている。
久仁 昌:平壌の硬直した思考・行政能力に、ソフトランディングのプログラムに適応する「対応能力」の期待は、まったくもてない。
鈴置高史:不可能である。
小林一博:不可能。改革・開放に耐えられない国家の体質になっているため。
荒木和博:不可能。
田中 明:不可能。

個人的な意見を述べますと、1,2の荒木和博や3の玉城素や関川の意見なんかは、「もうすこしまともなことを言え」といいたくなるくらいどうかと思いますが、これ客観予測というよりむしろ彼らの願望じゃないですかね。ありがちな話ですが。

それから4の「ソフトランディング」の話で、すべての人が「不可能」の趣旨を書いているのも壮観(笑い)。まあいろいろ考えはありますが、この本の出版から12年たって、いまだに北朝鮮は戦争もしていないんだから、「ソフトランディング」もあながち不可能ではないんじゃないって気がしないでもないですが、でも「可能」と考えていたら、こんな本の執筆陣には加わらないか。

長くなりすぎたので、明日以降つづきの記事を書きます。
コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2010夏 香港・広州・深セン... | トップ | 1998年時点での対北朝鮮強硬... »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (珍坊痔漏)
2010-11-02 17:41:00
この本の執筆者たちの意見はネトウヨの妄想と代わり映えがしませんね。
>珍棒痔瘻さん (Bill McCreary)
2010-11-02 21:09:33
まあまともなジャーナリストもいますけど、荒木和博みたいな非常識な極右もいますからね。お話にもならない意見もあります。

コメントの趣旨とは関係ありませんが、これ携帯から送信した初コメントです。
これは (Elekt_ra)
2010-11-02 22:45:09
「偉大なる終了、荒木和博同志は永遠に我々共に荒らされる」という先軍チックな標語を思い浮かびました(笑)

かつて日経インターネット版で「ネットアイ・プロの視点」という論説委員の持ち回りコラム企画があって鈴置高史氏はよく中韓経済膨張の終焉を説きまくっていましたが、高度なGDP成長を遂げる現在の韓国経済を見てどう思われてるんでしょうか。
まあそれでも、経済観測の精密さでは三橋貴明大先生とはいろんな意味で比べものにならないでしょうね(笑)
>Elekt_raさん (Bill McCreary)
2010-11-03 03:39:19
荒木もね、、偉そうなことほざいてばかりいてこのざまですからね、どうしようもありません。

>鈴置高史氏はよく中韓経済膨張の終焉を説きまくっていましたが

なるほど、氏はそのような論説をしていたわけですか。めったなことは言えませんが、こういっては何ですが先を見る目があれば、こんな本には参加しないかもしれません。
実証的研究 (gaulliste)
2010-11-03 19:06:56
>数人の同学の人士がつどって北朝鮮の実証的研究をはじめた
「実証的研究」って産経で初めて見て、産経界隈以外では見たことのない、典型的な産経語ですよねぇ。
不思議なくらい、「実証的」という言葉を付けたがりますよねぇ。
産経の社説によると、「赤ん坊が線路に置かれている」という簡単に事実誤認とわかるようなものが実証的研究な訳で、裁判所に「学問研究の成果というに値しない」と言われてしまうシロモノですが。
>gaullisteさん (Bill McCreary)
2010-11-04 04:18:06
>実証的研究

よくわかんないですけど、ほれみろ、われわれはこんなに先見の明があるんだぞって自慢したいんでしょうね。それにしては、いまでは実に多方面の足を引っ張って、いろんなところに迷惑をかけているように思いますが。

>学問研究の成果というに値しない

けっきょくこれ以来、右翼も東中野を使わなくなっちゃいました。まあ彼らだって、東中野の主張がむちゃくちゃであることは重々承知ですからね。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。