一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

北沢方邦の伊豆高原日記【115】

2011-12-23 10:59:19 | 伊豆高原日記

北沢方邦の伊豆高原日記【115】
Kitazawa, Masakuni  

 冬至である。3時を過ぎると陽が傾き、まだ落ちきっていない樹々の枯れた葉叢を赤く染める。海の彼方、大島の山肌も陽射しを浴びて仄かに赤く輝く。年の暮ともなると海上を行き交う貨物船の数も多い。ここ数日白い波頭をみせて荒れていた海も、今日は静かだ。

ユーロ危機 

 国家主権が存在し、金融や財政政策が各国によって決定されているのに、無理に通貨統合だけを図ったユーロの矛盾が、ここにきて一挙に表面化した。当時の日記でこの矛盾を指摘し、いずれユーロは破綻するだろうと書いた記憶がある。残念ながら探したがその日記はでてこなかった。 

 無理に急いで通貨統合を図ったのは、ドイツやフランスなど中心となる国々が、ドルに代わる強い基軸通貨、あるいは少なくともそれと対抗する世界通貨を創設しようとした野心からである。だが大いなる誤算は、世界の資本主義体制が、新保守主義=新自由主義の制覇によってまったく変わっていったことを認識できなかったことにある。 

 すなわち、諸産業が主導権をにぎり、金融はそれに奉仕する侍僕であるという牧歌的な資本主義の時代は終わりを告げ、巨大流動資金と情報革命を梃子に、それを利益の上がる地点または個別企業に瞬時に移動させ、あるいはリスクがあるとみれば同じく瞬時に引き上げるという、金融諸企業や機関による絶対的な市場支配が確立したことである。それがグロ−バリズムであることはいうまでもない。 

 たしかにそれはリーマン・ショックによって破綻し、新保守主義=新自由主義も没落したが、その市場支配のメカニズムそのものは、今も強固に存続しているのだ。ユーロ危機の根本原因は、国家主権にかかわる上記の矛盾と、世界の資本主義のこの根本的変化を読み取れなかったことに由来する。ユーロ圏の諸金融機関はギリシアやイタリアあるいはスペインなどの国債を抱え、巨大な損失におののいているが、こうした自己矛盾のもたらした時限爆弾はいつ爆発してもおかしくない。 

 円高が示すように、さいわいわが国はまだ破綻の圏外にあるが──財政規律が確立せず、国内での国債引き受けが限度に達すれば、わが国の時限爆弾も爆発するにちがいない──ユーロ圏の破綻は世界経済に深刻な影響を及ぼし、いずれわが国も巻き込まれざるをえないだろう。ユーロ危機は対岸の火事ではない。

TPPの矛盾 

 野田内閣が参加、あるいは少なくとも協議参加を表明したTPP(Trans-Pacific Partnership Agreement環太平洋[経済]協力協定)が問題となっている。 

 これも上記で指摘した矛盾や誤謬と密接にからんでいる。なぜなら資本主義の牧歌的な時代、そしてそれに乗って高度成長を遂げ、世界に冠たる「経済大国」となった日本という記憶が体質として根強く残っているわが国は、いまだにその夢の延長としての「輸出大国」を目指しているようにみえるからである。 

 だが段階的ではあるが究極的にすべてのものの関税撤廃を掲げているTPPは、古来立国の根本であった農業をはじめとする国内の第1次産業に破滅的打撃をあたえるだけではなく、「輸出立国」体制そのものをゆるがしかねない。なぜなら電子産業で韓国に遅れを取っているのをみてもわかるように、激烈な競争とそれを支配する金融のグローバル・メカニズムは、いったん技術革新に遅れを取ったとみるやいなや、日本から身をひるがえしかねないからである。そのうえここで主導権を握っているのはアメリカであり、国内の輸出産業育成やそれによる雇用創出のためには強引なまでもその主導権を発揮するだろう。 

 新自由主義を信奉した小泉内閣によってすでにかなりの貿易自由化を行ってきたわが国が、TPPによってえるものはそれほど大きくない。いまやむしろグローバリズム崩壊後の世界を見定めながら、国内の諸産業の再建や再編を行い、新しい国づくりと持続可能でエコロジカルな経済体制移行へのヴィジョンを探るべきときである。

疲弊大国をもたらしたもの 

 北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が死去し、彼の三男金正恩(キム・ジョンウン)氏がその後継者となった。映像で見るピョンヤン市民の号泣する土下座姿は、敗戦時の宮城前広場の光景に重なってみえる。いずれも軍事独裁的国家の終末を暗示しているといってもいいすぎではない。今後の北朝鮮のふるまいはまったく予測できないが、個人的には開明派であり、改革開放に関心をもつとされる正恩氏が主導権を取れるようになるのははるか先であろう。 

 正日氏は「強盛大国」を目指したとされるが、彼の支配下で実現したのは「疲弊大国」であった。資金や資源は核兵器やミサイル開発に投入され、あいつづく天災にもみまわれ、「人民民主主義共和国」の人民は飢餓に苦しんでいる。 

 その意味で今日の事態を招いた正日氏に、「疲弊大国」をもたらした大きな責任があるが、その罪の根本は、共産主義を標榜した左翼近代主義にある。つまり自然や「内なる自然」である身体性をまったく無視し、いわゆる社会主義国家建設やその産業のために自然を収奪し、友愛の基礎でもある人間の感性やその上に成り立つ文化を殺戮し、朝鮮の種族的アイデンティティさえも剥奪したこの左翼近代主義が、「疲弊大国」をもたらしたのだ。飢饉は旱魃や洪水が原因だといわれているが、それも「社会主義強国建設」のための開発がもたらした森林伐採などの自然破壊に原因がある。つまり唯物論的社会主義による人災にほかならない。 

 いずれにせよ北朝鮮のひとびとが、この「疲弊大国」から解放されるのはいつの日であろうか。胸が痛む。

ジャンル:
政治
キーワード
新自由主義 新保守主義 宮城前広場 社会主義国家 ピョンヤン 人民民主主義 ヴィジョン リーマン・ショック 貿易自由化 グローバリズム
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