マキペディア(発行人・牧野紀之)

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茶草場(ちゃぐさば)農法

2016年10月09日 | タ行

 里山維持、味や香り増す

 お茶の名産地、静岡県掛川市東山地区。年内最後の摘み取り時期になる9月下旬に訪れると、一風変わった風景が広がっていた。

 茶畑の奥にはススキやササが伸び放題。これらの草が東山地区で行われている伝統的な栽培方法「茶草場農法(ちゃぐさばのうほう)」を支えている。

 東山地区の茶作りは1年がかりだ。春から秋までの摘み取りが終わると、茶園の周りで伸びたススキやササを刈り取る。乾燥させ、10センチ程度に細かくした後、茶園の畝(うね)と畝の間に詰める。作業が終わると、もう春が間近だ。

 敷き詰めには、肥料や保水性の向上、雑草防止の効果があり、お茶の昧や香りが増すという。

 メリットは茶の側だけにとどまらない。畑の周りでは、ススキの他にも、秋の七草のハギやクズ、フジバカマ、オミナエシが見られた。地方によっては姿を消しつつある秋の七草は、この茶草場では、全種類が見られるという。絶滅のおそれがある動植物の姿を目にする機会も多い。

 毎年人が手を入れることで維持される里山の環境が茶草場にはある。地域が大切にしてきた150年の農法が、お茶の昧と生物多様性にとって重要な環境も守ってきた。東山のお茶PR・販売店「東山いっぷく処」の代表杉山敏志さん(65)は「お茶がおいしくなって、自然にも優しいってことは、この農業はいいことをしているんだろうと思う」と控えめに誇る。

 取り組みが評価され、国連食糧農業機関(FAO)が認定する、世界農業遺産にも2013年に選ばれた。選考理由では、「伝統的農法の模範例」とされ、「Chagusaba」の名も記された。

 秋の刈り取りなどの体験や、地元の農家がガイドする散策など、外部の人にも農法を身近に感じてもらえる催しも企画する。農家で、ガイドも務める山城みや子さんは「お茶のうまさだけでなく、私たちが守ってきた農法、1年をかけたお茶作りの工程を知って欲しい」と話す。
 (朝日、2016年10月04日夕刊。小坪遊)

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