本谷由希子原作は『腑抜けども、悲しみの愛をみせろ』以来二作目。演劇作品の映画化というと、『今度は愛妻家』以来かな。
人気舞台作の映画化だけに、やはり魅入ってしまう面白さ。でもそれを伝えようとしてもうまく言葉が出てこない。
番上(山田孝之)と妊娠中の妻あずさ(小池栄子)が平屋建ての古い市営住宅に引っ越してくるところから話は始まる。近所にはいつもジャージ姿の山根(浅野忠信)と、彼を「お兄ちゃん」と呼ぶ奈々瀬(美波)が住んでいて、この4人という限られた登場人物で、山根の部屋という狭い場面で基本的に話は回っていく。これも舞台原作ものの定番ですね。
登場人物は、本谷作品らしくどこかしら過剰に異常な性格を持つ人たち。
番上は、無職で就職面接もやる気がなさそうだし、妻あずさが妊娠している大きなお腹を抱えながらスナックへ働きに出ているというのに、奈々瀬と浮気をするどうしようもない男。
あずさは4人の中で一番普通の人じゃないかな。とはいっても、奈々瀬の家にサンダル投げたり自転車投げたり、かなりの行動派。
山根は、常にジャージ姿でカセットテープの編集を熱心にやっている変な男。足を引きずってマラソンに行ってくる、と言って屋根裏から奈々瀬の行動を盗み見している。なんでいつも帰ってくるときに一輪車を持っているのかは疑問。
奈々瀬は、いつも眼鏡にグレーのスウェット姿で、人から嫌われることを極度に怖れるうっとうしい性格。そしてあずさの高校の同級生。
こんな4人が近所に住んで、番上と奈々瀬がやっぱり浮気をして、山根がそれを天井から覗き見していて、最終的には現場をあずさに押さえられるっていう話なんだけど、なんていうか各々の演技にキレがあって、少し舞台っぽいというか妙に変なところを誇張するような、目立たせるような所作がうまいんだな。
美波なんて、もう少しでわざとらしさがおもてに出てしまうギリギリのところで奈々瀬を演じていて、登場したときからまるで演劇そのものを見ているような気分になりました。
ストーリーでは奈々瀬の山根への想いがとてもねじくれて表現されていて、よくもまあこんな観点から愛情を描けるなあと、本谷由希子の才能に改めて脱帽です。だって愛情より憎しみで繋がっていたほうが安心だとか、わざと覗き見させるように仕向けるような面倒くささとか、絶対考えもつかないよ。
一度は本谷由希子の舞台を観にいかなきゃ、と思わせる作品でした。
公式サイトはこちら。
10/16 テアトル新宿
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