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猫に癒された5年間…「あび」の思い出

2016-03-15 23:11:37 | 動物


最近、猫ブームだと言う。瀬戸内海や、東北の方に「猫島」なる場所があって、そこは人間より、猫の方が多いという。そんな話題を目にすると思い出すのが、「あび」のことである。



「あび」はアビシニアンという、エジプトかどこかの産のブランド猫で、その姿は高貴で美しい。なんでも20万円ぐらいしたらしいのだが、元の飼い主の歯医者が一人娘のために購入した。「あび」と言う名前はその娘がつけたらしいが、子供らしくストレートな名前だった。


そのブランド猫が実にやんちゃで、どこにでも爪を立て、ソファーや高級家具をめちゃめちゃにした。鍋はひっくり返すわ、洗濯物は毛だらけにするわ、その他いろいろ悪さをして手がつけられなかったらしい。それが当時の我が家になぜ来たかと言うと、その猫を保健所に渡すという話を聞いた彼女が、かわいそうということでもらい受けたのである。


その猫は、プライドがあったのか、それとも急に飼い主が変わったせいなのか、最初来た時は、「フギャー」と毛を逆立ててこちらを威嚇してきた。しかし、環境が変わっても悪さはやめず、壁はひっかくわ、ソファーで爪を研ぐわで、家の中は大混乱である。


「ごめんね…」と、彼女は謝ったが、すでに家の中はぼろぼろである。しかも、1週間経っても猫は懐かない。相変わらず目が合うと、「フギャー」と、毛を逆立てて怒りのポーズを見せていた。俺とて短気である。しかし1週間、我慢した。もう限界だと思い、暴れる猫を捕まえて、「こら、しっかりせい!」と、頭をこづいた。


小動物を殴るなんてサイテーと言うなかれ。これが効いたのだ。しかし、一度ではない。おそらく5,6回したと思う。逃げ惑う猫を追いつめ、捕まえて頭をガツンとやる。最後は、もう逃げ切れないと感じたのか、すぐに捕まるようになった。その時は、「よし、よし」と、やさしく頭を撫でてやった。そして、爪研ぎ器の前に行き、足を持って爪を研ぐマネをさせた。

そんなある日、家へ帰ると「あび」の姿が見当たらない。そのマンションは2LDKだったが、どこを探しても「あび」がいないのだ。まさか!と思った。朝から快晴だったので、ベランダの戸を少し開けておいたのだが…。まさか、ここは6階である。そう思って下へ降りたら、ちょうど管理人のおばさんがいて、「駐車場の入口に、すごくこ怖い猫がいる!」というので行ってみると、顔から血を滴らせていた「あび」が、横たわりながらも、「フギャー」と周囲を威嚇していた。

だが、俺の顔を見ると泣きそうな顔でびっこを引きながら寄って来た。俺はすぐに抱きかかえ、近くの獣医に連れて行った。動物は不思議な感覚を持っている。病院に入った途端におとなしくなり、観念したような表情を見せるのだ。すぐに事情を話して診察してもらったが、外傷だけで、骨折もしていないという。俺は、頭を撫でてやり、「良かったな、あび」と、やさしく諭した。


それからは、すごくおとなしくなり、逆に信じられないほど懐いてきた。家に帰ると玄関のドアの前にすでに来ている。彼女に聞くと、「不思議な能力があるみたい。あなたが家に着く5分ぐらい前からドアの前で待っている」と笑っていた。寝る時は、必ず俺の横か、蒲団の上で一緒である。その時の俺を見つめる「あび」は、幸せそうだった。「あび」は、本当は愛情に飢えていたのである。


それから5年一緒に暮らしたが、その彼女と別れた時に、彼女が「あび」を一緒に連れて行った。当時、俺は年間に6度くらい1週間単位の出張があり、とてもひとりでは飼えなかったのだ。そのあびは結局、13歳まで生きたらしい。大往生である。いつも俺を探しているようなそぶりをしていたと言うが、最後は糖尿病だったと聞いて、「ぷっ」と笑ってしまった。


いつも男前で、キリッとしていたあの「あび」が糖尿だったなんて、とても信じられなかった。でも、あの5年間は俺も癒されて幸せだった。「あび」よ、お前のことは絶対忘れていないから心配するな。