松本健史の「生活リハビリの達人」になろう!

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ブリコラージュ11月号『生活リハビリの達人』への道 座・介護~座るは介護のイロハノ「イ」~

2013年11月06日 | Weblog

 

高橋源一郎さんが表紙 インパクトがあります。高橋さんの認知症者へのまなざし、とてもよかったです。認知症者は弱い。その弱い人が人を勇気づけたり、元気にすることができる、それだけ認知症者は強いということ。スゴイということ。宅老所やホスピスをたずね、そんな感想を持たれたそうです。ぜひ、お手に取って読んでみてください。

介護雑誌ブリコラージュ11月号に連載中の「達人への道」は今回で第8話

以下に全文掲載です。

生活リハビリの達人になろう 

Mission8  座・介護~座るは介護のイロハのイ~

朝の少し空いた時間に仙人を呼び出し、レクチャーをお願いしました。

「仙人、前回約束したように、今日はひとつ介護現場の『座る』を極めたいと思っています。教えてもらえますか?」

「よし、まずは手で感じてみようか。座ったままお尻の下に手を入れてみよ。ゴリゴリと骨の出っ張りを感じることができるじゃろう。そこが坐骨結節、骨盤の一番下の部分じゃ。体重を受けて、上半身を支えてくれておる。そこに体重が乗れば、活動的な座位姿勢といえる。食事したり、字を書いたりする作業が一番しやすい姿勢じゃ。」

「なるほど、このゴリゴリが座位を支える要(かなめ)なんですね」

「そうじゃ、そして手を尻の下に敷いたまま、ズベーッと前の方にすべってみるのじゃ。そうすると、坐骨結節は消えてなくなるであろう」

「はい、坐骨結節は前に移動してしまって、お役御免というかんじ。もっとお尻の後ろの方に体重がかかっているのを感じます」

「そう、お尻の後ろのほう、それが仙骨じゃ。」

「仙骨といえば褥瘡のよくできる場所じゃないですか!」

「そのとおり!この姿勢が長いのは要注意じゃ!筋肉はなく、薄い皮膚の下に骨の出っ張りがある、ここは構造上、体重を受けるようにはできておらん」

「なるほど、坐骨結節が体重を受ける座り方を大切にするんですね」

「そう、この部屋のお年寄りのなかで活発な人を観察してみるのじゃ。背中は背もたれにひっついておるか?離れておるか?」

僕は周りをみて驚きました。「わー、活発なひとは背もたれから体が離れてますね」

「な、あの座り方を『背面開放端坐位』という。背中が背もたれから離れた座位、という意味じゃ」

 

「でも、ずっとだと疲れてしまいそうですね」

「リラックスするときはもちろんもたれかかって、休めばよい。お前だってそうじゃろ。『アー疲れた、ダルイー』なんて、もたれかかってよく座っとるな。でも先週のデートのときは別人のような姿勢じゃった。ミキちゃんの前では、ずっと前かがみに座っておったではないか!」

「あの、あまりプライベートをのぞかないでくれませんか」

「安心せい、喫茶店のあとに行った連れ込み宿はのぞいておらん」

「あのですね!そんないかがわしいとこには行ってません!」

「ま、とにかく活発な活動、熱心な語らい。そんな時、自然とこの背面開放端坐位になっておることはお前のデートで証明済みじゃ!」

 

座るとよいことが10こもある!

仙人はメモを渡してくれました。

1.食べやすい

2.床ずれが治る

3.排便しやすい

4.筋肉が強くなる

5.バランスがよくなる

6.表情がよくなる

7.血圧調節がよくなる

8.肺活量が増える

9.手足の拘縮を予防する

 座位の効能 「新しい介護」(講談社)より

 

「9個も!いいことづくめじゃないですか!」

「わしの研究では、いいことがあと一個あるな」

「なんですか?」

「重力はタダ!なんでも高いキョウビ、何ぼ使ってもタダという資源は貴重じゃ。お前も遠慮なく使っていいぞ。自由な使用を許す!」

なにも仙人に許可されることはないと思いましたが、たしかにガソリンや電気とちがって重力は、無料の天然資源、座ることで自然に重力の負荷に抵抗していることになり筋肉も活動している。これはお得かも、と思いました。

 

マツモト理学療法士あらわる

「はい、すこし前かがみになれるように背中を押すよ~」と理学療法士のマツモトさんが我々の前でお年寄りさんの座る姿勢をなおしていきました。

 

「なるほど~、だから、あーやって理学療法士のマツモトさんも背中を押して、姿勢を大切にしているんですね」

「ふむ、だが、あのマツモトのやり方は芸がないのぉ。背中を押すことでしかあの姿勢はつくれんか?」

「・・・といいますと」

「お前は勘の悪い奴じゃの。前かがみの姿勢をつくるのに手で背中を押すのは短絡だといっておるのじゃ。そんなことせんでも、生活に寄り添っていたら、そのお年寄りがどんなときに前かがみの座位になるかわかるはずじゃ。たとえば、○○さんは、編み物してるときグッと前かがみのいい姿勢になるとか、このテレビは身を乗り出して真剣に観るな~とか、おかずに天ぷらが出たら前のめりとか、お気に入りの職員がきたらぐっと顔が上がっていい姿勢で話される、孫さんが来たとき、エッチな週刊誌を読むときetc……。その人の生活のなかで前かがみを引き出せるポイント、生活リハビリの達人ならたくさん知っておくべきじゃ」

 「そうか単に背中を押すのではなく、その人の好きな活動を用意して、前かがみの背面開放端坐位を作るのが、我々の腕の見せ所なんですね」

 「そのとおり!何かに熱中して、前かがみの座位になっているときこそ、人はイキイキとしているのじゃ。『重力』の重みもはねっかえしているはずじゃ」

そして、自信満々の表情で仙人が顔を近づけてきました。「ところでお前、この方法じいさんとばあさん、どっちに効くとおもう?」

「えっ、どっちにだって効くんじゃないですか?性別とか関係ないような気がするけど」

仙人は人差し指を立てて、にやりと笑い言いました。

「チッチッチ、重力だけにG(ジイ)に効く」

真剣に考えた僕がバカでした・・・。

 


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