すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【東アジアカップ・大会総括 その3】ハリルが選手を本職じゃないポジションで使うのはなぜか?

2015-08-11 15:24:28 | サッカー戦術論
ハリルは自分の鋳型に選手をハメ込むタイプだ

 今大会、ハリルホジッチ監督はまるで何かに取り憑かれたように、選手を所属チームと違うポジションで使い続けた。いやハリルにはもともとその傾向があったが、今大会は徹底していた。例えば武藤のトップ下と遠藤の右SB、米倉の左SB起用である。

 この3つのパターンは当たり、武藤は大会得点王を取った。遠藤は再コンバートされたボランチで早くもチームの軸になり、米倉はアシストするなど大活躍した。後述するが、ハリルは内心してやったりだろう。ほかにも宇佐美や浅野など、本来のポジションとちがう位置で使われている選手は多い。

 いったいなぜか? 謎を解き明かすには、まずハリルをプロファイリングする必要がある。

 おそらくハリルはかなりの自信家であり、同時に(いい意味で)自己顕示欲が強い。で、所属チームにおける選手の使われ方を見て、「なぜ彼をそんな使い方するんだ?」「もしオレなら彼の◯◯な特徴を生かし、このポジションで使うぞ」と考える。(現に遠藤航に関し、ベルマーレとそんなやり取りがあったとの記事を見た)

 で、ハリルは自分の信念や特有の価値観に基づき、代表チームでコンバートを繰り返す。加えて本来のポジションと異なる位置でわざわざ使うことにより、人とちがう自分の個性を強く主張する。つまり「オレ独自の考えはこうだ」と社会に自分をアピールしている。そして議論を吹っかけている。

 自己主張しない日本人には考えられないメンタリティだろう。だが議論を好み、任意の概念を哲学的に突き詰めて考えるのが好きなフランス文化の影響が濃いハリルが、こうした思考をするのは十分にうなずける。「ああ。あのおっさんなら、そうだろうな」という感じがする。ハリルにとってサッカーは哲学なのだ。(現にハリルの行動や思考パターンは、日本のサッカー関係者なら誰でも知っている「あのフランス人」に非常によく似ている)

まず戦術ありきの監督とセレクター型とのちがい

 さて代表監督には2種類しかいない。

 自分の哲学を実現するため(1)あらかじめ用意した鋳型(戦術)を使うフィロソフィ型と、(2)まず能力優先で力のある選手を集め、彼らにマッチし彼らが力を発揮できるようなシステムや戦術をあとから考えるセレクター型ーーの2種類だ。おそらくハリルは典型的な前者だろう。

 彼は(いい意味で)自信家であり、自分の哲学を持っている。で、それを広く社会に向けてアピールしたい。(いい意味での)自己顕示欲が強い。このタイプの監督がチームを作るとき、採用する方法はひとつである。

 まず自分が信奉する戦術とシステムが先にあり、その鋳型にハメ込むようにあとから選手を合わせていく。したがって、(1)その鋳型に合う選手がいないとき、および(2)鋳型には合わないが、非常に能力が高くどうしても使いたい選手がいるときーーには、選手を本来のポジションと違うポジションで使うことになる。こう考えればすべての疑問が氷解する。

 例えば武藤と宇佐美はハリル政権下ではどちらも(2)に分類される選手である。だが武藤は順応し、宇佐美は適応できずに苦しんでいる。

 また浅野も(2)だが、彼の場合はスタメンで使い時間をやればモノになるだろう。宇佐美のようなある種のひ弱さや繊細さは、大胆で思い切りのいい浅野にはない。だから「異国の地」のポジションでも通用する。そもそもトラップミスを繰り返す永井にあれだけ時間をやるなら、若く将来性のある浅野を少なくとも1試合はスタメンで使うべきだった。ハリルのあの永井に対する偏愛は、プロファイルの域を越えている。一見、理解不能だ。

永井は戦術の犠牲になっている

 だがこの「永井問題」の謎も、ハリルの鋳型と照らし合わせれば容易に想像がつく。本来、永井は持ち前の絶対的なスピードを生かし、相手バックラインの裏のスペースを狙って走り込み、前でボールを受けるプレイをすれば最大限自分の武器が生きる。つまり「人に使われる」タイプのプレイヤーだ。

 かつ、自分の前にスペースがあればあるほど、強みを発揮する。

 にもかかわらずハリルジャパンでの彼のプレイスタイルはどうか? 引いて守備もやりながらサイドに自分でポイントを作り、なんとパス出しで「人を使う」プレイをしている。しかもスペースをもってない。持ち味と正反対なのだ。あれでは永井は生きない。

 本当なら2トップにでもしてポストプレイヤーとセットで使い、彼には相手の裏のスペースを重点的に狙わせるべきだ。だが2トップという選択はハリルの辞書になく、ゆえに永井は機能不全のまま沈んでいる。それもこれも永井という選手を先に選んだのでなく、ハリルの鋳型(システム)がまず先にあるからだ。そうではなく、セレクター型のチーム作りをしなければ永井は生きないだろう。

 もちろんハリルもそんな永井の特徴はわかっている。そもそもハリルは彼のスピードに惚れて招集したのだから。だがそれでいながらハリルは、自分の鋳型を曲げて永井が生きる形で使ってやろうとしない。ハリルは頑固に自分の哲学を変えない。で、永井は実質、飼い殺しになっている。

 ゆえに私は前回の原稿で、自分の哲学を優先し飼い殺しにするならチームにとってマイナスだから「永井は見切れ」と主張した。さらに前の記事では、「これは永井の問題というより、選んだ監督の問題だ」とも書いた。そして後述するが、この永井問題は「宇佐美問題」とまったく同じ構造を抱えている。

鋳型にハマらない「宇佐美問題」に解決策はあるか?

 さて深刻なのは、ハリルの鋳型にハマらない宇佐美である。今大会を通じ、宇佐美はほとんど「ただいるだけ」。特に45分たてば、守備でバテバテになり消えてしまう。彼を本来のポジションで使うか、あるいは彼の守備の負担をもっと軽くするテを考えなければ宝の持ち腐れだ。

 いや個人的には、現代的なフットボーラーなら全員が守備をするべきだと考えている。だが宇佐美の場合はそれによるマイナスがあまりに大きく、ならば彼を呼ぶ意味がないとさえ思える。それなら解決策を打つ一手だろう。

 まず宇佐美をワントップで使えば解決するが、ハリルはハリルで自分の鋳型(哲学)を持っている。例えば今大会で使われた興梠は、典型的なポストプレイヤーだ。また海外組の大迫もポストプレイが売り物である。さらにレギュラー格の岡崎はポストにもなれ、裏も狙える。つまりハリルが選ぶワントップの選手はすべてポストプレイヤーか、またはそれに準じるタイプである。

 一方、ハリルの鋳型に合うからでなく図抜けたフィジカル(高さと強さ)で選ばれている川又は、ぶっちゃけポストは下手だ。だが(おそらく監督の指示で)ポストプレイに徹している。すなわちハリルにとってのワントップは「ポストプレイヤーであること」が戦術的な絶対条件であり、ゆえに宇佐美はワントップでは使われない。

 とすれば宇佐美には、まだ今の左サイドよりトップ下のほうが合いそうに思える。だがこちらもハリルの鋳型にハマらない。ハリルにとってのトップ下の理想像は香川だ。自在にパス出しができゲームを作れ、自分もセカンドストライカーとして前へ飛び込み点が取れる。また守ってはハイプレスをかけ、前線で体を張って粘れるーー。これら要素のうち「点を取る」という一点を除き、すべて宇佐美に当てはまらない。ゆえに宇佐美はトップ下で使われない。

 かくて宇佐美はSHで守備も要求され、消耗し、力が出せない。この状況は、監督がハリルである限り変わらない。ならば宇佐美は守備をするスタミナと強いメンタリティを養わない限り、おそらくこの代表チームでは活路を見出せない。

やはり宇佐美はFWで生かすのが合理的だ

 合理的に考えれば、今のシステムが前提なら宇佐美の得点能力を生かしてワントップで使い、かつポストプレイもやらせる(ハリルはワントップには恐らく必ず要求する)ほうが現実的に思える。これなら日本代表の決定力不足への解になる。またポストプレイを強要されるにしろ、どう考えても川又よりは宇佐美のほうがはるかにボールタッチがうまい。ポストとしても機能するはずだ。

 あるいは宇佐美を生かすため2トップにし、ポストができるFWと彼を組み合わせるテも有力である。これならクサビを受けるため常に張っている必要はなく、宇佐美は自由に動いて裏も狙える。いったん引いてドリブルもできる。彼のよさが十二分に出そうだ。だが恐らくこの案は、ハリルの鋳型と食い違うため採用の可能性はない。かくて「宇佐美問題」は解決策がないまま漂流するのだろうが、個人的には最後にあげた案を推しておく。

 いずれにしろハリル丸の将来は、彼が用意した鋳型次第だ。そもそもハリルが当初から掲げるハイプレス&ショートカウンターという戦術も、選んだ選手に合うタクティクスとして「選手ありき」で出てきたものではない。ハイプレス&ショートカウンターなる鋳型がまず先にあった。

 とすれば日本代表の命運は、やはりハリルが丹精込めて作った鋳型にかかっている。

 ではこの迷路をどう抜け出せばいいのか? 次回、公開する記事でわかりやすく解説しよう。

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