仙境の里岩根沢を愛した詩人 丸山薫

詩人丸山薫が「仙境」と呼んだ山形県西川町岩根沢。山里の四季と美しい詩の数々を紹介していきます。

岩根沢雪降ってます。

2013-01-18 20:51:49 | その他
今年も大雪の様相です。

冬の夢

2012-08-26 19:41:11 | 丸山薫
雪がつもって
毎朝 道が消え
昨日の道の上に
きょうの道がつく

新らしい道は
日増しに細く高まり
二月に固雪になると
道でないところが
道になる

子供達や橇は自由に
雪の上を走ってゆく

だが やがて春がきて
雪が溶けはじめると
藁沓の下から
あけびの蔓や木の枝先が
あらわれる

そして 人々は不意に
夢から覚めたときのように
梢や谷の空を歩いていたことに
気がつくだろう

遠い昔のように

2012-08-25 09:22:27 | 丸山薫
雪のふる夕暮
道を歩いていると
不意に
額を払ったものがある

見れば
さくらの枝だ

おや もう こんなに
雪がつもったのかしら
雪がつもって
もう こんなに
道が高くなったのかしら

春の頃 この枝を
仰いだことを想い起す
枝の花を透かして
うすみどり色の空を
仰いだことを想い起す
明るいその幻を
遠い昔のように想い起す

綴方

2012-08-24 17:20:03 | 丸山薫
雪は子供達から
太陽をとりあげた
雪は子供達から
遊び場をとりあげた
雪は子供達から
山や岩や木や草の色と形を
とりあげた
雪は子供達から
小鳥の歌をとりあげた

光もなく 音もなく 色もない
ただ 灰色に単調な一年の半ばを
いったい 子供達はなにして暮すのだろう

私は教室で綴方を書かせるが
どの子供も短い鉛筆の芯を舐め舐め
朝起きたこと
夜寝たこと
御飯を喰べたこと
ただ それだけを丹念にしるす

これらの哀しい白紙のような一枚一枚から
風に抱かれた山の粉雪が舞い立って
はげしく 私の額を打つように思うのだ

静かな祭

2012-08-23 20:56:37 | 丸山薫
雪の降る日
谷底ので
静かな祭がある

太鼓も鳴らない
提燈も点らない
ただ 家の中で
臼音だけがきこえる

息子が杵を振り上げる
娘達が餅をちぎって
それを山の神の祠に供える

神さまは嶮しい崖を背負って
つもる雪の中に
いらっしゃる
ひっそりと鳴りを鎮めて
仄青い夕暮の中に
いらっしゃる