今年も大雪の様相です。
雪がつもって
毎朝 道が消え
昨日の道の上に
きょうの道がつく
新らしい道は
日増しに細く高まり
二月に固雪になると
道でないところが
道になる
子供達や橇は自由に
雪の上を走ってゆく
だが やがて春がきて
雪が溶けはじめると
藁沓の下から
あけびの蔓や木の枝先が
あらわれる
そして 人々は不意に
夢から覚めたときのように
梢や谷の空を歩いていたことに
気がつくだろう
毎朝 道が消え
昨日の道の上に
きょうの道がつく
新らしい道は
日増しに細く高まり
二月に固雪になると
道でないところが
道になる
子供達や橇は自由に
雪の上を走ってゆく
だが やがて春がきて
雪が溶けはじめると
藁沓の下から
あけびの蔓や木の枝先が
あらわれる
そして 人々は不意に
夢から覚めたときのように
梢や谷の空を歩いていたことに
気がつくだろう
雪のふる夕暮
道を歩いていると
不意に
額を払ったものがある
見れば
さくらの枝だ
おや もう こんなに
雪がつもったのかしら
雪がつもって
もう こんなに
道が高くなったのかしら
春の頃 この枝を
仰いだことを想い起す
枝の花を透かして
うすみどり色の空を
仰いだことを想い起す
明るいその幻を
遠い昔のように想い起す
道を歩いていると
不意に
額を払ったものがある
見れば
さくらの枝だ
おや もう こんなに
雪がつもったのかしら
雪がつもって
もう こんなに
道が高くなったのかしら
春の頃 この枝を
仰いだことを想い起す
枝の花を透かして
うすみどり色の空を
仰いだことを想い起す
明るいその幻を
遠い昔のように想い起す
雪は子供達から
太陽をとりあげた
雪は子供達から
遊び場をとりあげた
雪は子供達から
山や岩や木や草の色と形を
とりあげた
雪は子供達から
小鳥の歌をとりあげた
光もなく 音もなく 色もない
ただ 灰色に単調な一年の半ばを
いったい 子供達はなにして暮すのだろう
私は教室で綴方を書かせるが
どの子供も短い鉛筆の芯を舐め舐め
朝起きたこと
夜寝たこと
御飯を喰べたこと
ただ それだけを丹念にしるす
これらの哀しい白紙のような一枚一枚から
風に抱かれた山の粉雪が舞い立って
はげしく 私の額を打つように思うのだ
太陽をとりあげた
雪は子供達から
遊び場をとりあげた
雪は子供達から
山や岩や木や草の色と形を
とりあげた
雪は子供達から
小鳥の歌をとりあげた
光もなく 音もなく 色もない
ただ 灰色に単調な一年の半ばを
いったい 子供達はなにして暮すのだろう
私は教室で綴方を書かせるが
どの子供も短い鉛筆の芯を舐め舐め
朝起きたこと
夜寝たこと
御飯を喰べたこと
ただ それだけを丹念にしるす
これらの哀しい白紙のような一枚一枚から
風に抱かれた山の粉雪が舞い立って
はげしく 私の額を打つように思うのだ
雪の降る日
谷底ので
静かな祭がある
太鼓も鳴らない
提燈も点らない
ただ 家の中で
臼音だけがきこえる
息子が杵を振り上げる
娘達が餅をちぎって
それを山の神の祠に供える
神さまは嶮しい崖を背負って
つもる雪の中に
いらっしゃる
ひっそりと鳴りを鎮めて
仄青い夕暮の中に
いらっしゃる
谷底ので
静かな祭がある
太鼓も鳴らない
提燈も点らない
ただ 家の中で
臼音だけがきこえる
息子が杵を振り上げる
娘達が餅をちぎって
それを山の神の祠に供える
神さまは嶮しい崖を背負って
つもる雪の中に
いらっしゃる
ひっそりと鳴りを鎮めて
仄青い夕暮の中に
いらっしゃる