お気楽ボランティア日記

楽しみながら、ボランティア   広がる、人の輪

「リハビリの夜」を読む・・・!!!

2016年10月12日 | 映画・演劇・本

 雑誌「世界」10月号に相模原事件に関する考察文が3本あった。その中の一本が熊谷晋一郎「『語り』に耳を傾けて」だったが、それを読んで、心に迫ってくるものがあった。

 それは著者自身が障害者であることからくる感性や問題意識からだと思い、さらに彼自身について調べてみた。そしてこの本「リハビリの夜」と出会った。

 熊谷は東大医学部出で、小児科医・・・えっと驚いた。なぜなら彼は脳性マヒで車椅子生活者だったから。頭脳がずば抜けて優れていたとしても、医者になれるのだろうか?診察や治療をどうやって!?信じられなかった。

 私は教員時代、3年間脳性マヒの女の子K子さんを担任した。熊谷と同じで出生時の酸素不足がもとで脳性マヒとなったのだが、彼女は知的な面でも遅滞があり、マヒの程度もより重かった。だから彼女はごく簡単な受け答えは出来るが、自分の感情を言葉として出すことは苦手で、恐ければ体を硬直させて奇声を発し、嫌な時は目をそらし、興味がないときはうつむき、面白ければ笑った。

 移動も、食事も、排泄も、生活全般に介助が必要だったから、私は教師兼介助者であった。彼女は学校での時間割をただ黙って、唯々諾々と従ったと言っても良い位、とても素直な子どもだった。

 3年間で、K子さんはひらがなを全て覚えた。数を10までなら理解できるようになった。オルガンで簡単な曲なら弾けるようになった。フォークを使ってなんとか食事が出来るようになった・・・

 しかし、私は彼女が本当は何を考え、何をしたいか、ほとんどわからなかった

 「リハビリの夜」を読んで衝撃だったのは、私がよかれと思ってK子さんにしてきたことも、実は苦痛を与えたに過ぎなかったのではないかという事だ。

 この本を読んで、知的に高い人が、言うことを聞いてくれない体を持つとどんな心境になるのかがわかってとても興味深かった。身体内協応構造とか、折りたたみナイフ現象とか、初めて聞く言葉の連続でやや疲れる。しかし、それにもましてマヒした体を持つ当事者の分析が大変興味深いのだ。

 例えば便意を催したときの事がこう書かれている。秀逸だ!

 私たちならトイレに直行して用を済ませるのになんの問題もないが、マヒしている体を持つ人にとっては大問題だ!ましてや街中で一人でいるときにそれが起きたらどれだけ大変かが、克明に記されている。越えるべき山が数え切れないほどあるのだ。

 最初は便意をどうやってやり過ごすかが問題。彼はそれが起こるやいなや反射的に押さえ込もうとする習慣が身についているという。便意と押さえ込む意志とがけんかを始める・・・このあたりは誰でも経験があるのでは?私にはたびたびあったのでちょっと面白かった。 

 用を無事に果たせなかったら・・・・「失禁」だ。熊谷はそのことも隠さずにこう書いている。

 「失禁は,焦燥や不安が、悲しみや恥辱へ、ゆるゆると溶けていく過程だ。それは同時に,腹痛という生理的な苦痛からの解放でもある・・・・そしてこの緊張から弛緩への移行は、屈辱と同時に一抹の恍惚を伴うものだ」

 さらに失禁して「穢れた身体」になってしまった時に味わう意識がこう表現されている。

活気あふれる人の群れから離れていく疎外感や、排泄規範から脱線してしまった敗北感と同時に、力強くそこに存在し続ける地面や空気や太陽や内臓へと開かれていく開放感の混合。失禁には退廃的とも言える恍惚がある。」

 恍惚か!素晴らしい、その通りなんだろうなあと、私は同意した。K子さんも言葉にこそ出せないが、似たような感情を抱いていたのだろうか?と、気になった。

 だが、失禁のあとに来るのは「清拭」だ。昔は親がしてくれたが、18歳で自立してからは、これを他人の介助者に任せなければならない。当事者は、介助者の複雑な思いを理解しなければならない。(私も寝たきりの父親の排泄後の始末をしてきたが、これは身内だから我慢出来たが・・・)ここの文は長いので引用しないが、「誘い、一体となり、世界とつながる」という小見出しがつけられているので想像できると思う。

 この本は脳性マヒ当事者の書いた物であるが、いろんな意味で普遍的で、誰にでも適用される面も少なからずあり、とてもとても面白かった。

 熊谷の医者としての工夫などは絵入りで語られていて、そこも興味深い。私はこの本を早速K子さんのお母さんに勧めた。

 この本は「新潮ドキュメント賞」を受賞している。

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