ラミ・デュ・ヴァン・エフ シェフのブログ ~言葉の錬金術~

フランス料理に限らず、色んな話のブログ内容です。

ブルー、セニャン、ア・ポワン、ジュスト・キュイ、ヴィアン・キュイ、みんな違ってみんな良い

2010-09-04 22:23:44 | Weblog
 一応、暦の上では「秋」に属すわけですが、未だに残る夏の忘れ形見「暑さ」に戸惑いつつも「芸術の秋」に傾倒するか「食欲の秋」に邁進するか、まだ見ぬ「秋」に想いを馳せている今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか。
 毎日「どうしちゃったの?」というくらい暑い日が続いておりますが、早く過ごし易い「秋」に移行していただきたいものです。
 こんな気温の状態ですから「秋」と言われても連想するのは「アンジェラ・アキ」か「あき竹城」くらいであります。(ウソ)お願いしますよ、太陽さん、少し「照らし」を抑えて下さいよ。
 
 「食欲の秋」だから、というわけでもないでしょうが、先日、当ブログに「蝦夷鹿入荷」の話を載せたところ、ご来店なされて「アレ、あります?」と訳あり風に仰る方が多数おりました。(大げさ。実際は数組)
 「調整捕獲」というキーワードにヤラレたのか、とも思いましたが、このような長い文章のブログをお読みになられて「食べてみるか。」と思われた方々には感謝いたします、蝦夷鹿も成仏した事でしょう、いや、フランス風に言えば「星の王子様になったのね」といったところでしょうか。(蝦夷鹿はオスでした)
 蝦夷鹿はロティール(ロースト)してお出ししているのですが、蝦夷鹿の肉(モモ、ロース)は肉質もさることながら繊維質が繊細で焼きすぎでしまうと肉全体が縮み、そして、止めどなく肉汁が溢れ出て、結果、肉の仕上がりがパサついてしまう、という事態になってしまいます。
 かと言ってビクビクしながら火入れをしてしまうと中心が生になり「叩き」状態になってしまいます。
 前者の失敗よりも後者の失敗の方が許せる範囲ではありますが、肉の焼き方というのは「どういう焼き上がりの状態を目指すか」というのが作り手にとって最大のポイントになるのではないでしょうか。
 私は、当店のメニューに通年リストアップしている「ニュージーランド産 鹿ランプ肉のロースト」という料理を作り続けている経験からその難しさというのを身を持って体験してきました。
 豚肉の火入れ「ミディアムウェルダン(仏語ジュスト・キュイッソン)」とも違う、牛肉の火入れ「ミディアムレア(仏語ア・ポワン)」とも違う独特の焼き加減「セニャン」は、英語にすると「レア」に当たります。
 肉の焼き加減を細分化すると生に近い状態から「レア、ミディアム・レア、ミディアム、ミディアム・ウェルダン、ウェルダン」になると思われますが、フランス語では「ブルー、セニャン、ア・ポワン、ジュスト・キュイ、ヴィアン・キュイ」になります。
 同じ5段階ではありますが英語の持つ肉の焼き加減とフランス語の持つ肉の焼き加減は若干、ニュアンスが違うのではないか、と私は思っております。
 説明するのは難しいのですが「セニャン」は「セニャン」でしかなく、「ア・ポワン」は「ア・ポワン」でしかないのです、全く説明になってませんけどね。
 今まで私は肉を焼く際、肉の表面を焼き固めフライパンに乗せた状態でオーブンに入れ最終的に火を通す、というセオリーで焼いたりしてきましたが、どんなに神経を使って焼いてもこの焼き方では肉汁が出てしまうのです。
 試行錯誤して、肉をオーブンの排気口の上の網棚に置き、室温に戻してから焼く、という手段も試しましたが肉の表面が乾く上、時間が掛かる、という欠点がありました。
 肉の表面の乾燥防ぐためにオリーブオイルを塗る、という事もしましたが、それを最初にしてしまうとアセゾネ(塩、胡椒をする事)が肉自体に出来ませんし、先に肉にアセゾネしてからオイルを塗ると浸透圧の効果で肉汁が出てきます。
 プラック(ヒートトップレンジの事)の端でゆっくりと火を入れる、というのも試しましたがどうしても納得できる焼き方ではなく、一般的な焼き上がりになってしまいます。
 先述の通りに肉を焼くと失敗する、というのではなく、自分が理想とする焼き具合、白身の肉(鶏、豚)なら薄っすらロゼがかった焼き具合で完全に火が通っており繊維が縮んでいない、赤身肉(牛、鹿、鴨)なら目の覚めるような「赤」が肉の断面を支配し中心はタップリと肉汁を含んでいる、というものの完成形に近づくための試行錯誤、という意味であります。
 
 焼いている肉の中を想像し、繊維質に優しい火の入れ方を考え、火にかざして「焼く」というイメージではなく、「徐々に火を入れていく」という焼き方にすれば理論上、肉汁を逃す事無く且つ、焼き縮みも無く、という具合に焼けるはずなのです。

 「お前はそんな風に焼けているのか。」

 ここまで話を引っ張ったら当然出てくる疑問でしょう。

 疑問に思われた方!

 ご来店いただき審判を下してくださいね。

 というわけで、蝦夷鹿、残りわずかです。

 今日は微妙に宣伝でしたな、失礼いたしあした。








コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本の中にあるアルカトラズ... | トップ | 電話の向こうの謎の男再び現... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
目の覚めるような赤 (高橋)
2010-09-05 14:43:47
でしたよ、マグレカナール。

血が滴る野生を感じろ!

と・メッセージを受け取りました。

(焼き方を以前書いていた気がしますが気が向いたらまたブログにupしていただきたいものです)
コメントありがとうございます (マチルダベイ)
2010-09-07 13:57:23
  >高橋様

先日はご来店ありがとうございました。
マグレ鴨、気に入って頂けましたら幸いです。
またのご来店、お待ち申し上げます。

コメントを投稿