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チェ 28歳の革命◆ゲリラ戦によみがえる変革のイコン

2009-01-13 10:04:23 | <タ行>
  

  「チェ 28歳の革命」 (2008年・アメリカ/フランス/スペイン)
   CHE: PART ONE/THE ARGENTINE
思えば私は映画を見ていたのではなかった。幕が上がった当初は、数日前から読み始めた「革命戦争回顧録」のどのエピソードが再現されるのか、そこだけを注視していたように思う。しかし、シエラ・マエストラの山中を行軍する革命軍のシーンを見るうちに、私はスクリーンに描かれる革命家チェ・ゲバラその人を、流れる映像のひとコマひとコマに探し始めていた。ベニチオ・デル・トロという役者の佇まい、声音、一挙手一投足を通して、私はゲバラの実像の片鱗を感じ取りたかった。それは映画を見るというより、ゲバラその人を見たいという思いだった。1967年の死を境に、清廉な正義のイコンとして世界中から愛され続けた伝説の革命家への興味は尽きない。ゲバラをもっと知りたい、身近に感じたい――そう願う観客の思いを、ソダーバーグ監督は裏切らなかった。冒頭からそっけないほど淡々と描かれる革命軍の戦い。1964年にキューバ代表として国連総会に出席したゲバラをモノクロ映像で描く点を除けば、これといった工夫も描写の緩急もないまま全編が進んでいく。その思い切りのいい演出ぶりは、この潔い革命家を物語るのにふさわしい方法に思えた。

アルゼンチンの富裕層の出身で医学生だったエルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナが、おんぼろバイクに乗って友人と南米大陸縦断の旅に出たことは、ウォルター・サレス監督の「モーターサイクル・ダイアリーズ」に詳しい。その旅の途上で、貧困や病苦に喘ぐ人々の姿が青年期の瑞々しい感性に刻まれていくエピソードは、私たちの知るゲバラの原点であり、キューバ革命の勝利も超えてさらなる高みを目指す真の革命家を予感させるものだった。ラテンアメリカは一つであり国境は意味をなさないと言い切った青年は、しばしの時を経てキューバ革命の指導者となるフィデル・カストロと歴史的な出会いをする。ここから始まる革命家チェ・ゲバラの道のりを追う二部作の前編が、キューバ革命に勝利するまでを描いた本作だ。

映画では前述のゲバラの著書はじめ、存命中の関係者から取材した逸話の中からエピソードを拾い上げる。ゲバラは持病の喘息に苦しみながら、過酷な山岳戦を闘い、革命軍の支援に回る農民には礼儀を忘れなかった。文字の読めない者には読み書きを教え、戦闘の合間を縫って読書にいそしみ、医師として近隣の村人の健康を気づかった。一方で部隊を率いる冷徹な指揮官として、規律に反する行為を厳しく罰するエピソードもある。こうした逸話を積み重ねながら、従軍医師から革命戦士へと成長を遂げ、やがて革命軍の傑出した司令塔となっていくゲバラの足跡を、カメラは背景の光や音、風のそよぎの中に写し取る。それは「回顧録」に時おり挟まれる、叙情的とも取れるゲバラ自身の回想の描写に不思議と重なっていくようだった。

モノクロ映像で描かれる国連本部での歴史的演説や南米諸国代表との質疑のシーンは(裏方職員とのささやかな逸話と相まって)、ひとりの革命家の時空を超えたカリスマ性を合わせ鏡のように照射しながら、カラー映像で進行するキューバ革命のゲバラ像を浮き彫りにする。まるでニュースフィルムを見ているような白黒のイメージは、ゲバラを喪失した世界の失意を物語っているように感じられ、それゆえになおさらキューバ革命を戦うゲバラの姿は、その先で彼を待ち受ける峻烈な運命を知る私たちの目を色鮮やかに射抜くのだ。いっさいの前置きのない平坦な描写に退屈する瞬間があるかもしれない。それはそれでかまわないと私は思う。この映画を見るために劇場に足を運んだことをゲバラはたぶん喜んでくれるはずだし、この作品は彼を知るための、ほんのとば口なのだ。


【トリビアル・メモランダム】
ゲバラの死を契機に、彼の肖像は60年代末の反体制運動の象徴として
ポスターやアートのモチーフに使われ始めた。
その元となった写真は、キューバの写真家アルベルト・コルダ
1960年に撮影した「Guerrillero Heroico」(英雄的ゲリラ)と呼ばれる
こちらの写真。ハバナ港で起きた貨物船爆発事件の犠牲者を悼む
追悼集会で撮影された一枚だったといわれる。
この写真はゲバラの死後、アイルランドのアーティスト、
ジム・フィッツパトリックによってネガティブ加工を施され、
あまりにも有名なこのポスターが誕生した。
コルダもフィッツパトリックも共に著作権を放棄していて、
ゲバラの高邁な精神が表れ出たこの肖像写真は、
その後も世界中のファンのあいだに広まっていった。


満足度:★★★★★★★★☆☆


<作品情報>
   監督:スティーブン・ソダーバーグ
   製作:ローラ・ビックフォード/ベニチオ・デル・トロ
   脚本:ピーター・バックマン
   音楽:アルベルト・イグレシアス
   出演:ベニチオ・デル・トロ/デミアン・ビチル/サンティアゴ・カブレラ
       エルビラ・ミンゲス/ジュリア・オーモンド/カタリーナ・サンディナ・モレノ

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト 「チェ 28歳の革命」
   ■関連商品 「革命戦争回顧録」(チェ・ゲバラ著/中公文庫)
           「モーターサイクル・ダイアリーズ」(2003年・ウォルター・サレス監督)
  
          

   

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4 コメント

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どうもこすもさんこんばんは⌒ー⌒ノ (黒猫館)
2009-01-14 00:57:38
どうもこすもさんこんばんは⌒ー⌒ノ

「チェ 28歳の革命」レヴュー非常に興味深く読ませていただきました。

まず題名が凄いです。「28歳」で革命の指導者になるとは圧倒されてしまいます。わたしが28歳の時何をしていたか?と思い出すと冷汗が出てしまいます。⌒ー⌒;

■これといった工夫も描写の緩急もないまま全編が進んでいく。その思い切りのいい演出ぶり■

ハリウッド的なマッチョでドラマチックなヒーローとしてゲバラを描かなかったのは正解だと思います。等身大の人間としてのゲバラを知りたいという観客の要求に応えてくれる映画になっていると思います。

■貧困や病苦に喘ぐ人々の姿が青年期の瑞々しい感性に刻まれていくエピソード■

「なぜ」ゲバラが革命を志したか?という疑問ですが、ラテンアメリカの貧しき人々への共感からゲバラが革命を志した、とすればゲバラの大いなる人間愛に感動せざるを得ません。

■ゲバラを喪失した世界の失意を物語っているように感じられ■

昨今の日本社会の右傾化に伴って、現在「革命」という言葉が死語になりつつあるような現代の状況にあって、この映画がどのように捉えられるのか非常に興味深いです。

■映画を見るために劇場に足を運んだことをゲバラはたぶん喜んでくれるはずだし、この作品は彼を知るための、ほんのとば口なのだ。■

了解しました!!ゲバラとこすもさんのためにわたしもこの映画を観に行きます!!観たらデイズの感想欄に感想書きますネ

それではまた~♪
くろねこさん、こんにちは~ (masktopia)
2009-01-15 15:35:27
コメントをどうもありがとうございます

>ハリウッド的なマッチョでドラマチックなヒーローとして
>ゲバラを描かなかったのは正解

監督もゲバラを演じたデル・トロさんもリアルなゲバラ像にこだわったそうですが、
そうしてもらえて本当によかったと思います。

>ラテンアメリカの貧しき人々への共感からゲバラが革命を志した

他人の苦しみを我がものにするということはとても難しいことですが
それを難なくやってのけた純粋さと行動力、そして
一度革命を志したら決してぶれない意志の強さは見事というほかないです。
いろいろ不満があっても結局は自己完結してしまうか、
無関心を決め込む日本人とはずいぶん違うなぁと思いました。

観に行かれるというお言葉、うれしいですね。
ジョン・レノンがかつて言ったそうですが、
「世界一カッコイイ男、ゲバラ」にぜひ酔いしれてくださいませ~
こんばんは (hash)
2009-01-25 01:30:12
予想外に淡々とした作りに、困惑もしましたが、ゲバラの言動から伝わってくるものは多かったです。
知識不足のせいで、理解できなかった点も多かったは残念で、続きを観る前に最低限の予習はしておこうかと思います。
hashさん、こんにちは~ (masktopia)
2009-01-28 10:19:45
レスが遅くなってすみません。。。

ほんとうに淡々としていて緩急がなく、隣や前の席では居眠りする人もいるくらいでした。
でも飾り気のないゲバラを描くには、ちょうどいい演出だったのかもしれません。
私も今回の映画をきっかけに初めてゲバラの本など読み始めました。
次回作は今週末ですね。読み終わる前に時間切れになりそうです。

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