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パンズ・ラビリンス◆反転する世界がいざなう幻惑体験

2008-03-23 17:20:30 | <ハ行>
  

  「パンズ・ラビリンス」 (2007年・メキシコ/スペイン/アメリカ)

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 一部の地域で上映中とはいえ昨年10月公開の作品であり、26日にはDVDが発売されるので
 「寸評」扱いにすべきでしょうが、短くまとめるのも残念なので新作映画と同じ扱いにします。
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内容も、監督が誰かも知らずに暇つぶしに入った映画館で、こんなにも濃密な時間を過ごせたのは久しぶりだった。ギレルモ・デル・トロ――あぁ、あのなんともいえない後味を残す哀しい映画「デビルズ・バックボーン」を撮った監督だったのかと、いまさらのように納得。「ブレイド2」「ミミック」など、もともと異色のホラーが持ち味のためか、作品の底にはファンタジー映画らしからぬ、どぎついまでのおぞましさが重石のように沈んでいる。けれどもそれがただの悪趣味に終わっていないのは、「現実」と「幻想」をとらえる透徹したまなざしに貫かれているからだろう。

時代はスペイン内戦終結からまもない1944年。仕立て屋の父を失った少女オフェリア(イバナ・バケロ)は身重の母親と一緒に山奥の屋敷へとやってくる。母カルメン(アリアドナ・ヒル)と再婚したビダル将軍(セルジ・ロペス)はフランコ派の軍人で、レジスタンスの残党狩りを指揮する冷酷な男だった。オフェリアは義父の残忍さに恐れをいだく一方で、母を気遣いながら生まれてくる弟との出会いを楽しみにしていた。ある夜、不思議な妖精の導きで森の迷宮に足を踏み入れたオフェリアは、牧神パンと出会い、自分が地底の国の王女の生まれ変わりだと告げられる・・・・・・。

思春期を迎えた空想好きの少女を取り巻いているのは、目を覆いたくなるような<現実>だ。義父は母親を愛しているのではなく、母が宿している跡継ぎにしか興味がない。レジスタンスの残党に手加減しない義父は、敵とまちがわれた農夫を惨殺し、捕らえた兵士を拷問にかける。屋敷にはオフェリアの理解者である家政婦のメルセデス(マリベル・ベルドゥ)がいるが、彼女はレジスタンスの筋金入りのスパイだった。屋敷の殺伐とした空気の中で、オフェリアはしだいに迷宮に足を向けるようになる。けれどもそこで彼女を待っていたのは、現実にも劣らない過酷な試練だ。ここでは<幻想>が<現実>からの避難所にはならず、少女は<現実>に恐怖を感じたように、<幻想>の中でも恐怖に立ち向かわなければならない。この過酷さは、ファンタジー映画の枠を超えている。

ここで気づくのは、迷宮の幻想が現実と置換可能な同質性を獲得していることだ。あるいは現実はそもそも幻想によって形づくられているといってもいい。軍人という幻想を生きる義父のビダルは、鬼畜そのもののグロテスクな生き様をさらしている。それはあたかもオフェリアが試練で出会う、不気味な姿をした化け物たちに重なり合う。彼が目の前に見ているのは家族ではなく、イデオロギー(ファシズム)という幻想への捧げ物、いわば生贄だ。オフェリアは生まれたばかりの弟を義父から守ろうと迷宮へ逃れるが、そこで牧神がオフェリアに要求する代償もまた、現実以上にきびしいものだった。ここで現実と幻想は反転し、いずれがいずれの投影であるのかさえわからない領域へと物語は進んでいく。この不思議なマジックは、ラストへと続く幻惑体験へ観客をいざなう。

オフェリアははたして地底の国のプリンセスだったのだろうか・・・・・・。
鑑賞後の余韻は思いのほか長く続いた。



満足度:★★★★★★★★☆☆




<作品情報>
   監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ
   製作:アルフォンソ・キュアロン 
   出演:イバナ・バケロ/セルジ・ロペス/マリベル・ベルドゥ
       ダグ・ジョーンズ/アリアドナ・ヒル

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト「パンズ・ラビリンス」
   ■DVD情報「パンズ・ラビリンス DVD-BOX」(3月26日発売)





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4 コメント

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偶然 (アルヤック)
2008-03-26 00:25:49
こんちゃ!
たまたま入った映画館でコレ、
相当いい出会いをしているようですね^^
うらやまし
私は完全にギリアムの「ローズインタイトランド」と内容がごっちゃになってました。
改めてHP見に行って整理できた次第^^
うぅ、どちらも見たい、
しかしーつくづく思うのは、この主人公
アンネ・フランクを彷彿としませんか?
と、考えるととても恣意的
ラストが気になるのです
たまたま (masktopia)
2008-03-27 17:37:54
こんにちは!

そうなんです。
期待していなかった分、得をした気分で^^
そういえば
「ローズ・イン・タイドランド」と似ていますね。
どちらも少女の幻想が核になっていて
現実のほうはすんごく大変なんだけれど
当の本人たちは飄々としているってところが。
ただタイドランドのローズのほうが
さらにたくましい感じがしました。
アンネ・フランク――戦争中の悲劇というところは
たしかになぞらえていますね。戦争が実は夢で
アンネもファンタジーの国のお姫様でした、
なんていう結末だったら・・・!?
あぁ、もう現実を反転させてくれるような強烈な夢は
なかなか見られません。。。
瓶詰め (サテヒデオ)
2008-07-29 19:07:26
「デビルズ・バックボーン」といい本作といい、子供が健やかに成長することの困難な時代を如何に生きるかを描いて、これらを傑作の高みまで押し上げるギレルモ・デル・トロに脱帽です。
個々の幻想を縒り合わせて現実を認識する。世界は個人の中にそれぞれ立ち上がるラビリンスなのでしょうね。どこに繋がるか本人にもわからない。
サテヒデオさん、こんにちは~ (masktopia)
2008-07-30 12:10:20
コメントをどうもありがとうございます♪

「デビルズ・バックボーン」も本作も、ホラー色が際立つなかにも
時代の犠牲になる子どもたちの悲しみが塗りこめられていて
心にずしんと響く独特の世界を堪能することができました。

>世界は個人の中にそれぞれ立ち上がるラビリンス

名言ですね! 最期までわくわくしながら迷宮を旅したいと思います。

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