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ユナイテッド93◆同時多発テロに抵抗した乗客の物語

2006-08-18 17:27:06 | <ヤ行>
            

  「ユナイテッド93」 (2005年・アメリカ)
   監督・脚本:ポール・グリーングラス
  

世界を震撼させた9.11同時多発テロから5年。航空機による大規模テロの衝撃は遺族はもとより、あの日のできごとを知るすべての人の心に、いまだに生々しい傷跡を残している。アメリカ東部時間2001年9月11日の朝8時45分過ぎ、ワールド・トレード・センター北棟に航空機が激突する映像を見たとき、だれもが史上最悪の航空機事故が起きたと思っただろう。しかし、その十数分後、二機目の航空機が南棟に激突した瞬間、世界はこの惨事が同時多発テロであることを知る。

テロリストにハイジャックされた航空機は全部で4機。ボストン発アメリカン航空11便はワールド・トレード・センター北棟、ユナイテッド航空175便は南棟にそれぞれ激突、炎上。ワシントン発アメリカン航空77便は国防総省ペンタゴン本庁舎に墜落。残る一機、ユナイテッド航空93便は、テロリストの目的を果たすことなくペンシルベニア州シャンクスビルに墜落した。一機だけが標的に達しなかったのは、機内の乗客たちが決死の覚悟でテロリストに挑んだことを想像させる。この映画は、ユナイテッド航空93便の乗客の遺族や友人、任務についていた航空管制官や軍関係者の証言をもとにして、緊迫の機内と混乱する航空管制センター、さらに防空指令センターで起きたできごとを、同時進行のドキュメンタリー仕立てで描いている。

93便でハイジャック犯がコックピットを乗っ取って機内を制圧したあと、機内電話や携帯で密かに家族と連絡をとった乗客たちは、これがただのハイジャックではないことを知る。飛行機をテロの道具に使おうとするテロリストへのせめてもの抵抗か、あるいは生還への強い意志のあらわれだったのか、乗客たちは客室係の協力を得て機内の敵と闘うことを決意する。一方、地上の航空管制センターでは、管制官たちが情報の錯綜するなか、異例の非常事態に全力で立ち向かう姿があった。しかし午前10時3分、乗客の抵抗もむなしく93便はシャンクスビルに墜落。乗客・乗員全員が犠牲となった。

ディスカバリー・チャンネルでは今年に入って、このユナイテッド航空93便のフライトをドキュメンタリータッチで再現した「9.11 抵抗のフライト」という2時間番組を放送した。劇場でこの映画を見たとき、さほどの衝撃を受けなかったのは、「抵抗のフライト」を先に見ていたせいかもしれない。自分にとって『ユナイテッド93』は、ディスカバリー・チャンネルの「抵抗のフライト」における機内の再現部分に、航空管制センターや防空指令センターでのできごとを加えただけに感じられ、目新らしさの少ない再現ドラマという印象が濃い。むしろ、乗客一人ひとりの人間性を遺族へのインタビューで掘り下げた「抵抗のフライト」のほうが、ドキュメンタリーとしては深い部分を突いていたのではないかとも思う。

けれども、93便の悲劇をはじめて目にする人にとっては、もちろん意義深い映画だと思う。自爆テロを覚悟したテロリストたちが時折り見せる、気弱さや焦りの表情がことさら胸を打つ。信じるものが違うだけで、人はこれほど酷い行動に駆り立てられてしまうものなのだろうか・・・・・・。当日任務に当たった航空管制官はじめ、実際に事件にかかわった本人が出演しているのも、この映画の現実感・緊迫感をいっそう高めている。

この秋には、やはり9.11を描いたオリバー・ストーン監督の『ワールド・トレード・センター』が公開される。同時多発テロから5年目。先日はロンドンで大規模テロの未遂事件が起きた。テロの恐怖は依然として現実のものであることを、心に留めておきたい。




満足度:★★★★★★☆☆☆☆




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