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チェ 39歳 別れの手紙◆山岳に潰えた南米革命の夢

2009-02-06 22:51:30 | <タ行>
   画像:「The Bolivian Diary: The Authorised Edition 」


  「チェ 39歳 別れの手紙」 (2008年・フランス/スペイン)
   CHE: PART TWO/GUERRILLA
1月17日公開の「チェ 28歳の革命」に続き、チェ・ゲバラの人生の終幕を描いたソダーバーグ作品の後編。キューバ革命勝利後、革命政権の要職に就き、カストロに次いで党指導部になくてはならない存在となったゲバラは、やがて党の中枢を離れ、キューバ国民の前から忽然と姿を消す。1965年10月、新生キューバ共産党の発足式の会場で、カストロはゲバラの消息を求める国民の声にこたえて、ゲバラが彼に宛てた手紙を読み上げる。そこにはキューバへの熱い思いと共に、革命に命を捧げるゲバラの固い決意が表明されていた。冒頭、式典の模様を伝えるテレビ中継から、カストロが読み上げるゲバラの言葉が流れる――「私はキューバ革命で、自分に課せられた義務は果たしたと思う。だから君に別れを言おう。同志と君の人民にも、いまや私のものでもある人民に。・・・・・・世界の諸国民が私のささやかな助力を求めている。キューバの指導者である君にはできないが、私にはそれができる。・・・・・・もし私が異国の空の下で死を迎えることになっても、私の最後の思いはキューバ人民に、とりわけ君に向けられるだろう」

ゲバラがキューバに別れを告げた背景には、1965年にアルジェリアで開かれたアジア・アフリカ会議の演説で、ゲバラがソ連を「米帝国主義の共犯者」として批判の矛先を向けたことが、ソ連の支援なしでは体制を維持できなかった革命政権にとって、きわめて不都合だったという事情がある。ドキュメンタリー「チェ・ゲバラ 伝説になった英雄」では、カストロが外遊から帰国したゲバラと40時間にわたって密談した際、ソ連への露骨な批判をやめるよう要請したのではないかとナレーションは語っている。事実、ソ連はカストロに対して、ゲバラを政治の中枢から外すよう圧力をかけていたようだ。妥協を許さないゲバラは、キューバではしだいに身動きが取れなくなり、必然的にその徹底した革命精神の発露を、海外でのゲリラ闘争へ転換していかざるを得なくなった。ゲバラには、故国アルゼンチンのある南米大陸はひとつの世界だという思いがあり、いずれはラテンアメリカ全体に革命を波及させようという壮大な計画もあっただろう。ゲバラのボリビア行きは、おそらく誰にも止められない流れだった。

本作のもとになった「ゲバラ日記」を読むと、ゲバラが周囲を五カ国で囲まれたボリビアに、南米大陸解放の橋頭堡を築こうとしていたのがわかる。しかしボリビアの諸事情は、ゲリラ部隊の活動に必ずしも有利とはいえなかった。支援を当てにしていたボリビア共産党のマリオ・モンへは、指導権に固執して約束を反故にする。動き始めた鉱山労働者の運動は、当局の弾圧で立ち消えとなる。そして最も期待していた農村部での革命思想の浸透はいっこうに進まず、地元民をゲリラ部隊に加えることもままならなかった。また活動の拠点としたのが峻険な山岳地方であったために、都市部や別部隊との連絡もむずかしく、食糧や医薬品、弾薬の補充も容易ではなかった。さらにゲバラには、持病の喘息が追い討ちをかける。やがてゲリラ軍はじわじわと苦境に追い込まれ、政府軍との交戦のたびに一人、また一人と仲間を失っていく。ゲバラの日記は、現地入りして部隊を発足させた1966年11月7日から、イゲラ村で落命する二日前の67年10月7日まで、一日も欠かさずにつづられている。映画はこの日記の中からいくつかのエピソードを採り上げて、前編と同じく彼の最後の日々を淡々と記録映画のように映し出す。

スクリーンには、喘息にさいなまれながら苦しい行軍を続けるゲバラの姿や、隊員の間で起きる諍いや命令の不履行、地元民の裏切りなど、最期の戦いの序曲とも取れる苦戦するゲリラ部隊の様子が延々とつづられる。ところどころにアメリカの支援を受けるバリエントス大統領の動きを入れることで、画面の単調さに緊迫感を与え、政府軍に追い詰められていくゲリラ軍の運命を際立たせる。全体として見ると「ゲバラ日記」のダイジェスト版といった印象だが、133分という長さを考えると、それも仕方がないのかもしれない。ただ原作でひときわ印象深い、リオグランデ川はじめボリビアの山岳地方を流れる河川との戦いや、食糧難でやむなく軍馬を屠る話、戦死した同志を悼むゲバラの痛恨の思いなど割愛されたエピソードも多く、個人的には残念に感じた。ほとんど起伏の感じられない展開は前編と同じで、作品全体が志半ばで斃れた革命家ゲバラに粛々と捧げられる鎮魂歌のようだった。

前編のレビューで書いたことと少し矛盾するかもしれないが、私が今回、原作の「ゲバラ日記」から受けたゲバラの印象は、こういう強弱のない演出の先に結ばれた本作のゲバラ像とはやや趣の異なるものだった。映像になったゲバラはとてもか細く痛々しく、また孤独に映ったが、日記の文面から私が感じたのは、少なくとも強い精神力と革命への揺るぎない信念、時として横溢するユーモアの同居する、陰影豊かな人間像だった。そういう意味では、デル・トロのゲバラ像には、死をも凌駕する生命力とでもいうべき、ある種の躍動感が欠けているのかもしれない。リアルに徹しようとしたソダーバーグの抑制の効いた演出が、かえって仇となったのだろうか。いずれにしても今回の映画をきっかけに、これまで写真でしか知らなかったゲバラの生涯について、わずかながらでも知ることができたのは幸いだったと心から思っている。その意味では、ゲバラの半生の映像化を試みたソダーバーグ監督と、主演も務めたベニチオ・デル・トロに感謝したい。


満足度:★★★★★★★☆☆☆


<作品情報>
   監督:スティーブン・ソダーバーグ
   製作:ローラ・ビックフォード/ベニチオ・デル・トロ
   脚本:ピーター・バックマン
   撮影:ピーター・アンドリュース
   出演:ベニチオ・デル・トロ/カルロス・バルデム/デミアン・ビチル
       ヨアキム・デ・アルメイダ/エルビラ・ミンゲス/フランカ・ポテンテ
       ルー・ダイアモンド・フィリップス/マット・デイモン(友情出演)

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト 「チェ 39歳 別れの手紙」
   ■関連商品 「The Bolivian Diary: The Authorised Edition」(ペーパーバック)
           「新訳 ゲバラ日記」 (チェ・ゲバラ著/中公文庫)
           「チェ・ゲバラ 伝説になった英雄」(レンタルDVD)

          

   

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おはようです。 (タダシ)
2009-02-09 07:55:58
チエは2本とも未見です。今週行きます。僕は「禅Zen」見ました。道元の半生を高橋判明が監督した映画。中村勘三郎が好演してました。「あるがまま、あるがまま ただ座るのみ」が道元の悟りなんですね。DVDで「ストップロス」見ました。イラク戦争の話で退役ができなくされて脱走する兵士の話。ストップロスと言う大統領命令で兵役延長できるなんて知らなかった。監督は「ボーイズドントクライ」の女性監督ですって。デパルマの「リダクテッド」的もある地味な映画でしたけど出演者は結構見た顔でした。
タダシさん、こんにちは~ (masktopia)
2009-02-11 15:22:29
コメントありがとうございます。
「禅Zen」も気になってはいたのですが、なかなか時間がとれなくてそのままに・・・
「リダクテッド」もそうですが、見逃している作品が多いのがとても残念です;
「ストップ・ロス」はチェックしていませんでしたが、
切り口からして、とても興味をひかれるものを感じます。
これもレンタルリストに入れておきますね。

いつも興味深い作品のご紹介をありがとうございます♪
後日お知らせいたしますが、しばらく更新は休みになります。
サクラの咲くころ戻ってこれればいいのですが・・・
それまで、お元気でお過ごしくださいね!
それは寂しい (タダシ)
2009-02-13 07:20:11
必ずまたお会いしましょう。お帰りを楽しみに待ってます。再会。see you.

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