「叫」 (2007年・日本)
監督・脚本: 黒沢清
プロデューサー: 一瀬隆重
出演: 役所広司/小西真奈美/葉月里緒奈/伊原剛志
ミステリーとホラーの要素を不可分に繋げながら、忘れ去られることの悲しさ、罪深さを独特の映像的言語で綴った黒沢監督の最新作。舞台は東京湾岸の埋立て地帯。連鎖する不可解な殺人事件を追う刑事・吉岡(役所広司)は、赤い服の女の幽霊(葉月里緒奈)にさいなまれながら事件の核心へ迫るが、なぜか現場には自分の関与を思わせる痕跡が発見される。やがて作業船の男に誘われるまま船上から湾岸を眺めた吉岡の前に、思いもよらない過去が立ち現われる・・・・・・。
東京湾岸の埋立て地には、開発から取り残された廃れた風景が散在する。過去を刻みながら朽ち果てていく都市の風景は、存在を忘れられ、消し去られた女の幽霊の悲しみに重なっていく。頻発する地震によって出現する水溜りは、この地がかつて海であったことを訴えるように海水を湛えている。その海水で被害者を溺死させる犯人たちは、みな一様に「すべてをナシにしたい」という言葉をもらす。人生の中でじゃまになる存在を消し去りたいという願望は、過去にこの地で死んだ女の妄念と結びつき、殺意へと変わる。赤い服の女がなぜ岸辺の廃屋に留まり続けたのか、なぜ激しい怨念を抱いたかは判然としないまま、過去から立ち上がる呪いと殺意の伝播だけが、ひと気ない埋立て地のさびれた風景をいっそう禍々しいものに変えていく。
忘れられた風景の化身
経済的発展に貢献しない場所は、いつしか人々の記憶から消し去られ、荒れるがままに放置されるという大都市の持つ病理の一端が、この映画のもう一つの主題のようにも思える。赤い服の幽霊は、彼女の墓所となった廃屋の、そして人々に忘れられた埋立て地の、悲しい化身ともいえるだろう。これまでの黒沢作品に描かれた得体の知れない恐怖にくらべると、葉月里緒奈演じる女の幽霊はひときわ強烈なインパクトを与える。底深い暗色の空間に浮かび上がる赤い服だけでも十分怖いのに、瞬きしない目でカメラに向かってどこまでも迫ってくる演出の裏には、黒沢監督が描きたかった「幽霊」の姿がある。それは直視したくない過去を吉岡に突きつけ、思い出せよと迫る「力」であり、同時に私たちが葬り去った記憶への罪悪感でもあるのだろう。
黒沢作品には重要なモチーフである廃墟が、今回は埋立て地の液状化現象とともに、葬られた湾岸地区の過去を象徴するメタファーとして登場する。埋立てが始まる以前から岸辺に立っていた脳病院と、そこで行われた陰惨な仕置きを呼び起こすように、かつて海だった埋立て地から海水がにじみ出る。そして殺人者は海水を凶器にわが子を、あるいは恋人を手にかける。この衝撃的な殺意こそ、実は幽霊よりも私の背筋を寒くさせた。
映画の終盤には、衝撃的な事実の暴露がある。その後に来るラストシーンはホラーとしての「おまけ」なのかもしれないが、作品の雰囲気を壊す「蛇足」に思えた。
満足度:
★★★★★★★☆☆☆
<参考URL>
■映画公式サイト
「叫」
■シネマトゥデイ
黒沢監督ほかインタビュー
>黒沢作品には重要なモチーフである廃墟が、今回は埋立て地の液状化現象とともに、葬られた湾岸地区の過去を象徴するメタファーとして登場する。埋立てが始まる以前から岸辺に立っていた脳病院と、そこで行われた陰惨な仕置きを呼び起こすように、かつて海だった埋立て地から海水がにじみ出る。そして殺人者は海水を凶器にわが子を、あるいは恋人を手にかける。この衝撃的な殺意こそ、実は幽霊よりも私の背筋を寒くさせた。
この表現に、なるほどこれだ!とうなずきました。
読みやすくすばらしい文章ですね。
また時々お邪魔させてください。
コメントありがとうございます。
同じ映画でもどこに注目するかで、レビューの着眼点が
人によって少しずつ違いますが、そこがとても興味深いと思います。
この映画のタイトルになっている叫び声に関する考察が
すっかり抜け落ちていましたが、hyoutan2005さんの
レビューを拝見して、なるほどと思いました。
こちらからも、またおじゃまさせていただきますね。
どうぞよろしくお願いします。
私自身は皆さんのようにうまくコメントを書けないので、こんな形式にさせてもらっています。
毎回、私もいろんな方の見方の違いを楽しんでいます。
これからも参考にさせてもらうと思いますが、よろしくお願いします。
こんなやり方もあるんだ!と目から鱗でした。
同じ映画でもさまざまなレビューがあるものですね〜
これからも参考にさせてもらいます。
こちらこそ、どうぞよろしく!