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レボリューショナリーロード/燃え尽きるまで◆郊外型夫婦の破滅の物語

2009-01-29 16:58:51 | <ラ行>
   画像:「レボリューショナリー・ロード」 (ヴィレッジブックス刊)


  「レボリューショナリーロード/燃え尽きるまで」 (2008年・アメリカ/イギリス)
   REVOLUTIONARY ROAD
「タイタニック」の主演コンビによるラブロマンスかと思いきや、これがみごとに予想を裏切る秀作だった。第二次大戦後から1950年代にかけてアメリカで急速に拡大した“郊外”を舞台に、家庭という容れものの中でもがく若い夫婦の姿には、国や時代を超えた結婚生活の普遍のテーマが投影されていて、ほろ苦い薬を飲まされたような気分になった。原作はリチャード・イェーツが1961年に発表した「Revolutionary Road」。人生への希望に満ちた男女が出会い、結ばれ、やがて郊外に住宅を手に入れて理想の家庭を築こうと夢見る。二人のあいだには子どもが誕生し、夫はニューヨークの事務機器会社に安定した職を得る。かつて女優を目指していた妻は、主婦業の合間に地元のアマチュア劇団の公演でヒロイン役を務めたが、舞台はさんざんな結果に終わってしまう。彼女はそのいらだちを夫にぶつけるが、そこから二人のあいだに深い亀裂が生じ始める・・・・・・。

タイトルの「レボリューショナリー・ロード」とは、主人公のフランク・ウィーラー(レオナルド・ディカプリオ)と妻エイプリル(ケイト・ウィンスレット)が住む新興住宅街の名前だ。美しい街並み、手入れされた前庭、若い夫婦にぴったりの小ぎれいな住宅――。平穏で安全な郊外の暮らしは、二人に理想の人生を保障してくれるはずだった。しかし彼らの心にはよき妻、よき夫として家庭を維持するためにこなさねばならない退屈な日常が、重石のようにのしかかる。家庭生活は二人にとって、生の実感を奪い取り、夢の実現を阻む檻として意識されるようになり、小さな諍いから始まった綻びは、しだいに奈落のような深淵を露呈しはじめる。フランクは日々の空虚感を埋めるように職場の部下と浮気をするが、エイプリルの打開策はもっとラディカルだった。夫を労働の義務から解放し、いま一度生きる希望を探してもらうという口実のもとに、一家のパリへの移住計画を持ち出すのだ。それは退屈な日常を“ケ”から“ハレ”へと転換することで、彼女自身の虚しさを解消しようという悪あがきに見える。

戸惑いながらもいったんはパリ行きを決めたフランクは、社内での昇進と妻の思わぬ妊娠を口実に決意を翻す。このフランクの行動によってエイプリルの精神がじわじわと追い詰められていくくだりは実にスリリングで、ウィンスレットの熱演ぶりから目が離せない。極めつきは終盤の喧嘩のシーンと、翌朝フランクを笑顔で送り出すエイプリルの、愛と憎しみ、諦めと悲哀が複雑に交差するその面ざしだ。二人に起きた悲劇は、限られた人種や階層に属する人々が、いわば居住するためだけに集まる、郊外という場の空々しさに根ざしているのではないだろうか。ウィーラー夫妻を取り巻く隣人たちも、一種の“郊外病質”とでもいうべき不安感を抱えていて、彼らのそうした一面をきめ細かに描写しているのはとても興味深かった。隣人のなかでただ一人まともな意見を吐いていたのが、不動産屋ヘレン(キャシー・ベイツ)の息子で、精神病を病んでいるジョン(マイケル・シャノン)。パリ行きを決めて高揚するウィーラー夫婦と散歩中に会話を交わすシーンには、ジョンの精神の明晰ぶりが現われていて、なんとも皮肉が効いていた。

登場人物たちが一様にいだく空虚感は、アメリカ映画の格好のテーマとして、これまでさまざまに形を変えて語り継がれてきた。同じサム・メンデス監督の「アメリカン・ビューティ」や、郊外を舞台にした多くのホラーやSF映画(「ボディ・スナッチャー」、「ポルターガイスト」、「ハロウィン」、「メイフィールドの怪人たち」、「IT」など)も、郊外が人々に与える隣人への不安や空虚感を作品化したものだろう。家庭生活の中で虚しさにとらわれた二人が、郊外という環境の中でますます孤立化し、歯車を狂わせていく描写は痛々しく、すさまじい。それは繁栄に向かってアメリカ社会が突き進んでいた50年代の陰画であり、同時に家庭という危うい容器の中で、人生の冒険と暮らしの安定を天秤にかけながら日々を生きている世の夫婦への、ささやかな警鐘でもあるだろう。既婚者には特にお勧めしたい一作。


満足度:★★★★★★★★★☆


<作品情報>
   監督:サム・メンデス
   製作:ボビー・コーエン/ジョン・N・ハート/サム・メンデス/スコット・ルーディン
   原作:リチャード・イェーツ(「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」)
   脚本:ジャスティン・ヘイス
   撮影:ロジャー・ディーキンス
   出演:レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ウィンスレット/キャシー・ベイツ
       マイケル・シャノン/キャスリン・ハーン/デビッド・ハーバー

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト  「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」
   ■関連商品 「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」(リチャード・イェーツ著/ヴィレッジブックス刊)

   

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6 コメント

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どうもこすもさんこんばんは⌒ー⌒ノ (黒猫館)
2009-01-31 03:58:49
どうもこすもさんこんばんは⌒ー⌒ノ

「レボリューショナリーロード/燃え尽きるまで」レヴュー非常に興味深く読ませていただきました。

■人生への希望に満ちた男女が出会い、結ばれ、やがて郊外に住宅を手に入れて理想の家庭を築こうと夢見る。■

環境が理想的であればあるほど「退屈」という魔物が襲いかかってくるのかも知れないですね。わたしも注意したいです。全く「退屈」ほどタチの悪いものはそう簡単にないです。

■二人に起きた悲劇は、限られた人種や階層に属する人々が、いわば居住するためだけに集まる、郊外という場の空々しさに根ざしているのではないだろうか。■

幸いにわたしの家はゴチャゴチャした住宅街にある⌒ー⌒;ので安心ですが、「秋田市郊外」に行って妙に整然とした町並みを見ているとふッ・・・と妙な不安感に襲われることがあります。
「郊外」が醸しだす不安とはあまりに整理された「人工」に対する人間という「自然」の爆発・反乱であるように思えてしまいます。

■郊外を舞台にした多くのホラーやSF映画(「ボディ・スナッチャー」、「ポルターガイスト」、「ハロウィン」、「メイフィールドの怪人たち」、「IT」など)も、郊外が人々に与える隣人への不安や空虚感を作品化したものだろう■

これは非常に興味深いテーマです。
「郊外の不安」、これは新興住宅街がどんどん出来ている現代人に特有の病理かも知れないです。

今回のレヴューはこすもさんの「郊外」という非常に卓越した着眼点ですばらしいものになっていると思います。⌒ー⌒

それではまた~♪
TB&コメントありがとうございました♪ (テクテク)
2009-02-02 00:10:39
こんばんは
この映画描かれていた夫婦の姿は
本当に痛々しいモノでしたよね…

アメリカでは感じられない幸せを
フランスに求めるエイプリルの姿は
まるで「青い鳥症候群」で、
彼女が理想の生活を手にする事は
何処へ行こうとも永遠になかったような気がします

一緒に理想の生活を手に入れようとしていたフランクは、
自分の気持ちに折り合いを付けて
現実を受け入れようとしたのに…

女性である私はエイプリルに対して
贔屓目で見てあげたい気持ちが大きいはずなのに、
同情する気持ちにはなれず、
むしろ残された夫のフランクに同情してしまいました

後味は良くない作品でしたが、
一生忘れられそうにない作品です
くろねこさん、こんばんは~ (masktopia)
2009-02-02 23:52:43
コメントをありがとうございます

安定した生活を得ると、とたんにすべてが退屈に感じられてしまい
毎日が繰り返しのように思えて、別の刺激を求めたくなる――
作品中の二人はいってみれば倦怠期の夫婦なのでしょうが、
折り合いを付けることができなかったところが悲劇的でした。
郊外の居住者層は仕事の種類や収入面でも共通項が多いために
隣人と足並みをそろえなくてはという潜在的なプレッシャーがあるのではないでしょうか
そうなると、この映画のヒロインのようなタイプは“爆発”してしまうのかもしれません。

それとアメリカのホラー作品にはホント、郊外を舞台にしたものが多いと思います。
平穏で安全が保証されたコミュニティの裏の顔に対する不安感が
ホラーの格好のテーマになっているのではないでしょうか・・・
テクテクさん、こんばんは~ (masktopia)
2009-02-03 00:16:54
コメントをありがとうございます

夫婦のあいだに多少の諍いがあるのは珍しくもないでしょうが、
ここまで行ってしまうと、もう手が付けられませんよね(苦笑)
フランクもかなりえげつない言葉をぶつけていましたが、
やはりエイプリルの心を支配した虚無感に
正面から太刀打ちできる言葉はもうなかったでしょう
どこへ行っても、何をしても、エイプリルの心が満たされることは
なかっただろうと私も思います。まさに「青い鳥症候群」ですね

破滅型の妻に振り回されて、フランクもたしかにかわいそうでした・・・
Unknown (zooey)
2009-02-05 22:20:05
稚拙で自己本位なエイプリルにはおよそ共感できませんでしたが、フランクも結局”似た者夫婦”という気がしました。
しかし、夫は社会に出て働いている分だけ妻よりはマシで、自分達の「夢の計画」を冷静な目で見ることができる。
そうして、夫が冷静になればなるほど妻は孤立化し、狂気を帯びていきましたね…
郊外の中産階級の破滅を描いた作品としては、「リトル・チルドレン」にも共通するものがあると思いました。
zooeyさん、こんばんは~ (masktopia)
2009-02-06 23:25:15
たしかにウィーラー夫妻は地に足のついたカップルとは言えませんでしたね。
ただ家庭という場に長く身を置くと、どうにも窮屈に感じられ
現実味のない夢にあこがれをいだくことは少なからずあるのではないかと思いました。
そういう意味ではエイプリルの荒唐無稽さやフランクの狡さには
もちろん共感はできませんが、苦笑いをしてしまったしだい。
ラストは悲劇でしたが、わたしにはほんの少し爽快な感じもいたしました(不健全ですね)

「リトル・チルドレン」、ぜひチェックさせていただきます。

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