Fish On The Boat

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『雪男は向こうからやって来た』

2017-08-21 15:15:10 | 読書。
読書。
『雪男は向こうからやって来た』 角幡唯介
を読んだ。

冒険型ノンフィクションライターである著者の雪男探索記です。

雪男、と聴くと、オカルトな分野のUMA(未確認生物)
を思い起こすひとは多と思います。
巨漢で白い毛で黒い顔で牙が生えて、
ウワーっと両手を振り上げて
こっちに襲いかからんとするイメージはないですか。

ヒマラヤなど多くの山を制覇したなだたる登山家たちが、
実は雪男を見ていたり遭遇したり、
足跡を発見していたりしていたことが、
本書で明らかになります。

体験談が、その登山家の格を落としたり、
登山話を聞く者、読む者を興ざめに追いこんだりしないためのように、
ほんのちょっとだけだとか、そっとだとか語られたことがあるような雪男話が、
彼ら登山家の、知る人ぞ知るサイドストーリーとしてありました。

著者は青天の霹靂といった体で、
雪男捜索隊の隊員になるよう頼まれ、
雪男に魅入られた、個性豊かな山男たちに随行して、
ヒマラヤのコーナボン谷を訪れる。
はたして、雪男の痕跡、そして雪男そのものは見つかるのか。

解説の三浦しをんさんが述べられているように、
なにかに人生を賭けるようになることは、
それが雪男だったにせよ、幸せなことかもしれないです。
著者自身は、なにかに夢中になることと
雪男に夢中になることをいっしょくたにせずに、
「雪男に捉われてしまうなんて……」
という反応でもって本書を書いていたりする。
しかし、ぼくも三浦しをんさんといっしょで、
それでいいんだ、と思うほうです。
価値観や考え方、もっといえば正義だっていろいろあって、
そのどれが真理かなんて、なかなか言えないと思うのです。

最後の日本兵、小野田寛郎さんを見つけた鈴木紀夫さんという冒険家も
雪男捜索に命を賭けたことが書かれています。
彼がまた、ヒマラヤ付近の住民たちの持つ
雪男像を作り上げている疑いがあることも、
著者が気づいていました。
そして、本書では、彼が人生を雪男に賭したのはなぜなのか、
という問いから彼の足取りを追いかけ、
雪男に魅入られるとはどういうことなのか、を考える上での
キーパーソンになっています。

また、ここがグッときましたが、
鈴木紀夫さんというひとは、その人懐こい笑顔とは裏腹に、
他人からの無理解・無関心を飲み込むことでの孤独を
抱えていたのではないかという鋭い仮説がありました。
著者は、そのあたりを哀れに思うようなニュアンスで綴っていましたが、
それはまだ若い時期に書いたこともあると思います、
ぼくには、人間ってそういうものだと思えるふしがあったりする。

閑話休題。
序盤から文章がうまくて、重厚さがありますが、
なかなかに読ませるノンフィクションです。
「え、雪男?」と笑っちゃうひとでも、
読んでいくうちに、その真摯で誠実なスタンスに、
腰を落ち着けて読みこむことになるのではないでしょうか。

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