白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(234)ローマで起ったおかしなな出来事 江戸版「コメディトゥナイト!」

2017-04-20 08:10:37 | 観劇
江戸版 「ローマで起ったおかしな出来事」コメディトゥナイト!

 一番の見どころは愛之助がミュージカル初挑戦!ということしかない 
何でも器用にやる彼にとってそんなに苦労の跡が見えないくらい良くやっている
唯一の欠点は初演の主演を演ったゼロ・アステロがびっくりするくらい良く動くし 若くて二枚目だし とても史上最低の中年の奴隷には見えないところだろうか
日本にはない奴隷制度をどのように扱うのかも焦点の一つだ
 
 ユダヤ人の格言「市場に行く途中でもおかしなことは起こる」(A funnything happennd on
the way to the market)をひっかけたタイトル「フォーラムに行く途中で起ったおかしな出来事」(A tunnything happennd on the way to the Forum)いう原題を持つこの作品は日本題名
「ローマで起ったおかしな出来事」でも判るように古代ローマを舞台にしたミュージカルだ それを日本のしかも江戸時代に設定を変えて描こうなんて土台無理な相談だ まず音楽が合わない 唯一ピッタリなのは中年男たちが女中について歌うちょっとスケベ心をくすぐる歌くらいであろうか このスケベ心は洋の東西を問わないということだろうか
 高橋ジョージ ダイヤモンド・ユカイ ルー大柴 愛之助の中年4人が歌うこのナンバーはけだし見ものである ただし愛之助だけが中年に見えないのが今回の欠点である

ソンドハイムは両親が離婚した10歳の頃同級生の友達の父親であるオスカー・ハマースタイン2世(ショウボート・オクラホマ・南太平洋・王様と私・回転木馬・サウンドオブミュージックなどの脚本家)を知ることになる ハマースタインは離婚した「父親」代わりに彼を「可愛がり」ミュージカルの帝王学を授けた 
(私見だがアメリカのブロードウェイミュージカルはこうして男から男へ継承されていったことが不幸の始まりであった 日本でも亜門・青井陽治などが未だにこの世界で幅をきかしている)「南太平洋」の時「父親」の紹介で演出家ハロルド・プリンス(キャバレー。ウエストサイドストーリー・屋根の上のヴァイオリン弾き・エビータ・オペラ座の怪人などの演出)を知り後にコンビで数々の作品を生む 作詞家として参加した「ウエストサイドストーリー」や「ジプシー」のヒットの後1960年「父」ハマースタインが死んだ
その後1962年作詞・作曲として手掛けたのがこの「ローマで起った奇妙な出来事」であった その年のトニー賞を総なめした(作品賞 プロデューサー賞 脚本賞 主演男優賞 助演男優賞 演出家賞)にも拘わらず作詞・作曲のソドムハイムは賞を逃した
初演は2年半のロングランとなり5年後主役のゼロ・モステルを起用して映画化 
徳井優が演った老人役に名優バスター・キートンを使い彼の遺作となった
ソルトハイムとロビンスとのコンビはこの後「カンパニー」「太平洋序曲」「インツーザウッド」「スイニー・トッド」「リトル・ナイト・ミュージック」と続いた


音楽的にも「江戸」から遥かに遠く 後はビジュアルから美術で何とか江戸らしさを期待したが(美術・石原敬)資生堂の「花椿」のCMで有名な彼(2011年伊藤熹朔賞新人賞受賞)も力及ばず「日本の江戸」を表現出来なかった 日本建築はやはり左右対称でなくっちゃ奇妙に映る この曲がりくねった三軒の家が移動するのを見て 昔「屋根の上のヴァイオリン弾き」の演出部の時「テヴィエハウス」を音楽に合わせて動かしたことを思い出した

奴隷が「丁稚」に 売春宿が「女郎屋」に 指輪が「お守り」に変わっても 
奴隷制度がない日本ではいくら「FREE]を歌っても現実味が全くない


色々不平不満がタップリあるが これを力ずくでねじ伏せ強引に良質なエンターテイメントに仕立て上げた愛之助の力業がこのミュージカルの唯一の見どころである
客も恥ずかしくない程度には入れている ただし盛り上がりには欠けるが・・・



愛之助はこの後休む間もなく来月 明治座で歌舞伎公演が待っている よくやるよ
  

 (4月17日 松竹座にて観劇)

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