白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(206)シネマ歌舞伎「女殺油地獄」

2017-02-15 08:19:40 | 映画
シネマ歌舞伎 「女殺油地獄」



 近松の世話浄瑠璃の一つで歌舞伎では1909年二世實川延若が初演した作品
実際起こった事件を元にしているといわれるが確証はない
近松の作品の中では評判が悪く上演が途絶えていたが 明治になって坪内逍遥の「近松研究会」で取り上げられ明治42年歌舞伎で再演され絶賛された 文楽での復活は更に年を経た昭和27年であった この作品が書かれた享保年間というのは犯罪が最も少ない時代で江戸小伝馬町の牢には誰もいなかったと言われる こんな時代には殺人が最大の見せ場となる芝居など観ようとする人間はいないような気がする 明治になって犯罪もそれなりに増えて,時代が作品に追いついた,「悪」がはびこむ時代がやってきたのである

仁左衛門が孝夫時代の1964年与兵衛を演じ出世作となった作品で今回は孝太郎と孫千之助との親子三代共演で話題を呼んだ旧歌舞伎座さよなら公演の一環である(平成21年6月)なお千之助はお吉(孝太郎)の娘お光役

あらすじ
大阪天満の油屋 河内屋徳兵衛(歌六)は番頭上がりで何事にも遠慮がちであった 
それを良いことに義理の息子与兵衛(仁左衛門)は増長し 店の有り金を持ち出しては新町の芸者小菊(秀太郎)に入れあげる放蕩ものであった 母親のお沢(秀太郎二役)と徳兵衛は懲らしめのために勘当したものの 小遣い銭に事欠いては・・・との心配から同じ町内の油屋豊島屋(梅玉)の女房お吉の手から密かに銭を与えていた それでも遊ぶ金欲しさに金貸しから義父の偽判を用いて一貫匁の金を借りる 元より返す当てなど持っていない与兵衛は日ごとに責め立てられお吉に急場を逃れるために無心するが断られる 二進も三進も行かなくなった与兵衛はお吉を油の中で惨殺 店の掛け金を奪う

元々はもう一場あり
「豊島屋通夜の場」では何食わぬ顔でお吉の通夜に顔を出した与兵衛がフトしたことでその犯行をバレて捕らえられ 刑場の露と消える


第一場は菜の花の咲き乱れた徳庵寺(とっくァんじ)堤

 
野崎詣りは 屋形船でまいろ
どこを向いても 菜の花ざかり
粋な日傘にゃ 蝶々もとまる
呼んで見ようか 土手の人

この歌やお染久松や上方落語で有名な野崎詣りの途中徳安寺堤から始まる 落語でも見せ場の土手の人と船の人との掛け合いがここでも見ることができる

与兵衛は野崎詣りに誘って断わられた馴染みの小菊を巡って田舎客と喧嘩騒ぎ 来合わせた叔父で武士の森右衛門に手打ちになりかかる 危うく難を逃れた与兵衛は通りかかった町内の同業豊島屋の女房お吉に 喧嘩で汚れた着物を濯いでもらう この場は客席からは見えないが子供のお光が覗いており その様子を父親に報告するのがイヤらしく二人の関係を遠回しに暗示する

二場「河内屋内」与兵衛は義父徳兵衛が番頭上がりで遠慮がちなのをいいことに放蕩三昧
妹おかち(梅枝)に仮病を使わせ自分が家督相続が出来るように策を巡らせるが失敗 義父ばかりかとうとう母親まで手をあげるので とうとう母に勘当され家を追い出される

三場「豊島屋油店」
 親の印判を不正に利用して作った借金銀二百匁の返済に窮した与兵衛は日頃自分に好意的な町内の豊島屋の女房お吉に借金を頼みに行くが そこで両親が与兵衛が来たなら渡して欲しいと銅銭800文やちまきを預けに来ているのを目撃 親のありがたみを知る与兵衛だったが 借金は親の預けた金では賄起きれない額だったのである 自暴自棄になりながら与兵衛は「不義になって金を貸して下され」と関係を迫るが拒否される 心を鬼にして金を貸さないお吉に 与兵衛は遂に刃を向ける
油まみれで逃げ回るお吉はついに刃を受けて息絶える

まるでバラェテイのローションを使った相撲よろしく 油まみれで滑って転んでの立ち回り 逃げ惑うお吉を与兵衛が殺害する殺し場がこの芝居の一番の見どころだ
人形だといくらでもアクロバッティックな型が出来るが人間がやる歌舞伎では限度がある
本当に滑って頭を打ち付けることがママあるらしい なお油の代役は石鹸水らしい

それにしても孝夫いや仁左衛門は若い この時点で65歳いいお祖父ちゃんの年齢だが23歳の放蕩息子に見える

これを機会に文楽でも是非見て見たい作品となった

            (2017年 2月13日 南海パークスシネマにて鑑賞)

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