とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

劇評『トロイ戦争は起こらない』(11月6日新国立劇場)

2017-10-11 17:07:47 | 劇評
作:ジャン・ジロドゥ  翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也
出演:鈴木亮平/一路真輝/鈴木杏/谷田歩
江口のりこ/川久保拓司/粟野史浩/福山康平/野口俊丞/チョウヨンホ/金子由之
薄平広樹/西原康彰/原一登/坂川慶成
岡崎さつき/西岡未央/山下カオリ/鈴木麻美/角田萌果
花王おさむ/大鷹明良/三田和代

 新国立劇場の『トロイ戦争は起こらない』は、運命と戦う人間の姿を描く、重厚で深い作品である。戦争と正面から向き合あい、なぜ人間が戦争に向かうのか、そしてそれをどうやめさせるのかという大きな問題を我々見るものに突き付ける。見終わった後に大きな塊が心に残されてしまったような感覚に襲われた。

 詳しいあらすじは省略するが、クライマックスはトロイの王子エクトールとギリシャの知将オデュッセウスの議論である。エクトールは戦争を回避しようとオデュッセウスを説得しようとするが、オデュッセウスは聞き入れず、〈運命〉によって戦わなければならないと言う。次第にエクトールはいらだち、ギリシャを非難し、「賽は投げられた」と戦争に突き進む言葉を放つ。その瞬間、オデュッセウスが戦争の回避を告げる。この大きな転換がこの演劇の見事さである。
 
 エクトールの言葉に偽善が混じっていると感じているうちは、対等にはなれないと感じ、戦争に突き進むしかないと、オデュッセウスは感じていたのであろう。しかしエクトールの本心が垣間見えた習慣にオデュッセウスは対等になったと感じ、理解しあえると感じたのである。人間は心の弱さを認め合うことができたときに始めてつながることができるのだ。

 偽善は紙に書いた言葉であり、「人間の言葉」を生みださない。偽善の殻が破られたとき人間は人間になり、初めて人間としての知恵を働かせることになる。人間の知恵を働かせて「運命に逆らって進」むことができるようになるのである。

 戦争は人間の社会で終わることがない。人間にとっては運命である。しかし戦争をなくすことは人間にとっては必ず成し遂げなければいけないものである。つまり運命と戦わないかぎり戦争はなくならないのだ。この作品は戦争という運命と戦う人間の姿が描かれており、「今」を感じさせるすばらしい舞台であった。
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