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たぶんO型(12)[オワリ]

2017-04-19 19:52:05 | 小説

卒業しして会わなくなってから再会を果たし、学校で毎日顔を合わせていた2年間よりも楽しく充実した廣津さんとの日々。僕はその生活に終わりを告げる、その覚悟があった。香川さんの「廣津をよろしく」という言葉を背に、僕は電停へ走ったが、ここには彼女の姿はなかった、あれからどの位時間が経ったのか、感覚としてよく分からなく考えを巡らすのに時間を要した。

彼女は、別れる時バタバタしてると言った、その言葉通りなら、家に帰ったか、あるいはまた千葉に戻ったか、どちらにせよ、十中八九彼女は豊端駅に向かったと思うのが妥当だろう。豊端駅方面の電車のダイヤを考慮すると、このまま走って向かったほうが早いかも知れない、しかし走って向かっても、既に別の電車に乗り換えていたら・・・?電話を掛けても出ないし、僕は一体、どの選択に賭けるのが最善だと思うべきなんだ!

その時手元の携帯電話にコールが掛かった、一瞬のうちに胸の辺りが軽くなった気持ちになったが、その電話からは男の人の声がした。

「ごめん植野君、今それどころじゃなくて、ちょっと今、廣津さんの事探してて・・・」

「やっぱり、何かあったんだね」

「えっ?」

「たまたま僕から電話掛けたんだ、廣津、なんとなく取り繕ってはいたけれど、大分寂しそうだったよ」それを聞いて、やはり自分の身勝手さをつくづく浮き彫りにさせられた、植野君は知っていたんだ、香川さんも同じこと、僕だけが、廣津さんの苦しさを知ってあげられずに、ただ自分だけが苦しんでいると思い込んで、その身勝手さをみんなに気を使わせてしまったんだ。と、ようやく今になって今更気付く。

「安藤君は知っているか分からないけど、廣津は誰にでもどんな時でも笑っているよ、言い方は悪いけど嘘も平気でつく、アシスタントの話もきっとウソだ、それは全部君の為であり、僕らの為で。でも当然、誰にだって悩みはあるし悲しいと思うこともある、廣津だって例外じゃなく、僕ら内心、彼女を特別扱いしすぎた。君はしかし、走るがいいさ、電話で聞いておいた。場所は・・・」

僕の身勝手な行動によってみんなに迷惑をかけた、心配をさせたし気を使わせた、廣津さんのアシスタントの話も彼女がついた優しすぎる嘘だったのだろうか。ともかく僕は自分が神か何かにでもなったつもりで幾らかの人たちを振り回したことになる。結局僕は最低な人間だ。

僕は植野君に教えてもらった、廣津さんが向かった場所へ向かう路面電車に乗っていた。車窓に、その場所が見えてきた、彼女はそこがよっぽどお気に入りだったと見えてファミレスの窓際の席で今もこうして路面電車を眺めている。車窓越しに店内の廣津さんとちょうど目が合った、いつもの彼女らしく笑顔で手を振ってくれるのかと期待したのだが、あろうことか彼女は席を立って逃げ出した。電停に止まり電車を降りたところから、店から逃げるようにして飛び出す廣津さんの姿が見えた。

「廣津さん!」そう名前を呼んでも、彼女の足は止まらなかった、やっとのことで腕を掴み引き止めた。翻る髪の毛の間から見える彼女の目が、赤く腫れていた。どうしたの、と口出しそうになるのをやっと堪えて、僕はまず、僕らの過ちについて弁明しないとならないのではと思い至った。

「廣津さん、あなたは何にも悪くない、あなたは優しいし、可愛らしいし、顔も綺麗だし、愛嬌があって素敵な人だ。情熱があって信念があって完璧な人だ、でも、誰がそんな事を望んだんですか、あなたが自分を犠牲にしてまで完璧でいろと、誰かが言いましたか、だとしたらそれは大いに間違っている、大馬鹿者と言っていいでしょう、そしてその大馬鹿者というのは・・・僕です。廣津さん、あなたには散々迷惑をかけました、心配もさせたかもしれません、気も使わせました。でもやっと気付いたんです、遅くなりましたけどやっと気付けたんです、廣津さんも僕らと同じなんだって」

自動車や歩行者が行き交う中で、廣津さんは僕の目だけをしっかりと見てより一層目の回りを濡らしていた。それを両手で拭いながら言った。

「ごめん、この間ペットが死んじゃって、思い出して・・・」この期に及んでまだ嘘を吐こうとする彼女を、僕は憂いた。しかし今の僕にはもう分かる、彼女の顔に僕の言葉が響いているのを見ることができる。もう僕はこれ以上彼女を悲しませたくない、彼女の悲しい涙を見るのは、今日で最後にしなくちゃならない。僕には勇気も自信もないが、ただこれだけは、今言うべきなのかもしれない、確信ではないがただ一つだけ・・・。

「僕、廣津さんの事が好きなんです。・・・あっ、ごめんなさいでも、聞いてください、こんな時に馬鹿かもしれません、でも僕は廣津さんが好きです、好きだから、全部知りたいんです貴方のことを」廣津さんは顔を紅潮させるとも疑っているともとれない表情で僕の瞳をじっと見ていた。僕は並々ならぬ緊張を感じていた。

「廣津さん、全部隠してる、一緒に漫画描いてるのに、何一つ教えてくれないです。そうやって笑って誤魔化してばかりで、そりゃ確かに、僕だって悪いかも知れない、でもどうして、分からないですよ」

「ほら、安藤君だって隠してたんじゃない、私のこと好きだって、おあいこじゃない」

「そうです、でも今日言いました、だから廣津さんも」

「駄目だよ、まだ隠してることあるでしょ、安藤君にも安藤君の隠し事がある、私も一緒」

「廣津さん、僕困ります」

「えっ?」

「廣津さんがそういう風に、嘘ばかりついて、人を困らせまいとすると、僕は苦しくてしょうがないんですよ。廣津さん人を困らせたくはないんだったら、全部話して」

廣津さんはびっくりして両手で顔を覆う。ごしごし、と顔を上下に拭って、空を仰いだ。

「弱いとこ突くんだな、安藤君、凄い。凄いなぁ。」

廣津さんはその場では涙をこらえたが、その後すぐに僕の家に来て感も極まって静かにポロポロと泣いた。僕は廣津さんを、もっともっと声を上げて泣かせてあげようとその時思った。

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